凱旋門賞
2022/10/2(日) 23:05発走 パリロンシャン競馬場
タイトルホルダーら史上最多の4頭で挑む日本馬、パリロンシャン競馬場のタフな馬場を克服して悲願達成なるか
日本から史上最多の4頭が遠征して初制覇への期待高まる2022年の凱旋門賞だが、ゲートが開く前から戦況が二転三転して波乱の様相を呈している。夏までに有力候補が次々と脱落し、一時はタイトルホルダーが前売り1番人気に躍り出たが、無敗馬バーイードが参戦を示唆すると状況は一変。前向きな態度を見せていた有力陣営が保留に転じる一方、バーイードが回避を決めるや勝算ありと再び舞い戻り、除外馬が出るほどの盛況となった。各陣営の思惑が交錯して迎える勝負の行方は予断を許さない。
凱旋門賞で日本調教馬を毎年悩ませるのが当日の馬場状態だが、今年も良馬場は望めそうにない。凱旋門賞で使用するパリロンシャン競馬場の大回りコースは現地28日朝の計測で重馬場。その後も天気はハッキリとせず、凱旋門賞を控える週末にはまとまった雨があるという。
もしそうならば、昨年は道悪に泣かされたディープボンドにとって厳しい状況。ニエル賞で脚元を気にしていたというドウデュースは、友道康夫調教師が水分ではなく馬場の凹凸が原因とコメントしているものの、道悪で踏み荒らされた状態でのレースは歓迎できないだろう。両馬に関しては少しでも雨量が少ないに越したことはない。
一方、ステイフーリッシュは2020年に重馬場の京都記念でクロノジェネシスの3着、2021年には不良馬場のAJC杯でモズベッロに先着の4着と、名うての道悪巧者を相手に差のないレースをしている。クロノジェネシスは極悪馬場の昨年に見せ場を作って7着、凱旋門賞で2着に善戦したステイゴールド産駒も道悪を克服しており、自身の海外実績も合わせて計算はできそうだ。
そして、前売りでも高い評価を受けているタイトルホルダーだが、国内では稍重までしか経験がなく適性は全くの未知数。重厚感ある母系、半姉のメロディーレーンに重馬場の勝ち鞍があり、こなしても何ら不思議はない。ただ、海外でのレース経験がなく、世界の名手が集う大一番にあって鞍上の経験も浅い。やはりスムーズに先行できるかが鍵だ。
日本調教馬が実力を発揮できたとしても、強敵となる馬は五指に余る。その中でも、まず敬意を表すべきは前年の覇者トルカータータッソだろう。凱旋門賞は連覇こそ難しいものの、リピーター傾向が強めのレースでもあり、優勝という確たる実績は強力。昨年の凱旋門賞は「ワールドトップ100 G1レース」の首位に輝きレベルも非常に高かった。
こうした観点から、2年連続で参戦する馬たちにも上位争いの可能性はある。とりわけ昨年は仏ダービーから休み明けで5着のシリウェイが侮れない。また、クロノジェネシスとは短アタマ差のバブルギフト(8着)、さらに1馬身1/4差のアレンカー(9着)も、日本のトップホースとの比較上、軽視できない存在になる。
この他の古馬勢では、目下G1レース5連勝中の5歳牝馬アルピニスタ、前走のバーデン大賞でトルカータータッソを破ったメンドシーノが非常に不気味。トルカータータッソは昨年8月のベルリン大賞でアルピニスタに完敗し、その2戦後に凱旋門賞を制した。また、アルピニスタとメンドシーノは同11月のバイエルン大賞で対戦があり、当時は3/4馬身差でアルピニスタが勝利している。アルピニスタは今年のサンクルー大賞を強烈な末脚で制すなど馬場不問、メンドシーノはトルカータータッソと同じアドラーフルーク産駒で道悪巧者。両馬とも裏街道視されるドイツで主なG1実績を築いてきたため、今回は試金石と見る向きもあるが、昨年のトルカータータッソがまさにそのタイプだった。
日本でもおなじみのミシュリフとグランドグローリーにも上位争いの力がある。ただ、ミシュリフは芝もダートもこなし、2410mのドバイシーマクラシックも勝っている万能型だが、どちらかといえば平坦な良馬場志向。一方、グランドグローリーは道悪を苦にしない。前走のヴェルメイユ賞(7着)は展開が向かなかったもので、タイトルホルダーら強力な先行馬もいる今回は、末脚が生きる流れになりそう。シャフリヤールと互角に戦える実力があれば、少なくとも日本馬たちのライバルになり得るだろう。
近年は古馬に押され気味だが、歴史的に優勢な3歳馬にも楽しみな素材がそろった。前売り1番人気のルクセンブルクは今回が初の2400mだが、凱旋門賞から逆算して鍛え上げてきた陣営の迷いのない姿勢に好印象を受ける。前走のアイリッシュチャンピオンSで接戦を演じたオネストも、凱旋門賞と同舞台のパリ大賞を制しており適性に疑いの余地はない。
一方、ヴァデニは愛チャンピオンSで両馬に後れを取ったうえ、当初は英チャンピオンSを次戦に予定していた。ルクセンブルクと同様に今回が初の2400mだが、こちらはバーイードを避けた次善の策とも思える。ただ、2100mの仏ダービーを5馬身差で圧勝し、当時は5着のオネストにも6馬身余りの差をつけた。それから300m延びるだけなら距離をこなしても不思議はない。オネストやミシュリフとともに、昨年並みに馬場が悪化した場合は直前での回避も示唆しており、いろいろと条件付きなのは気になるところだが。
愛ダービーを7馬身差で圧勝したウエストオーバーも起死回生を狙っている。次戦のキングジョージでは大敗したが、序盤から力み通しのうえブルームにも絡まれ続けて消耗した。同じジャドモント所有のワークフォースが英ダービー勝ちからキングジョージで大敗し、凱旋門賞に直行して巻き返した2010年の前例もあり、前走の結果だけで見限れない。
最後に、馬から人へ視点を移せばマレオーストラリスとアルハキームにも注目。凱旋門賞の優勝馬はほとんどがトップトレーナーによって輩出されている。マレオーストラリスは歴代最多の8勝を誇るA.ファーブル調教師の管理馬で、昨年は凱旋門賞の舞台より300m短いG1ガネー賞を勝った。その後に1年近く休養したが、今年6月には2400mのG2シャンティイ大賞でバブルギフトやメンドシーノらを一蹴している。前走のサンクルー大賞では大敗も、これまでに3馬身以上の差で負けたのは左回りのサンクルー競馬場のみ。右回りで変わり身があるかもしれない。
また、アルハキームは2年前にソットサスで凱旋門賞を制したJC.ルジェ調教師が管理。前走のG2ギヨームドルナノ賞で重賞初制覇を飾ったばかりだが、その前の仏ダービーでは大外から豪快な末脚でオネストに先着している。当時の2番人気はヴァデニ(3番人気)よりも高く、早くから素質を評価されていた。
(渡部浩明)