単騎参戦のスルーセブンシーズ、日本馬の挑戦に再び火をつける激走なるか
今年の凱旋門賞には日本からスルーセブンシーズの1頭のみが参戦。新型コロナウイルスの直撃を受けた2020年を除き、近年は複数での遠征もめずらしくなくなっていただけに淋しさもあるが、予報によると週末にかけて大きな天気の崩れはなく、日本調教馬の不振の要因となってきた馬場状態はもちそう。スルーセブンシーズには日本調教馬のチャレンジに再び火をつけるような激走を期待したい。
もし仮に雨が降ったり散水が行われても、スルーセブンシーズは3歳時に重馬場(ミモザ賞)で勝利し、今年は冬場に稍重(初富士S)で勝っており、フランスでも多少の水分を含む程度の馬場状態なら問題なくこなせるのではないか。5歳ながら今回で13戦目と使い減りはしておらず、本格化なった今年も3戦しかしていない。重賞実績は中山牝馬Sの1勝のみで格下の身だが、あのオルフェーヴルを破ったソレミアも、凱旋門賞の段階では牝馬限定G2を1勝しかしていなかった。充実一途の現状と合わせ、宝塚記念で現役世界ナンバー1のイクイノックスに迫った走りを再現できれば、この大舞台で好勝負できても不思議はない。
単騎参戦となった日本調教馬だが、日本産馬ならもう1頭いる。ハーツクライ産駒のコンティニュアスも、日本の競馬ファンにとっては肩入れしたくなる存在だろう。9月16日に2910mの英セントレジャーを勝ったばかりで、英セントレジャーと凱旋門賞の連勝は過去に一度もない。例年の中2週よりさらに短い中1週での臨戦とハードルは一段と高くなるが、達成すれば100年余りの歴史を塗り替える快挙。日本産馬初の凱旋門賞制覇をスルーセブンシーズと争ってほしいものだ。
近年は不振傾向にあった地元・フランスの3歳牡馬だが、今年は強力な2頭が名乗りを挙げた。エースインパクトは仏ダービーを異次元の末脚で圧勝し、早くから凱旋門賞の前売りで1番人気に推されてきた逸材。2着ビッグロックのC.ヘッド調教師が「またと出くわすこともないような馬」と賛辞を惜しまず、キングジョージ6世&クイーンエリザベスSを制し、この凱旋門賞でもライバルとなるフクムのO.バローズ調教師も「何者にもなれるちょっとした怪物」と最大級に警戒している。パリロンシャン競馬場も2400mも未経験だが、極端な馬場状態を避けられそうなのは幸い。JC.ルジェ調教師は2020年にソットサスで凱旋門賞を制し、昨年も仏ダービー馬ヴァデニで2着と、ここ数年で最も結果を出している調教師の1人。死角を埋め合わせるだけの自信があるはずだ。
そして、もう1頭のフィードザフレームにも勝機がある。仏ダービーではエースインパクトに完敗したが、その後にパリ大賞を快勝。直前のニエル賞は展開もあり2着に終わったが、この2戦とも今回と同舞台でエースインパクトにはない経験値がある。巨漢馬でもあるため、仏ダービーとの比較では広々としたコースもプラス。今回で2頭の力関係が明確になる。
コンティニュアスとともに12万ユーロ(約1900万円)もの追加登録料を支払って参戦する独ダービー馬ファンタスティックムーンは、前哨戦のニエル賞でフィードザフレームを封じた。離れた2番手から実質的に逃げ切ったような内容だが、独ダービーでは外ラチ沿いから追い込みを決めるなど、有力馬に差し・追い込み型が多い今年の相手関係にあって、自在性があるのは強味といえる。回避予定から天気予報を見て急転直下の参戦も、12万ユーロを投じた意気込みは軽視できない。また、ミスターハリウッドは独ダービーで内ラチ沿いを突き2馬身1/4差の2着。当時は外に行くほど伸びる馬場状態で、ファンタスティックムーンとの勝負づけは済んでいない。
生きの良い3歳馬がそろった今年のメンバー構成で、近年優勢な古馬ではフクムとウエストオーバーの2頭が双璧。キングジョージで死闘を演じた両雄に力の差はなく、堅実なキャラクターから再びワンツーを決めても驚きはない。より前に位置を取ると思われるウエストオーバーは、展開の鍵をにぎる存在となってきそうで、道中の動きにも注目したい。
この2頭に実績こそ劣るが、ベイブリッジは昨年の英チャンピオンSでフクムの全弟バーイードを撃破した星が光る。今年はG1で一歩及ばない結果が続いていたものの、前走は凱旋門賞への叩き台として実績のあるG3のセプテンバーSに相手を落として初の12ハロン(2400m)戦を完勝した。英チャンピオンSの連覇を狙える立場だが、凱旋門賞からではレース間隔的に難しくなるだけに、リスクを取った決断に勝負度合いもうかがえよう。
シムカミルは昨年のパリ大賞2着、ニエル賞勝ちながら、凱旋門賞は追加登録が必要だったためジャパンCに参戦した。デビュー戦とジャパンCを除けば12戦7勝の連対パーフェクトで、4月のガネー賞ではベイブリッジをアタマ差抑えて2着、続く前々走のG2シャンティイ大賞は力の違いを見せつけるように楽勝している。そして、前走のベルリン大賞でついにG1初制覇。勢いでは古馬勢で一番といえる。
過去10年で6勝の牝馬にも注意を向けたい。凱旋門賞で最多6勝のL.デットーリ騎手が現役最後の騎乗となるフリーウインドは、前走のヨークシャーオークスがG1初挑戦だったが、ゴール手前まで包まれて脚を余した結果のアタマ差。昨年のアルピニスタや2017年と2019年のエネイブル、2018年のシーオブクラスが直前に勝ってきた好相性のレースでもあり、勝ちに等しい内容を残したフリーウインドも侮れない。
また、プラスデュキャルゼルは調教師として最多8勝を誇るA.ファーブル師の管理馬で、昨年は凱旋門賞と同日のオペラ賞を勝っている。ファーブル師は本番仕様の仕上げを幾度となく披露してきたが、この馬は8月の再始動から月1走で叩き3戦目(今年4戦目)と走り頃。ヴェルメイユ賞ではなく相手の軽いフォワ賞を前哨戦に選択したのも、狙いすましてのものだろう。
オネストは前走の愛チャンピオンSでオーギュストロダンの背後から突き放されて惨敗。昨年はパリ大賞で逃げ粘るシムカミルを差し切り、ジャパンCでも先着したが、今年は初戦を取り消すなど波に乗れていない。シスファハンはベルリン大賞でシムカミルの2着も、ゴール前の手応えには着差(3/4馬身差)以上の開きがあった。アヤザークは2勝している重賞(G3)がどちらも重馬場。これらは相当な変わり身や天候の変化がなければ苦しいかもしれない。
(渡部浩明)