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【ベルモントS回顧】伏兵サーウィンストンが重賞初制覇 日本調教馬のクラシック制覇は来年以降に期待

2019年06月10日 16:10

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 米国三冠を締めくくるG1ベルモントステークスはニューヨーク郊外のベルモントパーク競馬場、ダート2400mを舞台に10頭によって争われた。

 G1ケンタッキーダービー3着から二冠目のG1プリークネスステークスをスキップしてここに臨んだタシトゥスが、1番人気に推され、以下、プリークネスS優勝馬のウォーオブウィルが2番人気、このレースの前哨戦となるG3ピーターパンステークスで3着だったイントレピッドハートが3番人気、4番人気は現地ではM.スミス騎手の乗るバーボンウォー(JRAは6番人気)、マスターフェンサーは現地で8番人気(JRAは3番人気)となった ばらけたスタートながら出遅れた馬はなく10頭は最初のコーナーを通過してそれぞれが、理想に近いポジションに収まった。1番枠を引いた逃げ馬ジョービアを先頭にしてゆったりとしたペースで流れた馬群は最初の800mを48秒79で通過。人気のタシトゥスは先頭から7番手、ウォーオブウィルは好位の4番手、ルパルー騎手が意識的にポジションを下げたマスターフェンサーはしんがりを追走した。

 勝負の明暗は3コーナーにかかり、スパートしたタイミングによって分かれた。タシトゥスのすぐ前に位置したJ.ロザリオ騎手のサーウィンストンが、ひと足早く内ラチ沿いにスルスルと先頭に近づき、距離を意識した有力馬の機先を制した。勢いがついたサーウィンストンは最終コーナーで逃げるジョービアと2番手を追走したタックスの外に出て並びかけると直線で脚が鈍った2頭を一気に交わして先頭。残り200mで、最内に切れ込むようにもうひと伸びして優勝した。勝負どころで遅れたタシトゥスは必死に追い上げたが、1馬身及ばずの2着。逃げたジョービアが3着に粘り、大外に回して猛追したマスターフェンサーはタックス(4着)にアタマ差まで迫る5着で入線。ファンが期待した日本調教馬による米国クラシック制覇は来年以降に持ち越されることになった。 

 ここが10戦目となったサーウィンストンは4走前のG3ウィザーズステークスがタックスの4着、3走前のG2タンパベイダービーがタシトゥスの5着、前々走のG2ブルーグラスステークスはケンタッキーダービーで12着だったヴェコマから約20馬身遅れの7着、そして、前走のG3ピーターパンステークスも勝ったグローバルキャンペーンの2着と後方に置かれて届かずという競馬を続けていたが、追込み馬には不利なはずのスローペースが逆に追走を楽にして好結果を呼び込んだ。

 G1ケンタッキーダービーで末脚を光らせたマスターフェンサーは今回は勝ち馬が仕掛けたタイミングでついて行くことが出来ずに脚を余した印象だ。「3コーナーで馬を押していこうとしたが、ペースがあがった時に置かれてしまった」(ルパルー騎手)と思惑通りとはならなかったが、直線があと50mあったら・・・という見せ場を作って勝ち馬から僅か3馬身差に善戦した。

 フルゲートになるG1ケンタッキーダービーは外国調教馬にはまだまだ敷居が高い。日本調教馬にとって、まず考えるべきは2400mのG1ベルモントSの攻略法ではないか。マスターフェンサーは出走資格を獲得した5月のG1ケンタッキーダービーから挑戦を開始して間隔を開けてG1ベルモントSに直行したが、(強行スケジュールにはなるが)前哨戦のG3ピーターパンSを挟んで経験を積んで本番に臨むパターンや、カジノドライヴの時のようにG1ベルモントS(カジノドライヴは挫石によって出走取り消し)だけに照準を定めてG3ピーターパンSから米国競馬に参戦する戦略も有効だろう。いずれにせよ今回のチャレンジが、遥か遠くにあった米国の三冠競走を手の届くところにまで引き寄せた功績は少なくなく、後に続くものに勇気を与えたことも確かであろう。

 最後のタイトルを掴んだサーウィンストンは、ワイルドカードの勝者としてケンタッキーダービー馬となったカントリーハウスや走行妨害による降着で幻のケンタッキーダービー馬となったマキシマムセキュリティへの挑戦資格を得た。サーウィンストン陣営は次走についてのアナウンスを出していないが、三冠を終えたトップクラスの馬たちは7月20日のG1ハスケル招待ステークス(モンマスパーク、ダート1800m)、真夏のダービーの異名を取る8月24日のG1トラヴァーズステークス(サラトガ、ダート2000m)、もしくは9月21日のG1ペンシルベニアダービー(パークスレーシング、ダート1800m)のいずれかへ向かう。マキシマムセキュリティはすでにG1ハスケル招待S参戦に向けてスケジュールを組んでおり、G1ケンタッキーダービーの直後に風邪をひく一幕があって、こちらも残る二冠をパスしたカントリーハウスはG1トラヴァーズSでの復帰が有力視されている。現地ではケンタッキーダービー組の優位が囁かれているが、勝ち味を覚えたサーウィンストンを交えた3頭の次走に注目が集まる。

(サラブレッドインフォメーションシステム 奥野 庸介)