【ドバイワールドカップデー回顧】芝の日本馬の強さ再び世界に証明、フォーエバーヤング疲労困憊の3着
2025年04月07日 14:00

世界の春競馬の祭典、ドバイワールドカップデーが現地時間4月5日(土)にメイダン競馬場で開催された。
国内はもとより海外からも大きな注目を集めていたのが、メインレースの2000mダート、ドバイワールドカップに出走した日本のフォーエバーヤング(牡4=栗東・矢作芳人厩舎)。前走のサウジカップではダートに参戦してきた芝の世界最強の一角、香港のロマンチックウォリアーとの歴史的激闘を制し、今シーズン現時点での世界最高レーティング128を獲得。また、昨年のドバイワールドカップを8馬身半差で圧勝した地元UAEのローレルリバーが回避したこともあり、JRA発売分での単勝オッズはなんと1.1倍、まさに“1強”としてレースを迎えていた。
ところが、である。
「前回120%の力を出してくれたなかで、そこまではいかなくても今回は勝ってくれるかな、というところでしたが……。もちろん、全頭がフォーエバーヤングを倒しにくると思っていましたし、他の馬の動きも想定内でしたが、ポジションをキープするのが精いっぱいで、今日のところはあれ以上できませんでした」

レース後、主戦の坂井瑠星騎手が振り返った。好スタートを切ったもののダッシュが思ったほど利かず、道中は4番手のポジション。序盤からフォーエバーヤングを目掛けて地元馬のインペリアルエンペラーが外から馬体を被せながらポジションを上げていき、さらにその直後、今度は米国のカトナが同じように外から馬体をピッタリ併せに行こうとするなど、さながらフォーエバーヤング包囲網とも言うべき道中の攻防となった。
本来のフォーエバーヤングならばいとも簡単に跳ね返せていただろう。だが、「ゲートを出てから全く進んでいかず、ずっと押し続けた結果、あのレースになりました」と坂井騎手。他馬の動き・展開というよりも、フォーエバーヤング自身がサウジカップほどの出来になかったということか。
そして、手応えの悪さは3コーナー過ぎからも表れてしまう。鞍上の手が激しく動き、それでもなかなかエンジンに火がつかないまま、先に抜け出したランフランコ・デットーリ騎手の米国馬ミクストとの差は縮まらない。ジワジワと伸びてはいるのだが、ロマンチックウォリアーを逆転したサウジの末脚再現まではいかず、逆に後方に構えていた芦毛の米国馬ヒットショーにまとめて差されてしまい、無念の3着に終わった。坂井騎手はレース後の馬の様子を「ヘトヘトで歩くのがやっとという感じでした」とも話しており、さすがのフォーエバーヤングも疲労困憊だったのだろう。
「残念以外の何物でもないです。調教師も騎手もまだまだ力が足りないということで、またやり直したい。馬・スタッフともに一生懸命やった結果なので、これを受け止めて次に繋げたいと思います」と、悔しさをにじませながらも前を向いた矢作調教師。坂井騎手も「今回はあの馬の力を100%出せていないので、また秋に強いフォーエバーヤングをお見せできればと思います」と力強く巻き返しを誓った。
史上初となる同一年でのサウジカップ、ドバイワールドカップの中東W制覇はならなかった。だが、フォーエバーヤングの世界制覇の旅はまだ始まったばかり。秋の米国へ向け、今回の敗戦と悔しさを糧にもうひと回り、ふた回りもパワーアップするフォーエバーヤングの帰還を待ちたい。
なお、同じく日本から参戦した菅原明良騎手騎乗のウシュバテソーロ(牡8=美浦・高木登厩舎)はラストランで6着、川田将雅騎手騎乗のウィルソンテソーロ(牡6=美浦・高木登厩舎)は7着、三浦皇成騎手騎乗のラムジェット(牡4=栗東・佐々木晶三厩舎)は9着。
勝った米国の5歳牡馬ヒットショーはJRA発売では単勝9倍人気の伏兵で、これが嬉しいGI初勝利となった。

