【ブリーダーズカップ回顧】フォーエバーヤング3着、2021年デルマーの再現ならずも日本馬レベルの高さ示した
2024年11月05日 10:00
アメリカ競馬の祭典「ブリーダーズカップ」が現地時間11月1日(金)、2日(土)に西海岸カリフォルニア州のデルマー競馬場を舞台に開催された。
メインレースであるチャンピオン決定戦、ダート2000mの「クラシック」では米国の3歳、古馬トップホースを相手に、日本からウシュバテソーロ(牡7=美浦・高木厩舎)、デルマソトガケ(牡4=栗東・音無厩舎)、フォーエバーヤング(牡3=栗東・矢作厩舎)が挑戦。さらに欧州からは今年の英ダービーなどGI・4勝の3歳牡馬シティオブトロイも参戦し、祭典のメインを飾るにふさわしい日・米・欧の豪華オールスター戦となった。
その中で、日本馬の最先着を果たしたのがフォーエバーヤング。このコースでは不利と言われている最内の1番ゲートから積極的に好位3番手のインから追走すると、最後の直線でいったんは先頭から離されかけたものの、最後まであきらめずに末脚を伸ばし、勝ったシエラレオーネから約3馬身差の3着でゴールした。
「ケンタッキーダービーと比べるとだいぶ落ち着きがありましたし、堂々としていて状態も素晴らしかったです。勝てなかったことは非常に残念でしたが、ベストは出して頑張ってくれたと思います」と騎乗した坂井瑠星騎手。矢作芳人調教師も「力を出し切ったレースだったので、残念ではありますが、やり切ったなという思いです」と話しており、フォーエバーヤングは100%の力を発揮した上での惜敗だった。
春の3歳王者決定戦ケンタッキーダービー、そして今回のブリーダーズカップクラシックと米国最高峰レースで続けて3着となったことで、フォーエバーヤングは世界のダート界トップ3に入る実力馬であることを示した。しかし、「1、2着馬が強かった」と矢作調教師は現状の差を認めつつも、「世界一の馬になれるようにやってきたが、今回は叶わなかった」と悔しさをにじませたようにナンバー3で満足していい馬ではない。また、1着シエラレオーネ、2着フィアースネスがともに同世代の3歳馬であることもチーム・フォーエバーヤングの炎をさらに燃え立たせている。
「またあの馬たちと戦って勝てるように、フォーエバーヤングといっしょに成長できたらと思います」(坂井騎手)
「晩成だったリアルスティールの産駒ですし、古馬になってもっと良くなっていくと思う。この世代は非常に強い世代だと思うのですが、そのトップに立ちたいという思いは変わっていません」(矢作調教師)
勝ったシエラレオーネは、ケンタッキーダービーでフォーエバーヤングと激闘を演じて話題にもなった馬。そのケンタッキーダービー2着後もベルモントステークス3着、トラヴァーズステークス3着と、GIであと一歩の成績が続いていたが、大一番で最高の栄誉を手にした。ちなみにフォーエバーヤングとは祖母(母の母)が同じDarling My Darling、つまり、いとこ同士という関係にあたる。
一方、2着フィアースネスは昨年のブリーダーズカップジュベナイルを勝った2歳王者であり、ケンタッキーダービーは15着に大敗したものの、真夏のダービー・トラヴァーズステークスではシエラレオーネを下して1着となっている。
シエラレオーネ、フィアースネス、フォーエバーヤングの同世代三つ巴がこれからの世界のダート界の中心となるか。もちろん、日本の競馬ファンが期待するのはフォーエバーヤングがライバル2頭を逆転し、頂点に立つ姿だ。
なお、川田将雅騎手が騎乗したウシュバテソーロは末脚不発に終わり10着、クリストフ・ルメール騎手騎乗で果敢に逃げたデルマソトガケは直線手前でいっぱいになり13着に敗れた。
芝2400mの「ターフ」ではローシャムパーク(牡5=美浦・田中博厩舎)が最後方から鋭く追い込みクビ差の2着に好走。一昨年の同レース勝ち馬で今年だけでGIを3勝している1番人気レベルスロマンスをあと一歩まで追い詰める奮闘を見せた。
