【香港国際競走回顧】日本馬が好走も勝利には一歩届かず、2024年は海外GI未勝利に終わる
2024年12月10日 10:15
1年の国際競馬を締めくくる香港国際競走が12月8日(日)、香港・シャティン競馬場で行われ、4つのGIレースに日本からは9頭が出走。リバティアイランド(牝4=栗東・中内田充正厩舎)が香港カップで2着など日本調教馬はすべてのGIで好走したものの、勝利を挙げることはできなかった。
4つのGIレースの最後を飾るメインの芝2000m、香港カップ。日本のエース格で昨年の三冠牝馬リバティアイランドは川田将雅騎手を背に、いつものように中団やや後ろからリズム良く追走。同い年の昨年のダービー馬タスティエーラ(牡4=美浦・堀宣行厩舎)は、ダミアン・レーン騎手とのコンビ復活で2番手から積極策に打って出た。
しかし、この前と後ろからの日本馬の攻めを真正面から受け止め、かつ跳ね返したのが香港の絶対エース・ロマンチックウォリアーだった。好位4番手から先頭との差をジワジワ縮めていくと、直線で早めに抜け出したタスティエーラを残り200m付近で難なくパス。外からはリバティアイランドが勢いよく伸びてきたもののグンと加速したロマンチックウォリアーはこれを寄せ付けず、鞍上のジェームズ・マクドナルド騎手がゴール前で後ろを振り返る余裕さえ見せつける1馬身半差のVだった。
この香港最強馬のパフォーマンスに川田騎手も「リバティアイランドが気持ち良く走れるようにというのをメインに競馬を組み立てて、強い勝ち馬を意識して、馬体を合わせないように少し離れたところから捕まえに行くというプランでした。ただ、並ぶところまで持っていけなかったのは、やはり香港の偉大なチャンピオンの1頭ですから、全力で挑めたことをありがたく思います」と脱帽。ただ、天皇賞・秋まさかの13着から今回は自慢の末脚が戻っており、復調をアピールする内容でもあった。中内田調教師も「自分の競馬はしてくれた」と納得の表情で語るとともに「この経験がまた先に活きてくるんじゃないかと思っています」と来シーズンでの逆襲を誓っていた。
また、タスティエーラは最後まで粘って3着。天皇賞・秋2着に続く好走で、こちらも完全復調したと見ていいだろう。レーン騎手も「日本ダービーの時から精神面と力の面で成長を感じました」と話しており、来年のさらなる飛躍が楽しみだ。
一方、ロマンチックウォリアーは今回の勝利で昨年10月から香港、日本の安田記念、豪州のコックスプレートと3カ国を股にかけての7連勝、GIだけでも6連勝となった。しかも、この香港カップ3連覇は史上初、さらに香港の春開催で行われる国際GIクイーンエリザベス2世カップでも史上初の3連覇を達成しており、まさに香港競馬界に金字塔を打ち立てたことになる。来春はダートのサウジカップ、ドバイワールドカップの中東遠征も視野に入れていると地元メディアで伝えられており、もし実現すれば大きな注目になると同時に、日本のフォーエバーヤングとの対決が見られるかもしれない。
芝1600mのマイルでは、秋のマイルチャンピオンシップで初GI制覇を飾ったソウルラッシュ(牡6=栗東・池江泰寿厩舎)が勢いそのままに国内・海外GI連勝を狙って参戦。ジョアン・モレイラ騎手を背に道中後方待機から鋭く追い込んだものの、先に抜け出した地元のヴォイッジバブルに1馬身1/4届かず無念の2着だった。
「ちょっと外枠の分、厳しかったかなという印象です」とレースを振り返った池江調教師。好位のインからソツなく立ち回った勝ち馬に対し、外を終始回らざるを得なかった分の差が最後まで響いたか。ただ、「最後はすごい脚を使って伸びてきたと思っています」と称えており、日本のマイル王の力はアピールした。
