見どころ
エピカリスはラニを超えられるか 鍵を握るケンタッキーダービーからの直行組
昨年は日本馬ラニの挑戦で近年にない注目を集めたアメリカ牡馬クラシック3冠戦。その中でラニが3着善戦と最も大きな夢を見させてくれたベルモントSに、今年もエピカリスが挑むことになった。UAEダービーまでの実績やレース内容を踏まえれば、エピカリスはラニに勝るとも劣らぬ素質の一端を見せており、あるいは勝利なるかの期待もふくらむ。
エピカリスの前走、UAEダービーは折からの雨で先行有利に拍車が掛かった馬場状態を読み切り、積極的なレースに打って出たC.ルメール騎手の判断が光った。エピカリスもそれに応えてゴール寸前まで先頭を守り抜き、最後に競り負けたものの勝者に等しい惜敗。スピードと持久力の両面で一級品の素材であることを示せたのは大きな収穫だった。
今回はUAEダービーから約2か月半ぶりの実戦になるが、3歳初戦のヒヤシンスSではさらに長い休養明けで快勝しており、レース間隔自体は問題ないだろう。前走でドバイへの輸送を克服しているうえ、日本に帰国して再度の米遠征となるだけに、むしろ適度なくらいかもしれない。昨年のラニのように、ケンタッキーダービーのチャーチルダウンズ競馬場では調整に苦労した一方、広々としたベルモントパーク競馬場に移って状態を上げていった例もある。直接現地入りしたことを前向きに受け止めて良いのではないだろうか。
適性不明な距離の問題もあり、ベルモントSではどのような戦法になるか判らないが、UAEダービーで逃げることができたように、スピードへの対応は心配無用。過去の傾向では最終コーナーである程度前の位置につけていなければ勝機もなく、好位グループの一角から機を窺うのが妥当な戦法となろう。
事前の出走予定馬では2歳王者クラシックエンパイアが目標に好都合だったが、枠順抽選日になって故障が判明。出走回避となり、混迷の度合いを増す事態となった。
実績に敬意を表すなら1冠目のケンタッキーダービー2着、2冠目のプリークネスSで4着のルッキンアットリーとなる。しかし、追い込み脚質で相手関係や展開に左右されやすく、勝ち味の遅さがある。ベルモントSに関しては昨年のラニに似たようなタイプながら、ここまでの戦績はより上位で安定しており、そうした比較から勝ち負けに絡む可能性は十分に秘めているだろう。
過去10年のベルモントS優勝馬のうち6頭は「前走から5週のレース間隔」だった。6頭のうち4頭は、1冠目のケンタッキーダービーに出走した一方で2冠目のプリークネスSを見送った馬だ。さらに強力なデータとして、過去10年のベルモントSにおける3着以内計30頭のうち17頭も前走から5週のレース間隔。レースの中心を担うのは、2冠を戦って疲労が蓄積した馬よりも、適度なレース間隔を保ってフレッシュな状態の馬という、当然ともいうべき事実が浮かび上がる。
このデータに該当する前走ケンタッキーダービー組はタップリット(6着)、ゴームリー(9着)、アイリッシュウォークライ(10着)、パッチ(14着)、ジェイボーイズエコー(15着)の5頭となる。
最先着はタップリットだが、重賞勝ちは3月のG2タンパベイダービーしかなく、ケンタッキーダービー直前のG2ブルーグラスSでは5着に敗れている。当時の勝ち馬アイラップはケンタッキーダービーで18着に大敗。その他に先着を許した3頭もケンタッキーダービーに駒を進め、プラクティカルジョーク(5着)、マクラッケン(8着)、前記のジェイボーイズエコーと近い着順か大きな着順に沈んでおり、実力的な限界が見えた感もある。
それに対してゴームリーは西海岸最大の前哨戦であり、出世レースとしても知られるG1サンタアニタダービーの勝ち馬。また、アイリッシュウォークライはプリークネスS優勝馬のクラウドコンピューティングと前述の2歳王者クラシックエンパイアを封じて重賞勝ちした実績を持つ。ベルモントSはケンタッキーダービー10着以下から巻き返しての優勝例もめずらしくなく、実力の裏付けがある両馬には注意したいところだ。
ケンタッキーダービー以外にも「前走から5週」の条件に該当する馬がいる。ツイステッドトムは重賞未勝利ながら、未格付けのステークス2つを含む3連勝中。前走がフェデリコテシオSという臨戦は2011年にベルモントSを制したルーラーオンアイスと同じで、セン馬という共通点もある。管理するC.ブラウン調教師はニューヨークが地元で、昨年のエクリプス賞最優秀調教師を受賞した東海岸きっての腕利き。狙い澄ましたローテーションを組み、クラウドコンピューティングにプリークネスSを勝たせたばかりでもあり、それに代えての用兵ならば当然、高い勝算を見込んでいることだろう。
プリークネスS3着のシニアインベストメントは、勝負所で置かれかけながらしぶとく巻き返してルッキンアットリーをゴール前で逆転。エンジンのかかりが遅いタイプだけに、距離延長を味方にできそうだ。