「スローペースでちょっと引っ掛かりました。でも外からよく進んでいきましたし、間に合わなかったけど、すごく良い脚を使ってくれた。2着はすごく嬉しく思います」と手綱をとったルメール騎手。
さらにローシャムパークから1馬身半差の3着には、クリスチャン・デムーロ騎手が騎乗したシャフリヤール(牡6=栗東・藤原英厩舎)が入線。直線入り口で行き場をなくして追い出しが遅れたものの、そこから猛然と追い込み同レース2年連続3着と力を示した。「(C.デムーロ騎手は)『ゴメン』と言っていたけど、しっかり乗ってくれた。6歳になってもパフォーマンスが落ちずに来ているのは本当、馬に感謝したい」と藤原英昭調教師。また、今後については「もう1走、どこかで走らせたいですね」と意欲的にコメントした。
日本で馬券が発売された4レースのうち日本馬が出走したもう一つのレース、芝1600mで行われた「マイル」では津村明秀騎手が騎乗したテンハッピーローズ(牝6=栗東・高柳大厩舎)が4着。好スタートの2番手追走から最後の直線で先頭に立つと、ゴール手前で地元の4歳牡馬モアザンルックスに差し切られてしまったものの、あわや金星の競馬で大きな見せ場を作った。
「悔いのないレースができましたし、馬も本当に頑張ってくれました。4コーナーを回って先頭に立った時には夢を見ましたね」と津村騎手。今年春のヴィクトリアマイルでは14番人気での激走V。今回も人気は高くなく、JRA発売のオッズでも単勝6番人気にとどまったが、「GI勝ちがフロックではないことを証明できましたし、本当に良い経験をさせてもらいました。人馬ともにまだまだ成長できると思うので頑張っていきたい」と、さらに上を目指すことを誓った。なお、横山武史騎手が騎乗したジオグリフ(牡5=美浦・木村厩舎)はテンハッピーローズから1馬身1/4差の5着。
これら3レースを含め、結果として日本馬は今年のブリーダーズカップで未勝利。前回のデルマー開催である2021年にはラヴズオンリーユーが芝の女王決定戦「フィリー&メアターフ」を、マルシュロレーヌがダート女王決定戦「ディスタフ」を制し、日本調教馬として初めてブリーダーズカップを勝利するという歴史的な1日となったが、残念ながらその再現はならなかった。
しかしながら、ダートと芝のチャンピオンディスタンスである「クラシック」、「ターフ」で3着以内の上位に合わせて3頭が入線。さらに「マイル」ではあわやの4着、「ディスタフ」では7戦7勝オーサムリザルト(牝4=栗東・池江厩舎)がレース当日の獣医師による歩様検査で無念の出走取消とはなったものの、ダート初挑戦だったアリスヴェリテ(牝4=栗東・中竹厩舎)が末脚を伸ばして4着に善戦した。
一方でダート1200mの「スプリント」では米国馬のスピードに圧倒されたこと、また1日の2歳戦ではいずれも好結果が出なかったことなど課題はまだまだありそうだが、総じて日本馬の世界的な実力の高さを米国でもアピールできた成果があったのではないかと思う。
何より、ゲートインできなかったオーサムリザルトを含めて総勢19頭もの日本調教馬がブリーダーズカップに参戦すること自体、ひと昔前には考えられなかったことだ。2023年の8頭出走でも十分に多いと思ったが、今年はその倍以上となった。2歳、3歳、古馬が競馬の祭典ブリーダーズカップを当たり前のように目指すことで、芝もダートも日本馬のレベルはさらに高く、さらに多彩なものになっていくはず。そして、その中から新たなヒーロー、ヒロインも出てくるだろう。
2025年のブリーダーズカップも同じデルマー競馬場での開催を予定。東海岸と比べて輸送も短いことから、今年と同じくらいの大挙参戦を願いたい。そして、来年こそは「クラシック」、「ターフ」での勝利、そして2021年を超える複数の日本調教馬Vを期待したい。
文: 森永淳洋