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【香港チャンピオンズデー回顧】タスティエーラが世界の舞台で復活、リバティアイランドに悲劇

2025年04月28日 16:30

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 1日のうちに2000m芝、1600m芝、1200m芝と3つのカテゴリーでGIレースが実施される春の香港競馬最大の国際イベント、香港チャンピオンズデーが427日(日)、シャティン競馬場で開催された。

 メインの2000m芝で行われたクイーンエリザベス2世カップには3頭の日本馬が出走し、ダミアン・レーン騎手騎乗のタスティエーラ(牡5=美浦・堀宣行厩舎)が優勝。一昨年の日本ダービー以来、111カ月ぶりの勝利を手にした。また、日本馬は同レース7勝目となった。

 2022年~24年まで3連覇を果たしたロマンチックウォリアーが不在の今年、JRA発売分のオッズでは1番人気が昨年のGIジャパンカップにも参戦したキングジョージ6世&クイーンエリザベスSの勝ち馬ゴリアット(せん5)で3.5倍。以下、タスティエーラ3.9倍、リバティアイランド(牝5=栗東・中内田充正厩舎)4.2倍、プログノーシス(牡7=栗東・中内田厩舎)5.1倍と続いており、戦前の下馬評はゴリアットvs.日本馬という図式となっていた。

 レースは外枠から好発を決めたタスティエーラがスッと好位4番手の外をリズム良く追走。一方、川田将雅騎手騎乗のリバティアイランドは後方2番手、ジェームズ・マクドナルド騎手を鞍上に迎えたプログノーシスは最後方で脚を溜める隊列となった。スローペースでレースが進む中、向こう正面でまず動いたのはリバティアイランド。すぐ前にいたゴリアットをパスし、4コーナー手前ではタスティエーラの直後までポジションをアップ。ゴリアット、プログノーシスも並ぶように4コーナー大外から一気に押し上げてきた。

 勝負どころでレースが大きく動く中、タスティエーラは抜群の手応えのまま馬なりで先頭へと並びかけると、残り300m手前でレーン騎手が満を持しての追い出し。このアクションに応えてグンと加速し、後続を1馬身、2馬身と突き放して堂々の先頭に躍り出た。外からプログノーシスが自慢の末脚を伸ばすものの2着争いが精いっぱい。タスティエーラは余裕すら感じさせる走りで1馬身3/4差の完勝を収めたのだった。

「この馬はまさにスターです。道中は行きっぷりも良く、直線に入ってからはゴールまで集中力を切らさずにこの馬の特徴であるタフな長い脚を使ってくれました。昨年の12月に騎乗したときより、力がついてきた印象でした」(レーン騎手)

 一昨年、レーン騎手とともに3歳馬の頂点に立って以降は勝ち鞍に恵まれず、特に古馬との対戦になってからは苦戦が続いた2023年のダービー馬。だが、昨秋のGI天皇賞(秋)で久々に連対を果たす2着に好走すると、初の海外遠征となった暮れのGI香港カップでも3着。上昇気流を再びつかんだところで完全復活のGI2勝目を国際レースで飾ってみせた。

「タスティエーラは昨年の香港カップで3着でしたので、馬場と環境の変化に対応できると考えてこのレースをターゲットにしました」

 そうコメントしたのは、2017年ネオリアリズム以来の同レース2勝目となった堀調教師。一時はスランプに陥ったダービー馬を立て直し、また馬の適性を見極めて復活の舞台を用意した手腕はさすが日本を代表するトップトレーナーの一人である。そして、ダービーに続く大仕事をやってのけたレーン騎手に対しても「彼は私たちの厩舎の最高のメンバーの一人です」と賛辞を惜しまなかった。

 45日のGIドバイシーマクラシックでは1つ年下のダービー馬・ダノンデサイルが、やはり強い内容でGI2勝目を挙げたばかり。“強い日本ダービー馬”を続けて世界にアピールできたことは国内の競馬界、そして日本の競馬ファンにとってこれ以上なく嬉しい結果となった。