日本のエースが敗れる波乱の結末から1時間前、芝1800mのドバイターフでもロマンチックウォリアーが敗れるという波乱が起きていた。世界の競馬シーンから見れば、まさかのアップセット。しかし、日本の競馬ファンからすれば会心の勝利。昨年のJRA最優秀マイラー、ソウルラッシュ(牡7=栗東・池江泰寿厩舎)がハナ差の接戦をモノにしたのだ。
ロマンチックウォリアーの前に3着と屈した昨年6月安田記念の借りを返す一撃。善戦マンの印象が強かったソウルラッシュだが、6歳秋のマイルチャンピオンシップで初GIタイトルを手にしたのに続き、明け7歳となってさらに成長力を開花させたかのような海外GI初制覇、しかもあのロマンチックウォリアーを倒したのだから素晴らしいとしか言いようがない。
また、「二の脚がつかないので、そこだけ気を付けてロマンチックウォリアーを射程圏に入れながらレースを進めてほしいと思っていました」という池江調教師の狙い通りのポジションからレースを組み立てたクリスチャン・デムーロ騎手の腕もさすがのひと言である。
なお、同じく日本から参戦した武豊騎手騎乗のメイショウタバル(牡4=栗東・石橋守厩舎)は5着、クリストフ・ルメール騎手騎乗のブレイディヴェーグ(牝5=美浦・宮田敬介厩舎)は7着、川田将雅騎手騎乗のリバティアイランド(牝5=栗東・中内田充正厩舎)は8着に敗れた。

歓喜に沸いたドバイターフに続き、2410m芝の準メイン、ドバイシーマクラシックでも日の丸がはためいた。昨年の日本ダービー馬、ダノンデサイル(牡4=栗東・安田翔伍厩舎)が中団から鮮やかに差し脚を繰り出し、2着のフランス4歳せん馬カランダガンにおよそ1馬身差をつけてゴール。文句なしの完勝だった。
レース直後の馬上インタビューで「ベリーベリーホース! ベリーベリーハッピー!」と、流行語大賞にもノミネートされそうな独特フレーズで喜びを爆発させた戸崎圭太騎手。「日本ダービーと同じレースができれば」と考えていたそうだが、その通り、インの中団でジッと脚をためて直線で末脚を全開。まさに昨年のダービーを見ているかのような運びで、世界の2400m芝戦線トップの1頭へと躍り出た。
今後に向けては「日本に無事に帰ったときのコンディションを見て様々な選択肢を考えていきたいと思います」と安田調教師。国内戦か、再び世界の舞台へと目を向けるのか。ダービー馬のさらなる飛躍へ、その選択が今から楽しみだ。
そして、今回の結果で日本馬のシーマクラシックは通算6勝目、ターフは通算7勝目。芝レースで3勝を挙げた2月のサウジに続き「日本の芝ホースは強い」ということを改めて世界に知らしめるドバイワールドカップデーでもあった。
なお、シーマクラシックに参戦した他の日本馬は、クリストフ・スミヨン騎手騎乗のドゥレッツァ(牡5=美浦・尾関知人厩舎)が3着、C・ルメール騎手騎乗のチェルヴィニア(牝4=美浦・木村哲也厩舎)が6着、坂井騎手騎乗のシンエンペラー(牡4=栗東・矢作芳人厩舎)が7着だった。

また、JRAで馬券が発売されたもう一つのレース、ドバイゴールデンシャヒーンは単勝9番人気、地元UAEの3歳せん馬ダークサフロンが優勝。日本から参戦した戸崎騎手騎乗のクロジシジョー(牡6=栗東・岡田稲男厩舎)は4着、オイシン・マーフィー騎手騎乗のアメリカンステージ(牡3=栗東・矢作芳人厩舎)は6着、L・デットーリ騎手騎乗のリメイク(牡6=栗東・新谷功一厩舎)は10着だった。
文:森永淳洋