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【凱旋門賞】専門家3名の見解

2019年10月05日 12:55

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【木村拓人(馬三郎)の見解】
 月並みな話となってしまうが、最大の注目は「エネイブルが3連覇を達成できるか!?」という点。結論を言えば、その可能性は限りなく高いだろう。

 昨年の秋からここまで、エネイブルとの直接対決で敗れているクリスタルオーシャン(引退)、マジカル、ヴァルトガイスト。この3頭は、エネイブルがいないレースに出走した時はほぼ勝利を収めており、3頭が直接対決した場合でもほとんど他馬に先着を許していない。

 となれば、古馬勢の力関係はやはりエネイブルが断然、と考えるのが自然の流れ。状態面も、昨年は膝の故障があって難しいローテーションを余儀なくされたが、今年は順調にシーズンを過ごせている。重箱の隅をつつく材料すら見当たらないのが、今年のエネイブルだ。

 ではどうする。エネイブルを負かすならば、という視点で考えるならやはり3歳勢。特に、昨年エネイブルを追い詰めたシーオブクラスのような3歳牝馬がいれば第一候補となるのだが、今年は残念ながら参戦なし。ならば、牡馬のソットサスジャパンの2頭が注目される。負かすならば一瞬の切れ味があるタイプだろう。

 前走のニエル賞を勝った今年の仏ダービー馬ソットサスは、シユーニ産駒で筋肉量豊富な体形。気性もやや荒めの印象だが、直線で前が壁になって抜け出せない場面から一瞬の脚で一気に先頭に立ち、そこから後続を突き放した爆発力が魅力だ。仏ダービー(芝2100m)では2分2秒90というコースレコードをたたき出して勝っているが、それまでのレコードはトレヴが仏オークスで出した2分3秒77。一気に短縮したそのタイムも脅威なのだが、凱旋門賞を2連覇したトレヴの記録を破ったことも価値があると考えている。

 もちろん時計が全てではないが、この仏ダービーは人気馬が上がって行くところを楽に追走し、直線でもあっさりと突き放す格の違いを見せつける内容だった。それに時計的な価値も加味すれば、例年なら1番人気になってもおかしくないポテンシャルを秘めていると考えられる。距離はギリギリに見えるため、あまりタフな馬場になると少々割引が必要だろうが、オープンストレッチの使用と少頭数となったのも、この馬にとっては追い風。打倒エネイブルの一番手と見る。

 ジャパンは前走の英インターナショナルSで、先に触れたクリスタルオーシャンを下した3歳馬。上記3頭に先着した馬は、古馬も含めてこの馬だけだ。勝負強さが最大の持ち味だったクリスタルオーシャンを、ゴール前で交わした走りは確かに強かった。英ダービーでは3着に敗れたが、その後に3連勝と力を付けており、負かした相手関係を考えればこちらを上位に評価する声もあるだろう。

 ただ個人的には、ジャパンの持ち味は切れ味よりは長く使える脚と見ており、それはエネイブルも同じ。となると、地力勝負で同タイプのエネイブルを負かさなければならず、そこまでの力があるかを考えると、逆転候補というまではどうか。人気を見ながら検討していきたい。

 古馬勢ではヴァルトガイスト。昨年はエネイブルに続く2番人気に支持されたが、直線で狭くなる場面もあって4着。その後のBCターフと香港ヴァーズでも5着と敗れており少し評価を落としたが、BCターフは馬場、香港は状態が本当ではなかったと考えていい。

 今季初戦のガネー賞では、この凱旋門賞でも穴候補に挙げられているガイヤースを負かしての勝利。プリンスオブウェールズS、キングジョージではエネイブル、クリスタルオーシャン、マジカルには先着できずの連続3着だが、この馬に不向きな重い馬場で4着以下を離していることから、力量的には古馬の最高峰レベルにある。

 今年も昨年と同じくフォワ賞を勝っての参戦で、その内容は昨年よりも余裕を感じさせるものだった。乾いた馬場ならば当然の上位評価が必要だし、重くなったとしても極端に評価を落とすのは早計。案外リピーターが来ると言われる凱旋門賞。昨年4着からの浮上も十分にあり得る。

 マジカルは馬場が重くなれば浮上も、ベストは2000mか。人気も予想されるため、個人的には軽視の方向だ。ガイヤースはドイツのバーデン大賞を14馬身差で圧勝して、ここに駒を進めてきた。ただ、その時のタイムは2分30秒08。3走前のアルクール賞では2000mを2分2秒87で最後の100mを流して勝っているものの、ガネー賞ではヴァルトガイストに完敗。時計が掛かってこそのタイプか。

 日本勢では、最も適性がありそうなブラストワンピース。ニューマーケットでバリバリと乗り込まれており、馬が音を上げていないか心配はあるが、3頭の中では欧州の馬場に一番適しているだろう。日本と同じコンディションで出走できれば好走も。

