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【コックスプレート回顧】「相手が強すぎた」プログノーシス3度目のG1銀メダル、衝撃圧勝のヴィアシスティーナに脱帽

2024年10月28日 10:00

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 10月26日(土)、オーストラリアのムーニーバレー競馬場2040m芝を舞台にコックスプレートが開催された。同レースは南半球オセアニアの中距離最強馬決定戦として位置づけられる、1922年創設の伝統の一戦。「伝説が生まれるレース」のキャッチフレーズ通り、オーストラリア、ニュージーランドの競馬史を代表する名馬たちが勝ち馬にその名を刻んでいる。

 日本の競馬ファンにとって思い出深いのはやはり日本調教馬として初制覇の快挙を飾ったリスグラシューの2019年。それ以来、5年ぶり2度目となる日本馬Vの期待も大きかったプログノーシス(牡6=栗東・中内田厩舎)だったが、地元オーストラリア調教馬のヴィアシスティーナ(牝6=C.ウォーラー厩舎)の前に8馬身差をつけられる完敗。2着は確保したものの、悲願のG1制覇はまたもお預けとなってしまった。

 レースは懸念された出遅れもなく好スタートを切ったプログノーシス。ゲート内では立ち上がろうとする仕草も見せたが、「ゲート練習の効果とジョッキーが慣れてくれたことで、なんとか上手くスタートを切ってくれました」と中内田充正調教師が振り返った通り、中間の追い切りにも騎乗した鞍上のダミアン・レーン騎手は初コンビのディープインパクト産駒を手の内に入れていた。

「いいスタートを切ったので無理に控える必要がなく、レース前に思っていたよりも前のポジションを取ることができました」とレーン騎手。

 その言葉通り、逃げた昨シーズンの豪州年度代表馬プライドオブジェニをハッキリと視界に捉える3番手の好位を馬なりで確保。前半こそやや行きたがる素振りを見せていたプログノーシスだったが、「いいリズムで道中を回って来れました」と日本でもおなじみの名手も納得する運びで、バックストレッチに差し掛かるころには先頭を射程圏に入れる2番手に押し上げていた。

 そして迎えた4コーナー手前、プログノーシスの手応えは依然として申し分なし。対照的に脚色が鈍ってきたプライドオブジェニを楽に捕まえ、後は自慢の末脚を爆発させるだけに見えた。

 しかし、ここから日本馬を上回る勢いで迫ってきたのが後方3番手に控えていたヴィアシスティーナ。外から豪快にプログノーシスを抜き去って最後の直線に入ると、見る見るうちに差を広げていく。ゴールまで残り50mの地点で鞍上のジェームズ・マクドナルド騎手がもう立ち上がってしまう余裕を見せるほどの圧勝だった。

 その差はなんと8馬身。勝ち馬にこれだけの競馬をされてしまってはなす術がない。

「4コーナーでは手応えも非常に良かったのですが、勝ち馬が外から来た時にはついていけなかった。プログノーシスは今日、素晴らしい競馬を見せてくれましたし、一生懸命走ってくれました。全てやり切って力を出してくれましたが、残念ながら今日は勝った馬が強すぎました」とレーン騎手は脱帽。中内田調教師も「この子なりに伸びてくれましたが、こちらが思っている以上に相手が強かった」とヴィアシスティーナの強さを称えつつ、「一生懸命走って2着を確保してくれましたし、プログノーシスは頑張ってくれたと思います」と愛馬の異国での頑張りをねぎらった。

G1制覇はまたもお預けとなったプログノーシス。(Photo by Getty Images)

 これでプログノーシスは昨年と今年のクイーンエリザベス2世カップ(香港)での2年連続2着に続き、3度目のG1銀メダル。海外G1で3度の2着は同馬が十分に世界レベルの実力馬であることを示すものだが、香港で先着を許した馬は2度ともロマンチックウォリアー、そして今回のヴィアシスティーナのあの走り。またしても相手が悪かったとしか言いようがない。

 なお、今後については「レースが終わったばかりなので、まずはプログノーシスを日本に連れて帰って、この後どうするかはまたオーナーサイドと決めたいと思います」と、中内田調教師は答えている。

 一方、最強決定戦を圧勝したヴィアシスティーナはイギリスから今年移籍してきた6歳牝馬。昨年7月のプリティポリーステークス(アイルランド)でG1初制覇を達成、続く欧州中距離の主要G1英チャンピオンステークスでも2着好走の実績を引っ提げての新天地で、さらなる大成を果たした。

 レース展開は先述した通り、道中は後方3番手追走から4コーナー捲りでの豪快V。しかも、舞台であるムーニーバレー競馬場はホームストレッチが170mほどしかないにも関わらず、その短い直線でプログノーシスを6、7馬身ほども突き放してしまったのだ。加えてマクドナルド騎手がゴールはるか手前で立ち上がって追うのをやめてしまったのに、計時した勝ちタイムはコックスプレート4連覇の名牝ウィンクスが保持していた従来のレコードを1秒87も更新する2分01秒07。見た目の内容も時計も衝撃すぎる競馬で、まさに今年は「伝説が生まれるレース」となった。

 そしてもう一つ驚いたのは、ヴィアシスティーナはレース4日前の22日(火)の追い切りで放馬してしまい、コースを2周半ほど走ってしまっていたこと。そのため陣営はレース当日の朝まで様子を見てから出走を決めるとのことだったが、結果的にそんなアクシデントや放馬の疲労を微塵も感じさせないタフネスぶりをアピールしてみせた。

 6歳牝馬と言えばすでにベテランの部類に入るヴィアシスティーナだが、本格化したのは初G1制覇を飾った5歳になってからという遅咲き。そして豪州移籍1年目にしてすでに当地でG1・3勝目、欧州時代も合わせて通算4つ目のG1タイトルとなった今回のコックスプレート。オーストラリアではメルボルンカップ3連覇のマカイビーディーヴァ、G1・15勝を含めデビューから25戦無敗で引退したブラックキャビア、先に挙げたG1・25勝のウィンクスなど、2000年以降を見ても歴史に残る牝馬が続々と輩出されている。ヴィアシスティーナは欧州からの移籍組ではあるものの、これら名牝に肩を並べる怪物牝馬へと成長していくのか。今後の活躍がますます楽しみになるパフォーマンスだったことは間違いない。

 なお、鞍上のマクドナルド騎手は2022年アナモー、23年ロマンチックウォリアーに続き、異なる馬でコックスプレート3連覇を達成した。

文: 森永淳洋