【愛チャンピオンS回顧】「何が何だか…」シンエンペラーまさか6着、3歳ドラクロワ完勝でG1・2勝目

2025年09月14日 11:10

 欧州10ハロン路線の主要レースの一つ、アイリッシュチャンピオンステークスが現地時間913日(土)、アイルランドのレパーズタウン競馬場2000m芝で行われ、昨年に続き日本から参戦したシンエンペラー(牡4=栗東・矢作芳人厩舎)はJRA発売オッズで3番人気に支持されていたものの、8頭立ての6着に敗れた。

 昨年は海外初遠征で現地でも注目度はそれほど高くなかったが、そんな低評価を覆す3着に善戦したシンエンペラー。ゴール前で鋭く詰め寄ったレース内容も高く評価され、それでいて状態としては78割だったという。さらに、このレース以降はジャパンカップ2着、サウジアラビアのG2ネオムターフカップ1着と実績を積み重ねてきた。加えて、4歳で凱旋門賞を制したソットサスの全弟という血統から成長力も見込めるだろう。ならば、昨年3着以上の結果を期待するのは当然だった。

 それだけに「まさか」と言っていい大敗。昨年とは対照的に、見せ場なく後退した最後の直線からゴールにかけてのシーンは日本のファンにとっても、そして陣営にとってもショックは大きい。

「言葉がないですね。去年よりはるかに状態はいいと思いましたし、返し馬自体も瑠星は『すごくいい』と言っていたので、何が何だかよく分からないです」

 レース直後のインタビューでそう答えた矢作調教師。百戦錬磨のトレーナーですらこの“凡走”には困惑気味だった。

 坂井瑠星騎手を背に、レースはハナをうかがう勢いで飛び出す好スタート。ここからエイダン・オブライエン厩舎のリードホースであるマウントキリマンジャロを先に行かせて、最終的には3番手のインを追走。いつものように頭がやや高い走法ではあるが、鞍上との折り合いもリズムも問題なく運んでいるように見えた。

 この位置取りに関しては「理想のポジション」と矢作調教師。実際に手綱をとった坂井騎手も「行く馬も隊列も全て予定通りで、イメージ通りでした」と語っている。そして迎えた4コーナーから最後の直線入り口。各馬が仕掛けてペースアップしていく中、さあシンエンペラーもここから伸びるぞ、と思われたが、むしろ早くも置かれ気味となってしまう。直線に入っても昨年繰り出したような末脚は影をひそめたまま、6着でのゴールとなってしまった。

「状態もすごく良かったと思いますし、落ち着きもあって競馬の感じも悪くなかったのですが、結果だけが残念でした」

 坂井騎手はレースをこう振り返った。状態に関しても矢作調教師とは見解が一致しており、自信を持って臨める態勢だった。だからこそ、なぜここまで走れなかったのか――それも師匠同様に現時点では「分からない」という思いでいっぱいだろう。だが、これが“力負け”では決してないことを今は信じたい。ジョッキーは次戦への展望をポジティブに語った。

「ちょっと今日は走り切れなかったですけど、去年の走りを見てもこんなはずではないと思いますので、また期待してほしいなと思います」

 予定通りならば、次走は昨年同様のローテーションで凱旋門賞(105日、パリロンシャン競馬場2400m芝)へ挑戦することになる。「あくまで馬の状態を見て判断したいと思いますが、プランを変える気は今のところないです」と矢作調教師。

 兄ソットサスは愛チャンピオンS4着から巻き返して凱旋門賞を制覇した。シンエンペラーもこのひと叩きで覚醒し、パリロンシャンでは偉大な兄を彷彿とさせる快走を見せてくれることを願うのみだ。

 一方、今年の愛チャンピオンSを制したのはJRA発売でも単勝1.9倍、断然の1番人気に支持されていたドラクロワ(牡3=愛・A. オブライエン厩舎)だった。

 負傷療養中のライアン・ムーア騎手から乗り替わって、クリストフ・スミヨン騎手を迎えた道中はシンエンペラーから約2馬身後方、5番手の外を追走。4コーナーから積極的に仕掛けていくと、直線入り口ではインをすくってアッという間に先頭に躍り出る驚くべきスピードを見せた。これまでの走りからすると先頭に立つのが早いかとも思われたが、2着の2番人気アンマート(せん7=英・O.バローズ厩舎)以下をまったく寄せ付けずに完封。危なげない完勝で720日のエクリプスステークスに続く2つめのG1タイトルを手にした。

 このレースには当初、エクリプスS820日の英インターナショナルステークスでしのぎを削った、現在世界最高レーティングを持つオンブズマンの出走も有力視されていたが、1018日の英チャンピオンステークスを目標にするとして回避。1つ年上の最大のライバルが不在の中、ドラクロワは下馬評通り、期待通りの走りを見せたわけだ。

 これでドラクロワは今年の欧州10ハロン路線ではオンブズマンと並んでG12勝目。直接対決でも11敗だけに、決着をつける3度目の頂上決戦=ラバーマッチの実現をぜひとも期待したい。

文:森永淳洋