下馬評は2強も脚質が好対照、フォーエバーヤングとテーオーパスワードは隙を突けるか
ケンタッキーダービーに挑戦する日本調教馬の存在感は年を追うごとに増している印象だが、今年のフォーエバーヤングとテーオーパスワードはともに無敗。とりわけ前者の実績は過去に挑んだ日本勢との比較で最高と大きな期待を集めている。ただし、主催者発表の前売り人気ではフィアースネスとシエラレオーネが他を離して2強ムードの様相。レースは脚質的にも好対照の両雄を軸に展開していくことになる。
現地4月27日の枠順抽選後に主催者が発表した前売り人気では、フィアースネスが単勝3.5倍、シエラレオーネは同4倍で、3番人気のキャッチングフリーダム(9倍)以下を離している。下馬評では他馬につけ入る隙が少なそうだが、競馬の世界で「両雄並び立たず」の決着はしばしば見られること。先行と追い込みに分かれる両雄の脚質的にも波乱の糸口が見え隠れする。
BCジュベナイルを6馬身1/4差の快勝で2歳王者となったフィアースネスは、重要前哨戦のフロリダダービーも13馬身1/2差で圧勝しており納得の1番人気。スムーズに先行できた際は圧倒的なパフォーマンスを発揮する。しかし、先行勢を追う形になったシャンペンSと発馬直後の不利で先行馬群の外に置かれ続けたホーリーブルSは直線で先頭に立つことなく敗れている。脆さが同居する現状、揉まれる心配のない外目の17番枠は幸いと思える一方、序盤から激しくなる先行争いに後れを取るリスクもあり、圧勝してきたレースを再現できるか判然としない面がある。
その点で、安定感の面では追い込み脚質ながらシエラレオーネの方が信頼性は高そう。チャーチルダウンズ競馬場があるケンタッキー州ルイビルは週末にかけて雨の予報もあるが、水が浮く馬場状態だったリズンスターSを勝っているうえ、重馬場のレムゼンSで唯一の黒星を喫した際も、捲り切った所を差し返されてわずかにハナ差。馬場状態に関して何ら不安はない。ただし、2番枠は少々難しい。本番では1コーナーに向かって各馬が殺到するため、内枠の馬が不利を受ける例も少なくない。これまでの10頭前後なら利いた追い込みも、20頭立てで極端に下げられると挽回不能になる。
2強に隙が見える状況だけに、フォーエバーヤングとテーオーパスワードにもチャンスはあるはず。両馬はアメリカで初の実戦になるが、チャーチルダウンズ競馬場に限れば2強も未経験で、海外2か国を含む全5戦とも異なる競馬場で勝ってきたフォーエバーヤングの経験値は頭ひとつ抜けている。データ的に真ん中の枠順も絶好。ゲートが速い方ではないだけに、シエラレオーネと同様に序盤の位置取りが鍵となるが、両馬は祖母が同じで近親という関係のため、好走できる条件が近い可能性も。直線で2頭による追いくらべとなれば見応えがありそうだ。
テーオーパスワードはデビュー2連勝と土つかずではあるものの、キャリア3戦目でのKYダービー制覇は過去に例がなく、経験不足は如何ともしがたい。2戦とも逃げ・先行で勝ってきたが、今回の先行争いは肉体的にも精神的にも比較にならないほど厳しい。タフな状況に置かれ、どこまで食らいついていけるか。
3番人気のキャッチングフリーダムは前々走のリズンスターS(3着)からルイジアナダービーを勝っての参戦。オナーマリーとトラックファントムも同じ臨戦となる。この2レースはフェアグラウンズ競馬場で距離も約100m違うだけと連続性があり、キャッチングフリーダムはオナーマリーに2戦とも先着した一方、トラックファントムは双方と五分で力関係が絡み合っている。これら3頭を不良馬場のリズンスターSで一網打尽に仕留めたのがシエラレオーネ。キャッチングフリーダムは良馬場のルイジアナダービーで豪快に差し切りを決めており、乾いた馬場でシエラレオーネとの再戦を望んでいることだろう。
フォーエバーヤングと並び前売り4番人気のジャストアタッチは、前走のブルーグラスSでシエラレオーネに1馬身1/2差の2着。2番手追走から直線で抜け出すも、最後は並ぶ間もなく差し切られた。ただ、1月27日のデビューで当時はまだ3戦目。3着のエピックライドを3馬身余り離したように内容は決して悪くない。年明けデビュー馬はKYダービーで不利というジンクスがあったが、それを138年ぶりに破ったのが2018年の父ジャスティファイ。昨年も年明けデビューのメイジが優勝しており流れは変わりつつある。
前売り6番人気には前記のトラックファントムやオナーマリーなど多数の馬が並んでいる。その中にはサンタアニタダービー馬のストロングホールドやウッドメモリアルS勝ちのレジリエンスも含まれているが、この2頭はフィアースネスよりさらに外の枠順がいかにも不利。反対にメイジに続き史上初の兄弟制覇を狙うドーノックは最内の1番枠で序盤の入りが難しい。レムゼンSでシエラレオーネを差し返した白星は光るが、ブルーグラスSでの完敗により立場を逆転された感も否めない。
アーカンソーダービーで2着のジャストスティールは、ゴール前で脚が上がったミスティックダン(3着)に2馬身余りの先着。しかし、その前には重馬場のサウスウェストSでミスティックダンがジャストスティールを瞬く間に突き放して圧勝した。両馬は馬場状態によって力関係が反転する印象だ。
馬場といえばKYダービーで初のダート戦に臨むエンドレスリーが面白い存在。前走はオールウェザーのG3ジェフルビーSを勝ったが、スパイラルSの名称で行われていた2011年にはアニマルキングダムがKYダービーとの連勝を決めている。当時のアニマルキングダムもダート未経験、芝で2着が1回あっただけなのに対し、エンドレスリーは2歳時に芝で重賞2勝。ここに至る実績はアニマルキングダムをはるかに上回っている。
(渡部浩明)