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日本勢は苦戦… 地元の香港馬が強さ見せつける/香港国際競走回顧

2017年12月12日 12:00

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 12日10日に香港のシャティン競馬場で、日本調教馬8頭が4つのG1競走に挑戦した香港国際競走が行われた。

 この日のシャティン競馬場で最初のG1競走として行われた香港ヴァーズ(芝2400m)には、香港、英国、愛国、仏国、それに日本調教馬を含む12頭が参戦。日本からは今年のG1菊花賞馬キセキとG2京都大賞典で2着に入ったトーセンバジルの2頭が出走した。日本国内で発売された馬券では、前者が単勝2.9倍の2番人気、後者が6.4倍の4番人気。2.5倍の1番人気は2015年にこのレースを優勝、昨年も2着だった愛国のハイランドリール、3番人気は米国G1のBCターフを勝って参戦した仏国のタリスマニック(4.9倍)となり、単勝10倍以下は4頭。仏国のティベリアン(19.1倍)が離れた5番人気で続いた。

 レースは1番人気に応えたハイランドリールが優勝。前半1200m通過1:15.78の遅い流れを2番手でレースを進め、最終コーナーの手前で先頭に立つ。残り200m付近でタリスマニックとトーセンバジルが並び掛けようとしたが、2頭に迫られるとR.ムーア騎手の右鞭に応えるようにもう一段ギアをアップさせて突き放して優勝した。優勝タイムは2:26.23。後半1200mのハイランドリールの400mごとのラップタイムは、23.82秒、23.44 秒、23.15秒 。最後まで加速して、2着タリスマニックにBCターフのリベンジを果たした。

 ハイランドリールのG1での勝利は今年6月の英G1プリンスオブウェールズステークス(芝2000m)以来となる7勝目。これまで愛国、英国、仏国、米国、豪州、香港、UAEと世界各国で走り、通算成績は27戦10勝。総収得賞金は欧州調教馬の歴代最高になる751万3355ポンド(約11億2700万円、レーシングポスト調べ)に達した。この香港ヴァーズの勝利で見事に有終の美を飾り、来春からは愛国のクールモアスタッドへの種牡馬入りが決まっている。管理するA.オブライエン調教師はレース後にハイランドリールに「彼は非常に特別な馬。本当に彼に替わる存在はいない」と厩舎を支えた功労馬に賛辞を贈った。なお、A.オブライエン調教師は今年10月に米国のロバート・フランケル調教師(故人)が持っていた年間最多G1勝利数(25勝)を更新しており、その数字を27勝まで伸ばした。香港のJ.モレイラ騎手が騎乗したトーセンバジルは、馬群の中団で折り合い、直線でもしっかりと伸びて3着。世界のこの路線でトップクラスに位置する相手に健闘を見せた。

 M.デムーロ騎手のキセキはしんがりからレースを進め、前半1200mを通過してところで外を回って中団までポジションを上げたものの、直線では伸びを欠いて9着。結果的にスローペースに泣くかたちとなったが、まだ3歳。さらに成長して来年以降に再び海外のG1に挑戦してくれることに期待したい。

 続いて行われた香港スプリント(芝1200m)には、香港、仏国、米国、日本から13頭が集まり、今年10月のG1スプリンターズステークスで2、3着に入ったレッツゴードンキとワンスインナムーンの牝馬2頭が参戦。香港はスプリント路線で非常に層が厚く、これまで日本調教馬が優勝したのは、2012、13年に連覇したロードカナロアのみ。それでも日本のファンは2頭の勝利を期待し、レッツゴードンキを単勝6.2倍の3番人気、ワンスインナムーンを13.3倍の5番人気に支持した。1番人気は前哨戦のG2ジョッキークラブスプリントに勝利して重賞2連勝で臨む香港のミスタースタニング(2.0倍)、2番人気は昨年の香港スプリントで2着だったラッキーバブルズ(4.1倍)となった。

 このスプリント戦を制したのは、人気のミスタースタニングだった。スタート後から3番手の好位置につけると、一杯になったペニアフォビアとワンスインナムーンを楽な手応えのまま残り300mで交わして、そのまま押し切った。優勝タイムは1:08.40。2着に中団から外を伸びて勝ち馬に迫った7番人気の伏兵ディービーピンが続いて、このレースに4頭を出走させたJ.サイズ厩舎によるワンツーフィニッシュとなった。3着にG1スプリンターズSにも参戦したブリザード(8番人気)が入り、それ以降も5着までを地元勢が独占。香港のスプリント路線のレベルの高さを再認識されられる結果になった。レッツゴードンキはスタート後に行き脚がつかず、最後尾から出走馬中最も速い上りの脚(ラスト400mを22.76秒)で追い上げたが、6着までが精一杯。Z.パートン騎手を背に逃げたワンスインナムーンは400mを通過したところで、ペニアフォビアに先手を奪われると、直線では余力なく12着。先行争いでペースを乱されたのが響いた。

 N.ローウィラー騎手が騎乗したミスタースタニングは、今年4月のG2スプリントカップで重賞初勝利を挙げ、5月のG1チェアマンズスプリントプライズでもラッキーバブルズの2着に好走。9月からの今シーズンは初戦6着の後、G2プレミアボウル(芝1200m)とG2ジョッキークラブスプリント(芝1200m)を連勝していて、これで重賞3連勝。一躍、香港スプリント路線のトップへと駆け上がった。香港のチャンピオン調教師に7度輝いているJ.サイズ調教師にとっては初のG1香港スプリント制覇になった。

