凱旋門賞 2023/10/1(日) 23:05発走 パリロンシャン競馬場

日本馬挑戦の歴史JAPANESE HISTORY

1969年のスピードシンボリが初めて凱旋賞に出走して以来、日本調教馬のチャレンジは半世紀、50年余りの年月を費やしてきた。その歴史は海外遠征のノウハウが確立されていなかった20世紀、日本調教馬の遠征機会が飛躍的に増していった21世紀とで明確に異なっているが、どちらも2着が最高で優勝という最良の結果を残せていない。

20世紀の遠征はスピードシンボリからエルコンドルパサー(1999年)までのちょうど30年間で4頭に過ぎなかった。1972年のメジロムサシを除き欧州に長期滞在し、現地の環境に順応を図りながらの戦いだった。そうした中で2桁着順の完敗が続いたが、フランスに拠点を置いたエルコンドルパサーは、サンクルー大賞で前年の凱旋門賞馬サガミックス、カルティエ賞年度代表馬ドリームウェルらを撃破してG1制覇を飾るなど、欧州の強豪たちに一歩も引けを取らない実績を築いて本番に駒を進めた。

優勝候補に挙げられる中で凱旋門賞に臨んだエルコンドルパサーは、日本では体験できないような不良馬場をものともせず果敢に逃げを打った。直線で後続を突き放し、勝利も予感させた最後の数完歩で愛・仏ダービー馬モンジューに捕まり1/2馬身差で涙を飲んだものの、凱旋門賞制覇を夢から現実的な目標に変える激走は、日本の競馬関係者に大いなる刺激を与えた。

2000年を跨ぎ21世紀を迎えると遠征の頻度は一気に上がり、長期滞在から直前の現地入りへと渡航手順も変化していった。当初は現地の受け入れ態勢の不備や輸送トラブルなどもあり、敗北と引き換えに一つずつ課題を消化する状態だったが、2006年になると前年に無敗のクラシック三冠を達成したディープインパクトが名乗りを挙げ、優勝への期待は最高潮に達した。

ところが期待は一転、信じられないような光景とともに失望へと堕ちていく。国内では豪快な末脚で並ぶことさえ許さないディープインパクトが、凱旋門賞では地元の3歳馬レイルリンク、そして牝馬のプライドと、G1レース1勝に過ぎなかった馬たちに相次いで差し込まれる完敗。レース後には呼吸器系治療薬の違反使用で失格となるまさかの結末を迎えた。

ディープインパクトの挑戦が失敗に終わったことにより、凱旋門賞制覇が遠のいたかに思われたが一頭の日本産馬が底力を発揮する。2010年のナカヤマフェスタは遠征前の宝塚記念でG1初制覇を飾ったばかり。3歳時に複数のG1レースを勝ち、早くから話題の中心にいたエルコンドルパサーやディープインパクトに実績は遠く及ばなかった。しかし、英ダービー馬ワークフォースと叩き合ってアタマ差の2着に激走し、1/2馬身差のエルコンドルパサーよりもさらに前進した。このアタマ差は2022年現在で日本調教馬が最も勝利に迫った記録となっている。

G1勝利数や年度代表馬などの格が重視されていた当時、ナカヤマフェスタの健闘は適性の有無を認識させる契機となった。そして2年後の2012年、ディープインパクト以来の三冠馬で、ナカヤマフェスタと同じステイゴールド産駒という、格と適性の双方を併せ持つオルフェーヴルが渡仏した。オルフェーヴルは前哨戦のフォワ賞勝ちから本番に臨むと、後方追走から大外を一気に突き抜けて勝負ありの形勢に持ち込んだ。ところが、あとわずかという所からレースを投げ出したように急失速し、一度は並ぶ間もなく抜き去ったソレミアに差し返されて2着。手にしたはずの勝利を誰もが目を疑う形で失った。

