凱旋門賞 2024/10/6(日) 23:20発走 パリロンシャン競馬場

見どころPREVIEW

愛チャンピオンSで3着に好走したシンエンペラー。(Photo by Getty Images)

傑出馬不在の凱旋門賞、シンエンペラーは日本競馬史を変えられるか

昨年はスルーセブンシーズが小差の4着に善戦し、日本に久々の上位入線を届けてくれた凱旋門賞だが、今年は日本からシンエンペラーと坂井瑠星騎手だけでなく、武豊騎手もアイルランドのアルリファーとコンビを組んで参戦。ともに評価を高めてのチャレンジとあって期待はふくらむばかりだ。

凱旋門賞といえば馬場状態に気を揉むことが恒例となっているが、フランス・ギャロが現地9月30日にリリースした馬場に関する情報では、レース当日の馬場状態を「Very Soft」ないし「Soft」と予想している。日本ではどちらも「重」とされるものの、「Very Soft」となると不良の方が近く、非常にタフなコンディションになることも想定しておく必要があるだろう。

シンエンペラーは前走の愛チャンピオンSで小差の3着に好走。直線で包まれて脚を余す惜しい内容ではあったが、周囲の想定を上回る力量を示したことにより、レース直後には前売り2番人気に評価する欧州ブックメーカーも現れた。全兄のソットサスで不良馬場の凱旋門賞を制し、シンエンペラーの調教にも手を貸すC.デムーロ騎手の感触では重い馬場を苦にする様子もなく、ひと叩きで型通りに良化しているとのこと。同じ3歳の比較では2013年のキズナ(4着)に匹敵する準備をできた印象があり、上位争いに加わる可能性は十分にありそうだ。

レジェンドの夢を背負うアルリファーは、8月のベルリン大賞を5馬身差の圧勝で評価急上昇。2歳9月に1400mでG1勝ち後、明け3歳からは2000m前後で勝ち切れないレースを続けていたが、初の2400mで一変の走りを見せた。父系に連なるのはスプリンターやマイラーだが、母の全兄ミズーは英ゴールドCの2着などがあるステイヤーで、どうやら母系の影響が強いらしい。相手関係が大幅に強化するため今回は試金石だが、アルピニスタとトルカータータッソはベルリン大賞を勝った翌年に凱旋門賞も制しており、今年はもちろん、来年まで楽しめる存在として注目しておきたい。

武豊騎手とコンビを組むアルリファー。(Photo by アフロ)

ブックメーカーの前売りでは5番手あたりまでを占める3歳馬が優勢。仏ダービー馬ルックドゥヴェガ、これを前哨戦で下したソジー、両馬と接戦を演じてきたデリウスの地元勢は甲乙つけがたい。

ルックドゥヴェガは仏ダービーを無傷の3連勝で制し、凱旋門賞の前売り1番人気に躍り出た。これに対し、2馬身少々の差をつけられて3着だったソジーは、次戦のパリ大賞でG1初制覇を飾ると、前走のニエル賞ではルックドゥヴェガに雪辱。ライバルに初の土をつけて一時は前売り1番人気の座を奪取している。凱旋門賞と同舞台のパリ大賞、ニエル賞で2連勝中の経験値は強味といえるだろう。

ただし、ニエル賞のソジーは2カ月ぶりの実戦だったのに対し、仏ダービー以来の3カ月半ぶりだったルックドゥヴェガには初の2400mでもあり、ひと叩きで再逆転の余地は十分に残されている。また、デリウスはソジーに2連敗中も、ルックドゥヴェガとは1勝1敗の関係。前売りは5番人気ないし6番人気で一段下の評価だが、デビュー戦をパリロンシャン競馬場の不良馬場で完勝している。週末の天気次第で浮上の目もあるだろう。

そのデリウスと同じクールモアグループの所有で、主力のA.オブライエン厩舎から送り込まれるロスアンゼルスの方がブックメーカーの評価は高い。前走の愛チャンピオンSはシンエンペラーに競り負けた格好も、もともと2400mの凱旋門賞が目標。2歳の昨年10月にはパリロンシャン競馬場から近いサンクルー競馬場の重馬場(Very Soft)で、手前を替えないままG1を勝ったこともある。

オブライエン厩舎のもう1頭、ハーツクライ産駒のコンティニュアスにも道悪実績がり、アルピニスタが制した凱旋門賞(2022年)の3日前にサンクルー競馬場の重馬場(Very Soft)で重賞勝ちしている。稍重馬場で小差の5着だった昨年の凱旋門賞後には、オブライエン師が後方待機の作戦ミスと反省の弁を述べる一方、前走のフォワ賞(3着)は逃げたことが裏目に出たとも話しており、今回は中団あたりから勝機を狙ってくるか。脚部不安で始動が遅れた今シーズンだが、8月以降は月1走ペースと順調なだけに、そろそろ本領を発揮しても不思議はない。

直近10年で5勝を挙げて牡馬と互角の牝馬は4頭に出走の意思があるが、今年は追加登録のブルーストッキング、4戦無敗で来ているマルキーズドゥセヴィニエの古馬に分がありそう。ブルーストッキングはキングジョージ6世&クイーンエリザベスS(2着)で牡馬に引けを取らない能力を証明済み。前走のヴェルメイユ賞は背後でマークするアヴァンチュールを突き放し、中団のシュルヴィーは寄せつけず快勝と、今回も対戦する3歳馬に対して優位も築いている。

また、マルキーズドゥセヴィニエはソジーと同じA.ファーブル調教師の管理馬。2100mまでしか経験がなく、今回は初の2400mが課題ではあるが、歴代最多の凱旋門賞8勝を誇るファーブル師が距離延長は後押しになるとさえ評している。5月のイスパーン賞でアヤザークらの牡馬を退けるなど、前走のジャンロマネ賞までG1レース3連勝を含む今季無敗と充実。それから凱旋門賞へ直行は予定通りで、狙いすました臨戦が何とも不気味だ。ちなみに、ファーブル師によれば、ソジーの馬場適性を重馬場まで、マルキーズドゥセヴィニエは柔らかい馬場が得意とのこと。もう1頭のセヴェナズナイトは道悪実績こそ豊富も格下感は否めない。

この他では前走でバーデン大賞勝ちのファンタスティックムーンが不気味だが、陣営が道悪の場合は回避を示唆しているほどで割り引かざるを得ない。サンウェイは愛ダービーでロスアンゼルスと接戦も、実績のない英セントレジャーからの臨戦がどうか。ザラケムはプリンスオブウェールズSで2着に善戦したが、凱旋門賞クラスの相手関係ではパンチ不足の印象がある。

昨年3着のオネストのような伏兵の激走があるならアヤザークか。昨年の凱旋門賞では14着に沈んだが、今年は300m短いだけのガネー賞(馬場状態はVery Soft)でアルリファーに1馬身近く、ザラケムとファンタスティックムーンには大きく先着してG1初制覇。今年は4戦して全て3着以内と安定している。

(渡部浩明)