 フィエールマンは雨馬場になるとマイナスだが、少頭数とオープンストレッチの使用はプラスに働く。キセキは前哨戦の内容で一気に評価を落としたが、体調面では3頭の中で一番良さそうな気配。折り合いがカギだが、うまくはまればの期待はできそうだ。

【土屋真光の見解】
 エネイブルの3連覇なるか、否か。それは言い換えれば、歴史を打ち破るか、繰り返すか、ということにもなります。

 凱旋門賞の歴史を紐解くと、データ面ではエネイブルに“ネガティブ”なものばかりが続きます。

 まず、3連覇そのものが前代未聞であること。これまでに2連覇をしたのはエネイブルのほかに6頭いますが、3連覇はいません。

 そして5歳牝馬の勝利は、1937年のコリーダにまでさかのぼる必要があります。牡馬を含めても5歳馬の勝利は2002年のマリエンバードにまで遡る必要があり、さらにその前となると1988年のトニービン、そして1975年のスターアピールと、過去50年でも3頭しかいません。

 さて、ここで思い出していただきたいのが、4年前の凱旋門賞。1番人気で臨んだのが3連覇を狙う5歳牝馬トレヴでした。そのトレヴ、前年は不振から見事復活しての連覇で、3連覇を賭けたこの年は、一転3戦無敗で凱旋門賞に駒を進めたのでした。誰もが磐石だと思っていましたが、結果は4着。勝ったのは他でもない、現在エネイブルを管理するジョン・ゴスデン厩舎の3歳牡馬ゴールデンホーンでした。

 歴史は果たして繰り返すのか。

 ただ、データを掘り下げると違う側面も見えてきます。エネイブル以前に2連覇を達成した馬で、3連覇に臨んだのは、実はトレヴただ1頭で、他の5頭はすべて連覇の年を最後に引退しています。さらに、エネイブル、トレヴのほかに牝馬で連覇を達成したコリーダは、前述のように5歳牝馬としても勝利を収めています。

 そもそも、5歳の有力馬が凱旋門賞に挑むということ自体が稀なケースで、日本のように5歳秋まで当たり前に有力馬が皆現役を続ける文化であれば、これまでの結果も大きく異なっていたように思われます。

 また、トレヴにしても、5歳の3連勝時に破った相手で強敵といえばフリントシャーぐらいで、今年のエネイブルと比較すると、若干格落ちだったように思えます。

 と、前置きが長くなりましたが、やはりエネイブルが1番手。12頭立てなら紛れも少なく、仮に負けたとしてもトレヴのように複勝圏を外すようなことは考えられません。今年破った相手はクリスタルオーシャン、マジカルヴァルトガイストなどなど。さらにレース当日は雨が予想され、渋った馬場のほうがいいこの馬にはさらに追い風となります。3連覇が磐石、とまでは言いませんが、かなり濃厚であることは間違いありません。

 このエネイブルを負かすとすれば、対戦成績なども加味すると、ソットサスジャパンの2頭の3歳馬に、ゴドルフィンの刺客ガイヤースの3頭に絞られます。

 データから考えると、3歳2頭が有力に思われますが、ソットサスはゆったりと使うことで結果を出しているJC.ルジェ厩舎の中2週。ジャパンは前走クリスタルオーシャンを負かしましたが、早めに抜けたクリスタルオーシャンを徹底マークしてのもので、多少展開の利があったのに加えて、渋った馬場での競馬にまだ若干疑問符がつきます。このことからソットサスは馬場状態に関わらず3番手評価、ジャパンはグッドからグッドトゥファームの際にヒモ相手評価で、渋った場合は評価外とします。

 そこで2番手には、上がり馬ガイヤースとします。前走のバーデン大賞は14馬身差の圧勝。結果的に相手関係に恵まれたという見方もできますが、勝ち時計2分30秒08は、良馬場であることを踏まえても、このレースとしては出色のタイムです。パリロンシャンの渋った馬場も経験済みで、もちろん良馬場も歓迎。我慢比べに持ち込めば、打倒エネイブルのシーンも不思議ではありません。

 4番手にはヴァルトガイスト。今年の敗戦は英国に遠征してのもので、“キングジョージ”でのエネイブルとの2馬身差は評価に値するものです。良馬場希望ですが、地元パリロンシャンなら多少渋ってもきっちり上位に食い込めるでしょう。

 良馬場なら同じように評価したいのがマジカルです。ヨークシャーオークスではエネイブルに完敗でも、愛チャンピオンSではゴールを過ぎても伸びていたように、エネイブル以外にはひけをとりません。

