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【メルボルンC回顧】英国勢が上位を独占、チェスナットコートは不利受け14着

2018年11月07日 15:00

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 優勝賞金の400万豪ドル(32000万円=1豪ドル80円で換算)を賭けて2マイルの長丁場で争われたG1メルボルンカップ(フレミントン競馬場)はトップハンデの57.5kgを背負ったベストソリューションから最軽量51kg3歳馬(南半球表記では4)クロスカウンターとロストロポーヴィチまで5か国で調教された24頭がフルゲートを埋めた。

 日本からは17日前のG1コーフィールドカップ(コーフィールド競馬場、芝2400m)13着だった栗東・矢作芳人厩舎、川田将雅騎手の乗るチェスナットコートがハンデ55.5kgで出走した。当日朝のスコールによって水分をたっぷりと含んだ馬場は、その後の強い日差しによって徐々に回復したが、馬場状態は日本では重に該当する10段階の6。フレミントンの特徴である水はけのよさもあいまって微妙な馬場状態でスタートした。

 豪州初戦のG2ハーバートパワーステークスの楽勝ぶりが評価されて前売りで1番人気に浮上していたA.オブライエン厩舎のユカタンが、不利と言われる23番枠を引いたことで雲行きが怪しくなって人気は分散。JRAの単勝オッズはG13連勝中のベストソリューションが単勝5.1倍の1番人気となり、ユカタンは5.5倍で差のない2番人気。以下、前走のG1コーフィールC3着したザクリフスオブモハー(7.4)、昨年に続く挑戦となったマルメロ(7.9)、英国で長距離戦を2連勝中のマジックサークル(9.3)と続き、上位は欧州勢によって占められた。コーフィールドC5番人気の支持を受けたチェスナットコートは単勝42.6倍の13番人気となった。

 芦毛のムンタハーと栗毛のチェスナットコートを除く22頭が鹿毛、黒鹿毛もしくは青鹿毛。センターの12番枠から地元勢を代表して先頭を切ったランナウェイの真っ赤な勝負服が目立って馬群を先導。最後方まで約10馬身のパックとなった。最初の800mを通過する一周目のホームストレッチあたりでアクシデントが発生した。R.ムーア騎手の乗るザクリフスオブモハーが故障して両膝を折るようにしてズルズルと後退(馬は予後不良で安楽死処分)。運悪く真後ろにいた6番人気のアヴィリオスはあわや衝突という致命的な不利を被ったが、その外で並走したクロスカウンターは間一髪で、この危機を逃れた。

 メルボルンCは道中スローに流れて先行勢優勢の結果に終わったコーフィールドCとは一変して差し、追込み馬に有利な流れになるものと予想されていた。この読みは有力馬の鞍上も同じだったのだろう。ゴールまで1200mを残す2000m通過時点での位置取りはP.コスグレイブ騎手のベストソリューションが21番手、外から行き脚をつけたJ.マクドナルド騎手のユカタンは12番手までポジションを上げていたが、H.ボウマン騎手のマルメロは20番手、アクシデントを回避したK.マカヴォイ騎手のクロスカウンターは22番手のままで450mの直線に勝負を委ねた。

 過去にメルボルンC2勝しているマカヴォイ騎手はレース前、愛妻に「メルボルンCに勝ったら新しい大きな家をプレゼントするよ」と約束していたという。ベテランならではの計算と自信があったのだろう。しんがりからポジションを徐々に上げて最終コーナーで外に持ち出すと直線ではライバルが霞むほどの末脚が爆発。比較的乾いていた馬場の七分目を切り裂くように追い込み、先行馬をなぎ倒した。

 1馬身差の2着にボウマン騎手が鞭を連打して残り100mまで先頭を守ったマルメロ。3日前に行われたG3ホッサムハンデキャップに勝って最後の1枠に滑り込んだアアプリンスオブアランが勝ち馬から3馬身差の3着に健闘した。重馬場の勝ちタイムは32117。これは昨年、良馬場で勝ち馬となった3歳牡馬リキンドリング(ハンデ51.5kg)より0.02秒速かった。ベストソリューションはいざ追い出すと意外に伸びず勝ち馬から8.75馬身差の8着。”カップスダブル”の困難さを改めて感じさせた。

 チェスナットコートの矢作調教師は「4コーナーのこれから追い出そうというところでの不利がかなり決定的でした。あの不利がなければ、もう少し良いところまで来られたと思います」と悔しさを滲ませた。

 ウイニングサークルで愛妻から祝福を受けるマカヴォイ騎手と対照的に深刻な表情でマルメロから下馬したボウマン騎手には裁決委員から3つのペナルティ(チェスナットコートへの進路妨害で12日、鞭の過剰使用で8日、0.5kgの体重超過で21日の計41)が言い渡された。裁決委員の裁量によって騎乗停止期間は125日までの35日間に短縮されたが、楽しみにしていたシュヴァルグランでのジャパンカップ参戦はほぼ絶望的。メルボルンCの初優勝を焦った過ちは大きな代償となった。

(サラブレッドインフォメーションシステム 奥野 庸介)