【ムーランドロンシャン賞回顧】ゴートゥファースト失速11着も「挑戦続ける」、伏兵サーランG1初制覇
2025年09月08日 11:00
欧州マイル路線の主要レースの一つであるG1ムーランドロンシャン賞が9月7日、パリロンシャン競馬場1600m芝で行われ、ジャックルマロワ賞5着から引き続き挑戦した日本調教馬のゴートゥファースト(牡5=栗東・新谷功一厩舎)は12頭立ての11着に敗れた。
日本では重賞勝ちの実績もなく、前走時ではレーティングもついていないほどの“格下”だったゴートゥファーストだが、そんな低評価を十分に覆したと言っていいジャックルマロワ賞の5着善戦。1着馬から約3馬身差とレース内容も良く、この勢いでさらなるアップセットを期待されたが、やはり欧州G1の壁は分厚いものだった。
仏リーディングジョッキーのマキシム・ギュイヨン騎手を鞍上に迎え、JRA発売オッズで9番人気のゴートゥファーストは好スタートからちょうど中団、先頭からはおよそ10馬身差の外を追走。フォルスストレートから最後の直線に入り追い出し態勢に入ったものの、もうこの時点でゴートゥファーストに脚は残っておらず、失速してのフィニッシュとなった。
レース後、ギュイヨン騎手は「スタートも良く、道中はリラックスして走ることができ、ロンシャンの馬場も問題なくこなしていましたが、最後の直線では思ったほど脚が残っていませんでした」とコメント。また、新谷調教師には「距離が長かった」とも報告していたようだが、トレーナーはパリロンシャン競馬場のコース形態と、やはり馬場が敗因だったと捉えている。
「コース形態と、思ったよりもあの馬にとっては馬場が緩かったのかなと思います。スタートしてから少し上りがあって、ずっと下っていく中でうまくエネルギーを溜めることができなかったことが最後の直線の失速に響いたのかなと思います」
レース前の雰囲気は良く、「期待していた」というだけにこの結果は残念だが、それでもこのチャレンジ自体に大きな意味があると新谷調教師は語る。
「チャレンジしないと分からないこともたくさんあるので、今回ゴートゥファーストはこういう負け方をしましたが、この経験がまた新谷厩舎の礎の一つになってくれると思います。今後、ほかの馬でも海外を目指すにあたっていい勉強になりました。またチャレンジを続けていきたいと思います」
新谷厩舎は開業2年目に早くもクラウンプライドでUAEダービーに挑戦し、これが海外初遠征での重賞初制覇となるなど、海外競馬には積極的な姿勢を見せている。トレーナーが語ったように今夏のヨーロッパでの経験はきっと、これからの大きな糧となっていくはずだ。
一方、今年のムーランドロンシャン賞を制したのは、ミカエル・バルザローナ騎手が騎乗した地元フランスの3歳馬サーラン(牡3=仏・F.グラファール厩舎)。JRA発売オッズでは単勝8番人気16.5倍の伏兵だった。道中はゴートゥファーストのすぐインに構えて脚を溜めると、最後の直線で末脚を全開。先に抜け出したアルカントール(牡4=仏・A.ファーブル厩舎)、ザライオンインウィンター(牡3=愛・A.オブライエン厩舎)を差し切り、さらに後方から追い込んできた2番人気ロザリオン(牡4=英・R.ハノン)の追撃を封じてG1初制覇を飾った。
サーランは今年初戦のG2フォンテーヌブロー賞で2着となるも、続くG1仏2000ギニーで9着と大敗。続く準重賞の聖パトリック賞でも6着と春は低迷していたが、約1カ月半の間隔をあけて出走した前走8月10日のG3ダフニス賞で復活の重賞初制覇。その勢いのままG1のビッグタイトルも手にした。立て直し効果とひと夏の成長曲線がバッチリと合ったということだろう。今後、欧州マイル路線を担う1頭としてますますの上昇を期待したい。
なお、短アタマ差で惜敗したロザリオンは今シーズン3度目のG1レース銀メダル。3着にはザライオンインウィンターが上がった。
また、この日はアークトライアルデーとして、凱旋門賞の前哨戦であるG1ヴェルメイユ賞、G2フォワ賞、G2ニエル賞が本番と同じ2400m芝で行われ、日本から参戦したビザンチンドリーム(牡4=栗東・坂口智康厩舎)がフォワ賞を優勝。凱旋門賞に向けて最高の船出となった。
オイシン・マーフィー騎手を背にビザンチンドリームは道中、後方から4番手のインを追走。最後の直線は馬群を割って進出すると、昨年の凱旋門賞4着馬ソジー(牡4=仏・A.ファーブル厩舎)を半馬身突き放してゴールした。
「ジョッキーも上手く乗ってくれて、いい勝ち方をしてくれたと思います。凱旋門賞となるとメンバーも馬場も違うと思いますので、まずはしっかりと調整して本番に臨みたいと思います」とレース後の坂口調教師。
これで8月16日のG2ギヨームドルナノ賞を制したアロヒアリイ(牡3=美浦・田中博康厩舎)に続き、凱旋門賞を目指す日本馬がフランスの重賞を連勝。9月13日(土)のG1アイリッシュチャンピオンステークスに出走するシンエンペラー(牡4=栗東・矢作芳人厩舎)、14日(日)のG3プランスドランジュ賞に出走するクロワデュノール(牡3=栗東・斉藤崇史厩舎)もこれらに続く快走で日本馬旋風を巻き起こすか。世界のホースマンたちから日本馬へ向けられる注目もますます高まっていきそうだ。
文: 森永淳洋