 渋った馬場で評価するなら、ソフトライトナガノゴールドです。ともに終いの伸びが身上のステイヤー。後方から無欲の追い込みで上位が期待できます。

 日本馬では、先週金曜日の調教の動きがよかったブラストワンピースがどこまでやれるか、という印象です。キセキはジャパンCのようなレースを陣営はあまり考えていない様子、フィエールマンもやや物足りなさを感じたので、それぞれ無印とします。

【市丸博司の見解】
 過去10年の結果を見れば一目瞭然。牝馬か3歳馬しか勝ったことがない。しかも、勝った3歳馬6頭のうち、3頭は牝馬である。すなわち、過去10年で考えると、7割の確率で牝馬が勝つレース。残りの3割は3歳牡馬。59.5キロを背負う古馬の牡馬は2着までと相場が決まっている。

 毎年、同じことが繰り返されているのだから、基本的には逆らわないのが正解だ。凱旋門賞が近づくたびに、いつもそう思うのだが、レース直前になると、どうしても逆らいたくなってくる。そんなにうまい話ばかりはないだろうと思ってしまう。まあ、ほとんどビョーキである。穴馬病とでも言おうか。

 市丸流レーティング表をご覧いただきたい。このレート、基本的にはモノサシになる日本馬を中心に、外国馬との着差を考慮し、今回背負う斤量で補正をかけて算出している。数値に特に意味はないが、国際G1であれば102~105程度の数値で勝ち負けできるレベル、と考えていいと思う。

 トップは、当然というべきかエネイブルである。昨年は順調さを欠き、シーズン初戦にオールウェザーを1回使っただけで凱旋門賞だった。いくらでも疑いたくなる要素があり、これで1倍台の1番人気なら消したいと考えた。しかし、簡単に勝たれた。短クビ差の接戦ではあったが、もし順調だったらどれだけ離したのかと思わせる強さだった。

 実際、その後はマジカル相手にBCターフを勝った。着差は3/4馬身だったが、3着以下はさらに9馬身離してしまった。

 今年は順調。G1ばかり3戦全勝でここへ歩を進めてきた。これで12連勝。うちG1を10勝。もう、明らかに怪物である。3連覇した馬は過去にいないとか、5歳牝馬は不振とかいわれているが、「強い牝馬が3連勝を目指して5歳時にも使う」というケースがほぼなかっただけだ。

 トレヴが5歳時に4着だったことで、歴史は繰り返す的な言われ方をしているが、トレヴはエネイブルほどの怪物だったわけではない。確かに凱旋門賞連覇は強かったが、フランス国内でしかG1を勝っていないし、結構取りこぼしもあった。地元イギリスのほか、アイルランド、フランス、アメリカと、どこへ行っても、どんな一線級と戦っても結果を残してくるエネイブルは別格と言えると思う。

 問題は2番手だが、市丸流レーティングではマジカルとなった。今年は2度もエネイブルの2着がある。昨年のブリーダーズCターフを合わせると、3度目の2着である。そして、ここが大切なのだが、昨年の凱旋門賞10着後は9戦5勝2着4回。つまり、エネイブルの2着に敗れたレース以外は6戦5勝2着1回。エネイブルさえいなかったら、この馬が天下を統一していたかもしれない。それほど、ここへ来ての充実ぶりが際立っている。

 3番手グループは3歳馬。トレヴの3連覇を阻んだのも3歳馬だった。厳しいとは思うが、もしエネイブルに土をつけるとすれば、マジカルではなく3歳馬ではないかと思える。

 まずはジャパン。英ダービーで3着に敗れて以降は、3連勝でG1連勝。明らかに力をつけている。同斤では難しいかもしれないが、斤量差を突けばエネイブルを脅かすことも可能だろう。問題はゲートが10番と外になってしまったことだが、そこは名手ムーアがなんとかしてくれると考えたい。

 次にソットサス。こちらは1番枠を引いた。ニエル賞では内に包まれてダメかと思われた位置から差して勝っている。仏ダービーも馬群で我慢して最後に外へ出しての差し切り。経験がある以上、この枠は明らかに有利だろう。

 12頭立てで断然人気が1番手だけに、馬券的にはいろいろ買えない。挙げるのはここまでにしておきたい。市丸流レーティング5位のヴァルトガイストは、今年エネイブルやマジカルに完敗しており、逆転は難しそうだ。

 日本馬は、実績的には2着や3着ならあってもおかしくない。しかし、3頭ともに古馬、それも牡馬だけに、上に挙げた4頭の一角を崩すのは厳しいのではないか。

 あくまで3着候補としてだが、血統的にはブラストワンピースだろう。デインヒルの血を引くハービンジャー産駒は、欧州に向いていると思う。ディアドラの活躍がこれを印象づけた。

 しかし、期待したいのは今年亡くなったディープインパクトの血を引くフィエールマンである。母系にフランスの血が流れているのもいい。ロマン派ではないが、2・3着づけで以上2頭の大駆けに期待してみる。

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