 G1香港マイル(芝1600m)には日本から3年連続の香港国際挑戦になったサトノアラジンが出走。香港、英国、愛国、仏国からの参戦馬を含む14頭で覇が争われた。サトノアラジンは2015年のG1香港カップで11着、昨年はG1香港マイルで7着に敗れたが、今年は6月にG1安田記念を制して、G1ウイナーとしての挑戦。人気は前哨戦のG2ジョッキークラブマイルに勝利したシーズンズブルームが単勝2.1倍。2番人気に前哨戦が2着だった昨年の2着馬ヘレンパラゴン(5.3倍)、差がなく3番人気に昨年の覇者ビューティーオンリー(6.0倍)、H.ボウマン騎手で臨んだサトノアラジンが4番人気(6.4倍)に続いた。

 レースはスタート後に気合をつけた香港のビューティージェネレーションが先頭のまま最後の直線へ。残り400mを切っても脚色は衰えず、逆に後続を引き離していく。中団から伸びた13番人気(282.8倍)の伏兵ウエスタンエクスプレスがゴール前で詰め寄ったが、並ぶまでには至らず、日本では6番人気(11.5倍)だったビューティージェネレーションがそのまま逃げ切りを決めた。後方にいたグループでは外から懸命に伸びたヘレンパラゴンが3着に入り、シーズンズブルームが4着、ビューティーオンリーは7着。サトノアラジンは後方2番手から最終コーナー手前で外を捲って5、6番手までポジションを押し上げたが直線で伸びるだけの力は残っておらず11着に敗れた。

 ビューティージェネレーションは10月にG3セレブレイションカップ(芝1400m)とG2シャティントロフィー(芝1600m)で軽ハンデを利して連勝。前走G2ジョッキークラブマイルで3着に敗れて連勝の勢いも止まり、初G1のここは挑戦者の立場だった。しかし、このレースの前半800m通過は47.45秒。過去5年と比べても大差がない平均ペースで行って後続を振り切っており、決して流れに恵まれての勝利ではなかった。好騎乗を見せたK.リョン騎手は昨シーズンにトニークルーズアワード(香港ジョッキークラブ騎手養成学校の出身者を対象にした最多勝利騎手賞)を受賞。29歳。今がまさに伸び盛りで、今シーズンも12/10終了時点で18勝を挙げて香港の騎手ランキングで5位につけている。

 G1・4戦の最後を飾る香港カップ(芝2000m)には地元香港のほかに、英国、愛国、仏国を含めた12頭立て。日本からは4月に香港でG1クイーンエリザベス2世カップを制したネオリアリズム、昨年3着に入ったステファノス、G2京都大賞典の勝ち馬スマートレイアーの3頭が出走した。1番人気は2015/16年シーズンの香港年度代表馬に輝き、前哨戦のG2ジョッキークラブカップを勝ってきたワーザー(単勝2.4倍)。4.4倍の2番人気にネオリアリズム、6.9倍の3番人気に前哨戦2着のタイムワープが続き、ステファノスが7.9倍の4番人気、スマートレイアーは9.1倍の5番人気だった。

 結果はここも地元香港馬タイムワープがスタートから先頭に立ち、ラスト400mを出走馬最速の22.08秒でまとめて逃げ切り。中団から追い込んだ2着ワーザーに2馬身1/4差をつける快勝だった。ネオリアリズムは勝ち馬の直後3番手につけたが、J.モレイラ騎手が折り合うまでに苦労しながらも崩れることなく3着を確保。ステファノスは直線で前をワーザーにカットされる不利があったが、後方からよく伸びて4着。スマートレイアーは2番手から勝ち馬を追ったが、突き放されて5着だった。

 優勝したタイムワープは英国で9戦5勝の成績を残した後に、香港のA.クルーズ厩舎へ移籍。香港では当初短い距離のレースで使われていたため良い結果が出ていなかったが、距離を伸ばして台頭。昨シーズン終盤に3連勝を飾り、今シーズンは重賞でも3着、2着に好走。前走のG2ジョッキークラブカップでもワーザーを相手にクビ差の接戦を演じていた。A.クルーズ調教師は2011年と2012年に連覇したカリフォルニアメモリーに続くG1香港カップ制覇で、レース史上最多の3勝目。レース後には海外遠征に意欲的なコメントを残しており、来年は香港以外でもその活躍をみることができるかもしれない。Z.パートン騎手はG1香港スプリント(2014、2016年エアロヴェロシティ)、G1香港マイル(2012年アンビシャスドラゴン、2016年ビューティーオンリー)、G1香港ヴァーズ(2013年ドミナント)をすでに制していて、この勝利で香港国際競走の完全制覇を達成。レース4日前にはハッピーバレー競馬場で行われた国際騎手招待競走ロンジン・インターナショナル・ジョッキーズ・チャンピオンシップで総合優勝を飾っていた。

 なお、香港調教馬が優勝した3つのG1の勝ち馬は、香港カップのタイムワープが北半球産の4歳馬。G1香港スプリントのミスタースタニングとG1香港マイルのビューティージェネレーションがともに南半球産の5歳馬で、3頭すべてがG1初制覇。今後の各路線の中心を担っていくであろう若い世代の活躍が目を引いた。

 香港では最近、欧州、オセアニアから2歳から重賞で活躍した馬やクラシック戦線を沸かせた馬たちが移籍してくるケースが増えており、その中で切磋琢磨してきた馬がこの香港国際競走の舞台に登場してくる。来年以降も日本の馬にとっては、強力なライバルになり続けることは間違いない。(文中の単勝オッズはすべて日本でのもの)

(サラブレッドインフォメーションシステム 伊藤 雅)