凱旋門賞 特別インタビューvol.01「凱旋門賞を勝たなければ、なにも始まらない」調教師 池江泰寿

調教師 池江泰寿

凱旋門賞 特別インタビューvol.01「凱旋門賞を勝たなければ、なにも始まらない」調教師 池江泰寿

取材・文:片山 良三

写真:倉元 一浩

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今年はサトノダイヤモンド(牡4歳)、サトノノブレス(牡7歳)の2頭が、日本馬初制覇を目指して凱旋門賞(10月1日、シャンティイ競馬場)に挑戦する。『JRA-VAN Ver.World』では凱旋門賞特別インタビュー第1弾として、2頭を管理する池江泰寿調教師に凱旋門賞に向けて意気込みを語ってもらった。(取材日:2017年8月17日)

「いまなら間違いなくオルフェーヴルを勝たせることができる」

8月18日に日本を出発し、オランダのアムステルダム空港を経由して現地に無事到着したサトノダイヤモンドとサトノノブレス。その前日に日本での最終追い切りが終わった直後、池江泰寿調教師に興味深いお話を伺うことができた。

「いい追い切りができました。CWコースで6ハロン81秒という時計は、ウチの厩舎の普段の追い切りと比較するとかなり負荷をかけた内容なんですよ。長距離輸送に耐えられる状態に持っていくのが一番の目的なわけですが、このひと追いでどちらも60%ぐらいには上がってきたと感じています。本番の前にフォワ賞(9月10日、シャンティイ、芝2400m、G2)を叩く予定で、その時点で70%から80%まで仕上がるのがちょうどいい。2頭とも、環境の変化や長時間の輸送に動じない強い精神力を備えていると見込んでいるわけですが、それでも20時間に及ぶ航空機による輸送なら最低でも20キロの体重減は必ずあるもの。そのあたりも計算して現時点ではだいぶ太めに作っていますが、そうしたことを全て考えても、今朝の追い切りは非常に上手くいったと思っています」

池江師は、2012年、13年と2年連続でオルフェーヴルをフランスに遠征させて、フォワ賞1着、凱旋門賞2着。同じ着順を2年続けている。100年近い凱旋門賞の重い歴史をたどっても、欧州以外の調教馬からはいまだに勝ち馬が出ていないことを思えば、"世界の2着"を2年続けたことだけでも偉業と言えるだろう。しかし池江師は、はっきりとわかる不満な表情を浮かべて、こう訴えるのだ。

「12年の凱旋門賞を取りこぼしたのは、当時の僕の若さです。いまなら間違いなく勝たせることができていたでしょう。これは自信を持って言えることです」

当時のオルフェーヴルの鞍上に起用されたのは、飛ぶ鳥を落とす勢いで欧州のトップジョッキーに登り詰めたクリストフ・スミヨン。追い切りに一度跨ってオルフェーヴルの感触を確かめると、「気難しいと聞いていたけど、これぐらいならなんの心配も要らない」と胸を張って言い放った。池江師は「今日はたまたま行儀がよかっただけ。こんなもんじゃないんだ」とさらなる警戒を求めたが、スミヨンは「誰が乗ると思っているんだい?」と、取り越し苦労を逆にたしなめてきたという。

「あのときのスミヨンの勢いに安易に妥協してしまったのが、自分の若さだった」と悔いる池江師。いまなら、オルフェーヴルが本来内面に秘めている破天荒な面をさらけ出す場面を、自信過剰な鞍上に示すシチュエーションを作り出せているという自信の裏返しでもある。

惜敗を二度喫していることもあるのだろう、凱旋門賞を「実質的な世界一決定戦ではないのかもしれませんが、調教師として一番勝ちたいレースです」とキッパリ言う池江師。悲願に到達するためのノウハウは十分に積んできた。「出国時60%、前哨戦70~80%、本番で90%以上」という仕上げの工程は、修羅場を幾度もくぐり抜けてきた指揮官でなければ言えない数字。その口調には迫力が感じられた。

まずは凱旋門賞の牙城を崩すことから

今年の凱旋門賞も、当然ながら手強い相手が揃った。海外の情報は騎手や調教師との情報交換で仕入れている「アナログ派です」という池江師だが、それにしても詳しい。インタビューの時点でサトノダイヤモンドと並ぶ2番人気に支持されていたアルマンゾルについて、「休み明け初戦(8月15日のゴントートビロン賞、仏G3)の内容があまりにも悪かったですからね。このまま引退という線もありそうです」と予言するなど、情報の精度は非常に高い。

その師が最も警戒しているのはエネイブル(牝3歳、ジョン・ゴスデン厩舎、7戦6勝)で、「キングジョージを勝った直後にルメールから電話があり、"あれは相当強い"と言っていました。3歳牝馬なので、斤量も55キロ。こちらは59.5キロですから楽ではありません」という見立て。その後、8月24日のヨークシャーオークス(英G1)も5馬身差の楽勝を演じており、これでG1を4連勝と勢いもピークだ。凱旋門賞では突き抜けた1番人気になるだろうし、サトノダイヤモンドとしても難敵に違いない。それでも、もちろん前を向く。

「本番は100%で臨む、と大見得を切りたいですが、それは狙うほど難しいんです。でも、90%以上を狙うのはいまなら難しくない。今回は自然に95%ぐらいにはなっている? はい、そう思っていてください。もちろん、僕自身がワクワクしていますよ。オルフェーヴルとサトノダイヤモンドを比較すると、爆発力ならオルフェーヴルが上位ですが、精神面の完成度をはじめ、総合力なら五分と五分。そういう馬を連れて行くわけですから、勝てる可能性は十分にあると踏んでいます」

日本の競走馬のレベルは限りなくトップクラスに近づいているというのが池江師の感覚。ただし、「それを扱うホースマンのレベルを比較するとまだ開きを感じている」とも言う。ホースマンの層の厚さ、そしてトップトレーナーたちが持っているセンスの高さに圧倒されるものを感じることがあると言うのだ。

「調教後の息遣いを手がかりとして、管理馬の体調の変化を全て感じてしまう力があるのが欧州のトップトレーナーたちです。私たちはそのセンスの高さをリスペクトしながら、まずは凱旋門賞の牙城を崩すことから始めなければいけないんです。まず凱旋門賞を勝たなければ、なにも始まらない。扉の重さは嫌というほどわかっているけど、こじ開けなければいけないと思っています」

池江師の決意は固く、熱い。

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