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【香港国際競走回顧】香港“3英雄”の壁は今年も厚く…日本馬奮闘も3年連続の未勝利に終わる

2025年12月15日 16:15

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 世界のGIレースを締めくくる香港国際競走が12月14日、香港シャティン競馬場で行われ、実施されたGI・4レースに日本から7頭が出走したものの、香港カップのベラジオオペラ(牡5=栗東・上村洋行厩舎)、香港マイルのソウルラッシュ(牡7=栗東・池江泰寿厩舎)の2着が最高着順。これで香港国際競走において日本馬は3年連続未勝利に終わった。

 今年も香港の壁は厚かった。特に香港カップ、香港マイル、香港スプリントの本命として出走した3頭の地元の英雄たちはやはり強く、日本馬も懸命に食らいついたものの超えるには至らなかった。

 メインの2000m芝、香港カップには同レース3連覇中のロマンチックウォリアー(せん7=香港・C.シャム厩舎)が、JRA発売分の単勝オッズでも1.1倍の断然人気を背負って登場。対する日本馬は横山和生騎手騎乗のベラジオオペラが好ダッシュからいったん控えて、ロマンチックウォリアーを外に見る形でインの4番手、クリストフ・ルメール騎手騎乗のローシャムパーク(牡6=美浦・田中博康厩舎)は最後方から末脚勝負にかけた。

ベラジオオペラは末脚を伸ばすも先頭には届かなかった。(Photo by Kazuhiro Kuramoto)

「相手はロマンチックウォリアー1頭だと思っていたので、その後ろにいれば道は開くのかなと思っていた」と、レース後に振り返ったのはベラジオオペラの上村調教師。鞍上の横山和騎手も気持ちは同じだったのだろう。徹底マークから逆転を狙ったが、3~4コーナーにかけて7頭の馬群が密集したことで、行き場をなくしかけたのが痛かった。それでも直線入り口でやや強引に外への進路をこじ開けて、いち早く先頭に躍り出たロマンチックウォリアー目がけて末脚をグイグイと伸ばすも、あと1馬身が遠い。

「ロマンチックウォリアーには思っていたより追いつけそうで追いつけませんでした」と横山和騎手。これが香港競馬史上に残るスーパースターの底力なのだろう。ベラジオオペラは1馬身3/4差の2着、ローシャムパークは5馬身3/4差の5着に敗れた。

現役続行で日本勢との再戦も期待されるロマンチックウォリアー。(Photo by Kazuhiro Kuramoto)

 勝ったロマンチックウォリアーはこれで前人未踏をさらに更新する香港カップ4連覇の金字塔。しかも、4月ドバイ遠征後に左前脚の故障が見つかり、5月にネジ1本を埋め込む手術を経てもなお、この強さだ。

「本当に特別な馬です。まさに規格外。何と言えばいいのか分かりません……」

 勝利後、主戦のジェームズ・マクドナルド騎手は馬上で感極まった表情を浮かべていた。現役馬でありながら、すでに“伝説”の域へと入っている英雄は来年8歳を迎えるが、陣営は2月サウジカップでフォーエバーヤングとの再戦を望んでいるとの報道も出ている。これが実現すれば世界中のホースマン、競馬ファンが注目する“世紀のリマッチ”となるのは間違いない。

カーインライジングが16連勝を達成した。(Photo by Kazuhiro Kuramoto)

 このロマンチックウォリアーと並ぶ、いや、超えるかもしれない存在へとなりつつあるのが、1200m芝の香港スプリントを圧倒的なスピードで連覇したカーインライジング(せん5=香港・D.ヘイズ厩舎)だ。

 好スタートから当たり前のようにハナを切ると、後続の12頭を従えたまま最後の直線は馬場の真ん中へ。そして、鞍上のザカリー・パートン騎手が手綱を押すと、一気にギアを上げていくカーインライジング。見る見るうちに2着以下との差は広がっていき、最後の100mで追うのをやめたままゴールしたにもかかわらず、3馬身3/4差の圧勝だった。もちろんステッキは一発も入れていない。もし最後まで本気で追っていたら、着差はどこまで広がったのだろうか。しかも、これが国際GIでの出来事だというのだから信じられない強さ、速さだ。