その一方でもったいなかったのが、今年のNHKマイルカップの勝ち馬である次世代マイル王のジャンタルマンタル(牡3=栗東・高野友和厩舎)。道中はヴォイッジバブルのすぐ外の3番手で絶好位と思われたが、最後の直線で他馬と接触する不利があり失速してしまった。また、秋は熱発があり予定していたレースを使えず、7カ月ぶりの競馬が海外遠征というのも経験が浅い3歳馬には厳しかったか。高野調教師も「仕上がりは良いと思ったのですが、結果的には間隔があいていて、トップオブトップのレースとなると少し足りていなかったかもしれません。敗因はまた改めて探っていきます」と話しており、来年の立て直しに期待したい。
芝2400mの香港ヴァーズでは、今年の桜花賞馬ステレンボッシュ(牝3=美浦・国枝栄厩舎)が道中最後方から4コーナー大外を捲って進出。直線でいったん先頭に立つ場面はあったものの最後は脚が上がってしまい、勝ったジアヴェロット、2着ドバイオナーの英国馬2頭に差され3着に後退した。
結果はあと一歩だったが、見せ場は十分。しかも紅一点の3歳牝馬ながら初の国際GIで古馬の世界レベルを相手に善戦したのだから未来は明るい。桜花賞V以来のコンビとなったモレイラ騎手も「素晴らしい走りでした。不運な枠だったためにラチ沿いのポジションを取れませんでしたが、彼女の今日のパフォーマンスを誇りに思います」と称賛。その一方で国枝調教師は「強い競馬をしたのですが、3着という事でやはり残念。これが彼女の実力ではないと思うので、またチャンスがあれば遠征に行きたいなと思います」と満足はしていない。それだけステレンボッシュの器は大きいということだ。
なお、日本から参戦したもう1頭のプラダリア(牡5=栗東・池添学厩舎)はクリスチャン・デムーロ騎手とのコンビで果敢に逃げたものの、11着に敗れた。
また、芝1200mの香港スプリントでは日本発売のオッズでも単勝1.1倍の断然人気を集めた香港馬カーインライジングがGI初制覇を達成した。これで通算11戦9勝、敗れた2戦はいずれも2着のパーフェクト連対。香港は歴史的に短距離馬のレベルが高く、これまでにも多くの名スプリンターを輩出してきたが、また新たなスプリントスターが誕生したようだ。
一方、日本馬ではサトノレーヴ(牡5=美浦・堀宣行厩舎)が3着に好走したが、トウシンマカオ(牡5=美浦・高柳瑞樹厩舎)は9着、秋のスプリンターズステークスを制したルガル(牡4=栗東・杉山晴紀厩舎)は11着と、2頭ともゲートの出遅れが響いてしまった。
今回、日本馬は香港国際競走4つのGIレース全てで馬券に絡む活躍だったが、結果的には勝てなかったことで、2024年の日本調教馬による海外GI挑戦は残念ながら未勝利に終わった。日本馬が海外GIを勝てなかったのは2018年以来、6年ぶり。また、昨年3月にドバイシーマクラシックを制したイクイノックス、同じくドバイワールドカップを勝ったウシュバテソーロから海外GI制覇が遠ざかっているため、日本馬は随分と長い間、海外ビッグレースを勝てていないようにも感じてしまう。今年の遠征結果を物足りないと思うファンもいるだろう。
だが、春の中東、米国ケンタッキーダービー、秋の欧州、オーストラリア、米国ブリーダーズカップ、そして暮れの香港と、1年を通して場所や条件を問わず何頭もの日本馬が上位に好走。1着こそなかったが、芝・ダートともに総合的な日本馬のレベルの高さを世界にアピールした中身の濃い1年だったとも言えるだろう。未勝利だった今年の分まで、来年は世界中の競馬場で勝利を挙げる日本馬たちの姿を見られることを願いたい。
文:森永淳洋