【凱旋門賞回顧】無敗の凱旋門賞馬誕生!スルーセブンシーズは直線で追い込み見せ場作る

2023年10月02日 11:30

 現地時間10月1日、フランス・パリロンシャン競馬場で凱旋門賞(GⅠ、芝2400メートル)が行われた。

 例年、雨に見舞われて重い馬場状態になる事の多い凱旋門賞。しかし、今年はレース前も好天が続き、当日も快晴で最高気温は27度。馬場の含水量を元に硬軟を数値化したペネトロメータの数字は3・3。近年稀にみるかための馬場での開催となった。

 現地で人気になったのはエースインパクト(牡3歳、仏・JC・ルジェ厩舎)。今年の仏ダービー(GⅠ)勝ち馬で、デビューからここまで5戦5勝の負け知らず。枠順は真ん中の8番。切れる脚を武器に末脚勝負するタイプなので、良馬場も好材料と思えた。

 唯一の不安材料は2400メートルの経験がない事。しかし、この馬の主戦のクリスチャン・デムーロ騎手は一笑にふして言う。

 「とにかく末脚が凄くて、追えば追うほど伸びる感じなので、2400メートルはむしろ歓迎だと思います」

 パドックではかなりイレ込み気味になり、騎手を乗せるのも後回しにしていたが、ゲートが開くといつも通りの走り。後方から虎視眈々と先団を見る競馬を演じた。

 日本から唯一参戦したのがスルーセブンシーズ。同馬はレース前、日本では少々うるさいシーンを見せる事があるものの、パリロンシャンでは落ち着いた素振り。パドックの周回を重ねる度に気合いが乗っていったが、それでもこの馬としては落ち着いている方。管理する尾関知人調教師は言う。

 「日本だとトレセンでスイッチが入ってしまいます。でも、こちら(フランス)では、環境のせいか、ずっとリラックスしています」

 そんなスルーセブンシーズだが、序盤はエースインパクトと似たような後方の位置で、インのラチ沿いを追走。これに関し、手綱を取ったクリストフ・ルメール騎手は次のように語った。

 「本当はもう少し前で競馬をしたかったけど、スタートがあまり良くなくて、後方からになりました」

 その後、道中の様子について、続ける。

 「少しハミを噛んでしまいました」

 他の有力勢では、キングジョージ6世&クイーンエリザベスS(GⅠ)の1、2着馬、すなわちフクムが2番手で、ウエストオーバーはその一列後ろ、4~5番手のインを追走した。更にドイツダービー馬のファンタスティックムーンが中団の外、ハーツクライ産駒のコンティニュアスはそのイン。そして、その後ろの内がスルーセブンシーズで外がエースインパクト。そんな態勢で馬群はフォルスストレートを駆け下りた。

 直線に向き、先頭に立とうかというフクムをかわし、ウエストオーバーが先頭に躍り出る。しかし、その時、大外へ持ち出されたエースインパクトが、一気に先頭との差を詰めて来た。更にその僅かに内をオネストが伸びる。

日本調教馬としては2013年以来の5着以内と善戦したスルーセブンシーズ。(Photo by Kazuhiro Kuramoto)

 そんな時、もう1頭、馬群の中を縫うように進出する馬がいた。

 スルーセブンシーズだ。

 最後は大外から伸びたエースインパクトがいつも通りの強襲劇で、一気に先頭に立つと、2着ウエストオーバーに1と4分の3馬身の差をつけてゴール。勝ち時計は2分25秒50と速いモノになった。

 人気薄のオネストが3着で、そこから1と4分の1馬身差の4着がスルーセブンシーズ。勝ち馬エースインパクトからは約3馬身の差。

 「ちょっと掛かった分、速い反応が出来なかったけど、最後はまた伸びてくれました。久しぶりの競馬が2400メートル戦というのは楽ではないけど、本当に良く走ってくれました」

悔しさをにじませながらも内容には満足感をみせる尾関知人調教師。(Photo by Kazuhiro Kuramoto)

 スルーセブンシーズに騎乗したルメール騎手がそう言えば、尾関師は次のように語った。

 「この馬の持ち味の素晴らしい末脚には、自分の馬ながら良く頑張ってくれたと感じました。勝てなかった悔しさもあるけど、良く走ってくれたという気持ちもあります。この経験をまた今後に活かしたいです」

 こうして、稀にみる高気温の中、行われた凱旋門賞は幕を閉じた。

取材・文:平松さとし