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エネイブルが英国牝馬史上初の快挙、サトノダイヤモンドは悲願ならず/凱旋門賞回顧

2017年10月03日 12:00

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 現地10月1日、フランス・パリ近郊のシャンティイ競馬場で第96回G1凱旋門賞(3歳以上牡牝、芝2400m)が行われ、英国の3歳牝馬エネイブルが前評判通りの素晴らしい走りを見せて優勝を果たした。日本から挑戦したサトノダイヤモンド(牡4、栗東・池江泰寿厩舎)とサトノノブレス(牡7、栗東・池江泰寿厩舎)は、それぞれ15着と16着。日本競馬界悲願のG1凱旋門賞制覇は今年も叶わず、その厚い壁にはね返されるかたちになった

 今年のG1凱旋門賞は日本の2頭のほかに、フランス、イギリス、アイルランド、ドイツの16頭を加えた18頭が出走(うちG1ウィナーは13頭)。その顔触れはG1を4連勝中のエネイブルを筆頭にして、G1エクリプスSとG1英インターナショナルSを制した英国のユリシーズ、仏二冠を達成した3歳馬ブラムト、前哨戦G2フォワ賞を快勝したドイツのチンギスシークレット、昨年のG1凱旋門賞で1~3着までを独占したアイルランドのA.オブライエン厩舎は管理馬5頭を送り込むなど、今年の欧州芝2400m路線のNo.1を決めるにふさわしい顔ぶれとなった。

 レースは、カプリがやや出遅れたものの、そのほか17頭はほぼ横一線でスタート。すぐに一団となった馬群はオブライエン厩舎のアイダホが先導し、断然人気のエネイブルはすぐに好位2番手へ。ユリシーズがエネイブルの直後でこれをマークし、サトノノブレスもペースが遅くなるのを避けるように好位の一角におさまり、これまで後方からの末脚勝負で結果を残してきたブラムトも前目の位置につける。R.ムーア騎手が手綱をとるオブライエン厩舎のウィンターは昨年のファウンド同様にすぐにインコースへ進路を取って中団に構え、13番枠から出たC.ルメール騎手とサトノダイヤモンドは他の馬に揉まれるのを避けるように馬群中団の外側のポジションを選択した。

 向こう正面に出る手前でオブライエン厩舎のオーダーオブセントジョージがエネイブルの前に割って入るように外から2番手にポジションを上げ、エネイブルは3番手となったが、鞍上のL.デットーリ騎手は動じない。そのまま淡々とレースは流れ、最終コーナー手前からG2フォワ賞の時と同じようにチンギスシークレットが中団の外からゆっくりと進出を開始。サトノダイヤモンドもそれを追ってポジションを上げ、直線の攻防を迎えた。

 アイダホとオーダーオブセントジョージの外へ持ち出したエネイブルは、楽な手応えのまま2頭に並び掛け、残り400mでスパートする。この馬の素晴らしいところは、最後の直線を向いたところで他の馬たちを一気に引き離すことができる瞬発力と、渋った馬場でもその末脚を繰り出せるパワーを持ち合わせていること。今回も先頭に立つとその持ち味を遺憾なく発揮し、すぐさま後続との差を広げてアッサリと勝負を決めた。最後は馬群の中団から伸びた2着クロスオブスターズが差を詰めたものの、2 1/2馬身の着差以上にエネイブルの強さだけが目立つ結果となった。

 サトノダイヤモンドとサトノノブレスは中団で最後の直線を迎えたが、ともに伸びきれずに15着と16着でゴールイン。サトノダイヤモンドについてルメール騎手は「G2フォワ賞と同じぐらい馬場が悪くて、反応が遅かったです。リラックスして走ってくれましたが、最後は疲れていました。序盤から馬場をずっと気にしていて、これほど深い馬場は日本では経験できないです。4コーナーではスムーズに上がっていきましたが、最後はいつもの瞬発力を使えませんでした」と語り、池江泰寿調教師も「テンから走りにくそうで、やはり馬場が合わなかったですね。状態面に関してはベストに近いところで、フォワ賞の時よりは良かったと思います」と、ともにSouple(重馬場)に悪化した馬場を敗因に挙げた

 優勝したエネイブルは、昨年11月のデビュー戦(オールウェザー8ハロン)に勝利し、2戦目となった今年4月の条件戦でこれまでで唯一の敗戦(3着)を喫している。この時に勝ったのは、エネイブルと同じアブドゥラ殿下が所有し、J.ゴスデン厩舎のシャッタースピードだった。

 続く5月10日のチェシャーオークス(芝11.5ハロン)からデットーリ騎手とコンビを組んで快進撃が始まるのだが、その日が今年のG1凱旋門賞の最初の登録締め切り。さすがの陣営もこの時点で後の活躍を予想することができず、G1凱旋門賞には12万ユーロ(約1600万円)の追加登録料を支払っての出走となっていた。

 チェシャーオークス優勝後はスノーフェアリー以来14頭目となる英愛オークスのW制覇を達成し、7月29日のG1キングジョージ6世&クイーンエリザベスS(芝12ハロン)では古牡馬を打ち破って優勝。史上4頭目の3歳牝馬による優勝の快挙を成し遂げた。そして、8月24日のG1ヨークシャーオークス(芝12ハロン)も圧勝し、満を持してG1凱旋門賞に臨んでいた。

 ゴスデン調教師とデットーリ騎手のコンビは2015年のゴールデンホーンに続いてのG1凱旋門賞制覇で、デットーリ騎手は1995年のラムタラ、2001年のサキー、2002年のマリエンバードと合わせて、凱旋門賞史上最多の5勝目。

 馬主のアブドゥラ殿下のレーシングマネージャーを務めるT.グリムソープ氏は、エネイブルのこの後について「まだ決まっておらず、来年も現役に残るかは、近いうちに関係者で協議して決めたい」としたが、ゴスデン調教師は、「エネイブルが現役にとどまり、ロンシャン競馬場で行われる来年のG1凱旋門賞も制して、2つの異なる競馬場で偉業が達成できれば、素晴らしい」と意欲を示しており、今後の動向が注目される。

 英国調教の牝馬が勝つのは史上初の快挙。2011年以降は牝馬による活躍が顕著で、2011年のデインドリーム、2012年のソレミア、2013、14年のトレヴ、昨年のファウンド、そして今年のエネイブルと、ここ7年で6勝となった。

(サラブレッドインフォメーションシステム 伊藤 雅)