日本馬の歴史
シンボリとメジロ、先鞭をつけた名門
日本調教馬として初めて凱旋門賞に挑戦したのは1969年のスピードシンボリ。明け4歳の天皇賞・春でGI初制覇を飾り、同年の秋には渡米してワシントンDC国際に参戦するなど、実績はもちろん遠征経験も備えた、今日の日本競馬界に存在したとしても貴重な経歴の持ち主だった。そのスピードシンボリは6歳を迎えて欧州に長期滞在し、キングジョージ、ドーヴィル大賞を経て凱旋門賞に臨んだものの完敗。帰国初戦で有馬記念を制し、翌年にかけて宝塚記念、そして有馬記念とグランプリ3連勝を成し遂げたが、それほどの実力馬をもってしても歯が立たなかった。3年後のメジロムサシにとっても荷の重さは変わらず、次のチャレンジャーが現れるまで14年もの月日を待つことになる。
1986年に挑戦したシリウスシンボリは、クラシック無冠の前記2頭とは異なりダービー馬の肩書きを持ち、4歳時のキングジョージから2年にわたって欧州滞在するなど、日本の競馬史を紐解いても比類のない遠征を敢行した。しかし、1年余りの武者修行を経て臨んだ凱旋門賞には、史上最強とも評される強豪が集結。豪脚炸裂で伝説を残したダンシングブレーヴとは対照的に、その引き立て役になることも叶わず、後方2番手でひっそりとレースを終えた。
世紀末のパリに舞い降りた革命児
さらに13年の時が流れ、21世紀が目前に迫る1999年、雨に煙るロンシャンのターフで強烈な光りを放ち、見果てぬ夢と凱旋門賞をあきらめかけていた日本競馬界の目を醒ましたのがエルコンドルパサーだった。先達にならいフランス長期滞在で挑んだエルコンドルパサーは、サンクルー大賞など日本調教馬にとって高い壁だった現地の重賞を楽々と突破。優勝候補の下馬評とともに堂々と桧舞台へ駒を進めると、まさに勝利へあと一歩という激走を披露する。「世界に通用する馬作り」を掲げてジャパンCを創設し、シリウスシンボリ以降の空白期間に着実な進歩を遂げていた日本調教馬は、国内で培った自信の芽にフランスから力水をつけられ、俄然、枝葉を伸ばしていくことになる。
エルコンドルパサーの直後に続いた2頭は、レース中の負傷や輸送トラブルで実力発揮に至らなかったが、2006年には無敗の3冠馬ディープインパクトが名乗りをあげ、日本馬が宿願を果たす時とばかりに期待も最高潮に達した。しかし、史上最強の名声を欲しいままにしていた日本の切り札は、2頭に先を越されてまさかの完敗。レース後には呼吸器系の治療に使用した薬物の規定違反により失格の裁定が下され、二重のショックに打ちひしがれる結果に終わってしまう。
ノーマークの激走 暗闇に現れた救世主
切り札不発で手詰まり状態に陥った日本馬だが、思わぬところから救世主が現れる。2010年、皐月賞馬ヴィクトワールピサとともに参戦したナカヤマフェスタがその馬だ。渡航前の宝塚記念でG1初制覇を飾ったばかりで、最強論争に名を連ねるエルコンドルパサーやディープインパクトに実績では遠く及ばないが、1999年にフランスを席巻した二ノ宮敬宇調教師と蛯名正義騎手のコンビに導かれ、当時を彷彿とさせる激闘を演じてアタマ差の2着。日本馬の凱旋門賞挑戦に新たな可能性を示した。
そして2年後、オルフェーヴルが3冠馬として2頭目のチャレンジに向かう。ディープインパクトから6年という短期間で再び3冠馬が誕生したことに加え、その父親はナカヤマフェスタと同じステイゴールドという、実績も適性も兼ね備えた奇跡のような巡り合わせ。希望と闘志を秘めた日本の期待は、迎えた直線で大外一気に突き抜け、ついに栄冠を手中に収めた──はずだった。ところが、あとわずかという所で気まぐれな性格が顔をのぞかせ、目を疑うような急減速。一度は蹴散らした相手に栄冠を差し出してしまう。
挽回を期した翌年は、後輩ダービー馬のキズナも加わり最強の布陣が整ったが、20年に1頭か、あるいは30年に1頭かという女傑トレヴによって一網打尽に勝機をさらわれ、またも挫折。トレヴには続く2014年も、当時の世界ランキング1位ジャスタウェイはじめ精鋭3頭が返り討ちに遭い、日本調教馬は20年近くあと1枚の壁を破れないまま、試行錯誤を繰り返して今日に至っている。
年 | 馬名 | 性齢 | 着順 | 騎手 | 調教師 |
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1969 | スピードシンボリ | 牡6 | 着外 | 野平祐二 | 野平省三 |
1972 | メジロムサシ | 牡5 | 18 | 野平祐二 | 大久保末吉 |
1986 | シリウスシンボリ | 牡4 | 14 | M.フィリッペロン | 二本柳俊夫 |
1999 | エルコンドルパサー | 牡4 | 2 | 蛯名正義 | 二ノ宮敬宇 |
2002 | マンハッタンカフェ | 牡4 | 13 | 蛯名正義 | 小島太 |
2004 | タップダンスシチー | 牡7 | 17 | 佐藤哲三 | 佐々木晶三 |
2006 | ディープインパクト | 牡4 | 失格 | 武豊 | 池江泰郎 |
2008 | メイショウサムソン | 牡5 | 10 | 武豊 | 高橋成忠 |
2010 | ナカヤマフェスタ | 牡4 | 2 | 蛯名正義 | 二ノ宮敬宇 |
ヴィクトワールピサ | 牡3 | 7 | 武豊 | 角居勝彦 | |
2011 | ヒルノダムール | 牡4 | 10 | 藤田伸二 | 昆貢 |
ナカヤマフェスタ | 牡5 | 11 | 蛯名正義 | 二ノ宮敬宇 | |
2012 | オルフェーヴル | 牡4 | 2 | C.スミヨン | 池江泰寿 |
アヴェンティーノ | 牡8 | 17 | A.クラストゥス | 池江泰寿 | |
2013 | オルフェーヴル | 牡5 | 2 | C.スミヨン | 池江泰寿 |
キズナ | 牡3 | 4 | 武豊 | 佐々木晶三 | |
2014 | ハープスター | 牝3 | 6 | 川田将雅 | 松田博資 |
ジャスタウェイ | 牡5 | 8 | 福永祐一 | 須貝尚介 | |
ゴールドシップ | 牡5 | 14 | 横山典弘 | 須貝尚介 |