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【英インターナショナルS回顧】ドゥレッツァ健闘も5着、シティオブトロイが歴史的パフォーマンスでV

2024年08月23日 11:10

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 英インターナショナルステークスが現地時間8月21日(水)、イギリス・ヨーク競馬場の2050m芝で行われ、ライアン・ムーア騎手騎乗のシティオブトロイ(牡3歳、エイダン・オブライエン厩舎)がレコードタイムの2分04秒32で優勝。日本から参戦したドゥレッツァ(牡4、美浦・尾関知人厩舎)は5着に敗れた。

 同レースはヨーロッパの中距離(10F)路線の主要G1の一つであり、今年が53回目の開催。近代競馬発祥の地イギリスからすればまだまだ歴史の浅いレースだが、勝ち馬の名前を見ると2000年以降でもジャイアンツコーズウェイ、シーザスターズ、フランケル、バーイードなど世界の競馬史に名を残すチャンピオンホースたちがズラリと並んでいる。インターナショナルステークスは今や欧州随一のハイレベルレースと言っていい。

 そんな真夏の欧州中距離王者決定戦に、今年は日本から昨年の菊花賞馬ドゥレッツァがクリストフ・ルメール騎手を背に参戦してきた。過去、日本馬が同レースに出走した例は2005年のゼンノロブロイ(2着)、19年のシュヴァルグラン(8着)の2頭のみ。ドゥレッツァが勝てばもちろん日本調教馬史上初の快挙となる。

 だが、欧州の中距離最前線の壁は想像以上に高かった。

「いつも通りスタートはちょっと遅かったけど、道中は3、4番手。馬はずっと冷静に走ってくれましたし、息も入りました。フットワークも良かったです」

 ルメール騎手がレース後に振り返ったように、各馬ばらついたスタートの中、ドゥレッツァもあまり出が良くないながらもすぐに押し上げて5、6番手の外を追走。そこから徐々にポジションを上げていくと、3番手の好位で最後の直線を迎えた。手応えも良く、逃げる形でレースを引っ張った大本命シティオブトロイにも並ぶ勢い。筆者がそうであったように、「これならいける!」と多くの日本の競馬ファンは胸を高鳴らせたに違いない。

 しかしながら、グングンと加速する英ダービー馬とは対照的にここから伸びあぐねてしまい、5着でのゴールが精いっぱいだった。

「直線に向いてからの動きも良かったのですが、ラスト300、400mぐらいから速いペースを維持することができませんでした。たぶん、休み明けでしたからフィットネスがちょっと足りなかった。このレベルではやっぱり120%のコンディションが必要です。でも、いい競馬をしてくれました。5着でしたけど、休み明けでちょっと大変でした」

 菊花賞を快勝したときのような末脚の爆発力を発揮できなかったのは休み明けの分だと分析したルメール騎手。ただ、「いい競馬でした」とも語っているように、レース全体としては悲観するような内容ではない。むしろ、天皇賞・春を15着と大敗し、その後に軽度ではあるものの右第1指骨剥離骨折を経ての復帰戦ということを考えれば、むしろよくここまで立て直したという競馬だった。

「今日はちょっと難しかったですが、ドゥレッツァは日本のG1レベルでまた勝てると思います」と、鞍上はファンに向けて前向きなメッセージも送っている。秋競馬での復活に期待が持てるレースだったと言えるだろう。

 また、今回のインターナショナルステークス挑戦は、ドゥレッツァにとって凱旋門賞を目指す上でのステップレースとしてではなく、ジャパンカップを秋の最大目標と定めた上での選択肢として実現したものだ。これまで秋の国内G1戦線へ向けた夏場の最重要ステップレースといえば札幌記念だったが、ヨーク競馬場はイギリスにしては珍しくほぼ平坦コースであり、左回りで直線が長いと来れば新潟競馬場をイメージできる。さらに、イギリスの北部にあるため8月後半でも最高気温は25度前後と札幌よりも涼しい気候だ。

 加えてインターナショナルステークスを勝てば競走馬あるいは種牡馬・繁殖牝馬としての価値が上がるだけでなく、1着賞金は約1億4000万円と高額で、同レースを勝ってジャパンカップに出走すれば最大200万米ドルの褒賞金を受け取れるチャンスが広がる。それらの条件を総合すれば、今後の日本トップホースにとっても夏場の有力な選択肢として当たり前のようにインターナショナルステークスが浮上する時代がやって来るのではないだろうか。

 尾関調教師も「残念な結果にはなりましたが、このチャレンジはわれわれだけでなく、次の日本馬の良い経験になればと思います」とコメント。2024年夏のドゥレッツァの挑戦は馬自身にとってはもちろん、日本競馬界の未来にとっても5着という着順以上の大きな成果をもたらしてくれることを願いたい。

トラックレコードで勝利したシティオブトロイとR.ムーア騎手。(Photo by Getty Images)

 一方、ドゥレッツァのおよそ10馬身前方を駆け抜ける快勝で度肝を抜いたのがJRAの馬券発売によるオッズで2.2倍、英ブックメーカー大手でも2.25倍と断然1番人気に支持されたシティオブトロイだ。

 日本でもおなじみA.オブライエン調教師とR.ムーア騎手の黄金コンビで英ダービー、エクリプスステークスなどに続き今回の勝利でG1・4勝目(通算7戦6勝)。同陣営はペースメーカーを用意していたが、好スタートを切ると構わずハナに立ち、自らペースを作って最後も後続を突き放すという圧巻の走りだった。しかも、09年シーザスターズがマークした2分05秒29を1秒近く上回るトラックレコードというのだから歴史的なパフォーマンスを披露したと言っていい。

 父が米三冠馬ジャスティファイという血統から、秋はダート2000mの米ブリーダーズカップ・クラシックへの参戦も視野に入れているというシティオブトロイ。もし実現するのであれば、BCクラシック挑戦を表明しているウシュバテソーロ、デルマソトガケ、フォーエバーヤングにとって強大なライバル出現となる。

文: 森永淳洋