オルフェーヴルは翌年も凱旋門賞に再挑戦し、これにダービー馬キズナも加わり最強の布陣で臨んだ。しかし、オルフェーヴルは地元の3歳牝馬トレヴに完敗で2年連続の2着に終わり、キズナも大きな見せ場を作ったものの4着と及ばなかった。ただ、凱旋門賞で2頭以上の日本調教馬が5着以内でゴールしたのはこの1年しかなく、最も成功した凱旋門賞挑戦の例ということもできる。

こうして、少しずつ着実に頂上へと歩みを続けてきた日本調教馬だが、この年以降は2015年を除き毎年1頭以上が遠征しながら、ハープスター(2014年)の6着が最高と苦戦が続いている。近年はドバイやサウジ、香港で欧州勢を寄せつけないほどの活躍を披露する日本調教馬だが、欧州においては勝手が違っている。凱旋門賞は2017年以降の6回中5回で、日本とは質の異なる道悪で争われており、そうした条件が近年の不振に追い打ちをかけている可能性も考えられる。

そのような道悪に見舞われた2022年は、直前の宝塚記念をレコード勝ちなどG1レース3勝のタイトルホルダー、ダービー馬ドウデュース、ナカヤマフェスタやオルフェーヴルと同じステイゴールド産駒のステイフーリッシュ、そして前年にフォワ賞を制すなど舞台実績もあるディープボンドと、個性豊かな最多4頭の布陣で臨んだものの、タイトルホルダーの11着が最高という惨敗に終わった。

この2023年は一転してスルーセブンシーズの単騎挑戦となった。G1未勝利ながら本格化の勢いをもっての遠征。曲がり角を迎えた挑戦の歴史に楔を打ち込む走りか注目が集まる。

馬名 性齢 着順 騎手 調教師
2022 タイトルホルダー 牡4 11 横山和生 栗田徹
ステイフーリッシュ 牡7 14 C.ルメール 矢作芳人
ディープボンド 牡5 18 川田将雅 大久保龍志
ドウデュース 牡3 19 武豊 友道康夫
2021 クロノジェネシス 牝5 7 O.マーフィー 斉藤崇史
ディープボンド 牡4 14 M.バルザローナ 大久保龍志
2020 ディアドラ 牝6 8 J.スペンサー 橋田満
2019 キセキ 牡5 7 C.スミヨン 角居勝彦
ブラストワンピース 牡4 11 川田将雅 大竹正博
フィエールマン 牡4 12 C.ルメール 手塚貴久
2018 クリンチャー 牡4 17 武豊 宮本博
2017 サトノダイヤモンド 牡4 15 C.ルメール 池江泰寿
サトノノブレス 牡7 16 川田将雅 池江泰寿
2016 マカヒキ 牡3 14 C.ルメール 友道康夫
2014 ハープスター 牝3 6 川田将雅 松田博資
ジャスタウェイ 牡5 8 福永祐一 須貝尚介
ゴールドシップ 牡5 14 横山典弘 須貝尚介
2013 オルフェーヴル 牡5 2 C.スミヨン 池江泰寿
キズナ 牡3 4 武豊 佐々木晶三
2012 オルフェーヴル 牡4 2 C.スミヨン 池江泰寿
アヴェンティーノ 牡8 17 A.クラストゥス 池江泰寿
2011 ヒルノダムール 牡4 10 藤田伸二 昆貢
ナカヤマフェスタ 牡5 11 蛯名正義 二ノ宮敬宇
2010 ナカヤマフェスタ 牡4 2 蛯名正義 二ノ宮敬宇
ヴィクトワールピサ 牡3 7 武豊 角居勝彦
2008 メイショウサムソン 牡5 10 武豊 高橋成忠
2006 ディープインパクト 牡4 失格 武豊 池江泰郎
2004 タップダンスシチー 牡7 17 佐藤哲三 佐々木晶三
2002 マンハッタンカフェ 牡4 13 蛯名正義 小島太
1999 エルコンドルパサー 牡4 2 蛯名正義 二ノ宮敬宇
1986 シリウスシンボリ 牡4 14 M.フィリッペロン 二本柳俊夫
1972 メジロムサシ 牡5 18 野平祐二 大久保末吉
1969 スピードシンボリ 牡6 着外 野平祐二 野平省三