リバティアイランドが左前脚に故障を発生し、予後不良、安楽死の処置となった。(Photo by Shuhei Okada)

 ただ、この日はつらいニュースもあった。タスティエーラと同期の三冠牝馬リバティアイランドがゴール手前で左前脚に故障を発生し、競走を中止。獣医師の診断により予後不良、安楽死の処置となったことが所属するサンデーサラブレッドクラブの公式ホームページで発表された。起きてほしくない、あまりにも悲しい結末となってしまった。

カーインライジングがチェアマンズスプリントプライズを制して連勝を12に伸ばした。(Photo by Shuhei Okada)

 3つのGIレースの中でオープニングレースとなったチェアマンズスプリントプライズでは、1頭のパフォーマンスに世界中が度肝を抜かれることになった。通算1412勝、GIレース4勝を含め目下11連勝中の香港馬カーインライジング(せん4)。JRA発売分の単勝オッズでもなんと1.1倍の断然支持を集めており、その走りに注目が集まっていた。

 道中は5番手を追走。そこから“安全運転”とばかりに他馬と距離を離しながら、4コーナーも大外を旋回。最後の直線に向くと、騎手の軽い指示に反応したカーインライジングはあっという間に1頭だけ突き抜けてしまったのだ。その後方からサトノレーヴ(牡6=美浦・堀宣行厩舎)が懸命に追いかけるも差は縮まらず、2着争いを制してのゴール。“次元が違う”とはこのことを言うのだろう、日本の新スプリント王者をまるで子ども扱いにするスピードだった。

 悔しい結果となったが、「サトノレーヴは素晴らしい走りでした。おそらく世界最高のスプリンターとぶつかってしまいましたが、2着をキープすることができましたし、彼のパフォーマンスにはこれ以上ないくらいに満足しています」と、高松宮記念に続いて手綱を握ったジョアン・モレイラ騎手は2着にも納得のコメント。

 一方、カーインライジングの主戦を務めるザック・パートン騎手は「これ以上、何を言うべきでしょうか? 彼は今日も特別なことをやってのけました。いい形でシーズンを締めくくることができて嬉しい」と相棒の走りを絶賛。そして、日本馬に対して「世界中を旅し、誰が相手でも挑む姿勢は称賛します」と称えつつも、「ただ、今日はカーインライジングの2番手、脇役に過ぎませんでした」という“ねぎらい”の言葉からも分かる通り、5着のルガル(牡5=栗東・杉山晴紀厩舎)、12着のエイシンフェンサー(牝5=栗東・吉村圭司厩舎)、13着のダノンマッキンリー(牡4=栗東・藤原英昭厩舎)も含め、日本馬にとっては相手が悪かったというしかない。

チャンピオンズマイルは伏兵レッドライオン(中央)が制した。(Photo by Shuhei Okada)

 また、1600m芝のGIチャンピオンズマイルは、JRA発売分で単勝オッズ89.8倍の伏兵レッドライオン(せん6)がGI初勝利。好スタートからマイペースで逃げると、最後の直線は昨年のGI香港マイルの勝ち馬で単勝1.3倍ヴォイッジバブルとの猛烈な追い比べを短アタマ差制した。昨年の同レースでも2着に来ていた実績馬ではあるものの、今シーズンは7走して3着が1回という不振。そのため、日本でもおなじみのヒュー・ボウマン騎手すら「まさか勝てるとは思わなかった」と明かしてしまうくらいのサプライズVだった。

 なお、日本から参戦したガイアフォース(牡6=栗東・杉山晴紀厩舎)は川田騎手を背に好位追走から手応え良く最後の直線に向いたものの、末脚不発で9着に終わった。杉山晴調教師は「内容としては最高の競馬をしてくれたと思います。4コーナーの手応えからすると、直線の動きは『あれ?』という感じ。敗因は明確に洋芝で雨を含んだ馬場。それに尽きると思います。ジョッキーも同じような話でした」と分析。同時に「できれば良馬場でもう一度走らせてあげたい内容でした。またチャンスがあれば来たい」と、再チャレンジを前向きに語った。

文:森永淳洋