「前走の内容から、今日はこういう結果になるだろうと分かっていました。彼は今や完全に別次元の存在です」とパートン騎手も手放しで絶賛するスプリント王者は、これで16連勝。来年、まずは香港記録であるサイレントウィットネスの17連勝の更新を狙うことになる。カーインライジングを止める馬は現れるのだろうか。

 一方、日本から参戦したサトノレーヴ(牡6=美浦・堀宣行厩舎)は中団追走から最後の直線でインを突いたものの、伸びきれずに9着。「速いペースのせいで、最後の脚をいつものように見せることができませんでした。勝った馬は非常に強いです」と、手綱をとったライアン・ムーア騎手は脱帽のコメント。ウインカーネリアン(牡8=美浦・鹿戸雄一厩舎)は、カーインライジングの後ろにつける2番手からスプリンターズSの再現を狙ったものの、最後は失速して11着に敗れた。三浦皇成騎手は「カーインライジングが相当速かったので、なんとかついて行ければという気持ちでした。結果的について行ったのが最後苦しくなってしまった原因の一つかなと思っています」と、こちらもカーインライジングのスピードに翻弄されてしまった形だ。

ヴォイッジバブルがソウルラッシュを半馬身差で退けた。(Photo by Kazuhiro Kuramoto)

 1600m芝で行われた香港マイルは、直線一騎打ちの末に香港三冠馬ヴォイッジバブル(せん7=香港・P.イウ厩舎)が連覇を飾り、ソウルラッシュが半馬身差の2着。昨年と同じ決着となった。

 ソウルラッシュの手綱を握ったクリスチャン・デムーロ騎手は「彼は最後まで果敢に戦い抜きました。一瞬勝てると思ったのですが、勝ち馬があまりにも強すぎました」とコメント。残り200m過ぎから一度はアタマ一つ抜け出したものの、最後の最後で地元馬の意地に屈してしまった。

 一方、池江調教師が「年齢のせいか本当にだんだん図太くなってきて……」と語ったように、この日のソウルラッシュは道中から押して押しての中団キープ。ゴール前もソラを使ってしまったようで、「芯から走ったというような息遣いをしていなかったです。最後に勝って引退させてあげたかったのですが、本当に日本のファンの皆さんの期待を裏切ってしまって申し訳ない気持ちで一杯です」と、悔しそうな表情を浮かべていた。

 トレーナーが語った通り、ソウルラッシュはこれで現役を引退し、来年からは種牡馬となる。有終の美を飾ることはできなかったものの、6歳にして昨秋のマイルチャンピオンシップでGI初制覇を達成し、今年春のドバイターフではロマンチックウォリアーを撃破するなど大きなインパクトを残した。生まれてくる子たちも、父のように息の長い活躍をする競走馬に育つことを期待したい。

 なお、ルメール騎手が騎乗した桜花賞・秋華賞の二冠牝馬エンブロイダリー(牝3=美浦・森一誠厩舎)は末脚が不発に終わり、11着に敗れた。

欧州勢の上位対決を制したソジー。(Photo by Kazuhiro Kuramoto)

 香港国際競走のオープニングレースとして行われた2400m芝の香港ヴァーズは、凱旋門賞3着のソジー(牡4=仏・A.ファーブル厩舎)が勝ってGI・4勝目。昨年の勝ち馬で凱旋門賞4着ジアヴェロット(牡6=英・M.ボッティ厩舎)が2着に続き、日本でもおなじみのゴリアット(せん5=仏・F.グラファール厩舎)が3着と、欧州の実力馬たちが上位を独占した。

 一方、昨年の菊花賞馬アーバンシック(牡4=美浦・武井亮厩舎)は1200m過ぎから先頭に立つ積極策を展開したものの、最後の直線ではお釣りがなくなり10着。ルメール騎手は「彼は少し怒って、掛かって、一生懸命過ぎる走りでした。一番残念なのはペースが遅かったこと」と語っており、スローペースで本来の力を出し切れなかった。

文:森永淳洋