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【ケンタッキーダービー回顧】史上初の1着入線馬降着 マスターフェンサーは日本調教馬の過去最高着順

2019年05月06日 12:56

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 第145回のケンタッキーダービーは日本から参戦したマスターフェンサーを含む19頭によって争われた。レース3日前のオマハビーチの取り消しによって補欠馬として待機していたボーディエクスプレスが繰り上がって出走。オマハビーチに騎乗予定だったM.スミス騎手が、(C.ラネリー騎手で予定されていた)T.プレッチャー厩舎のカッティングヒューモアで参戦することになり、前々日にハイカルが取り消した。

 空模様が心配された前日もケンタッキーオークス(勝ち馬セレンゲティエンプレス)が曇り空の良馬場で行われ、当日の雨予報も杞憂に終わるかと見られたが、ケンタッキーダービーが近づくにつれて天気が悪化。チャーチルダウンズ競馬場のダートコースは不良馬場となり、レースを迎えた。

 この状況を歓迎したのがマキシマムセキュリティだった。絶好枠の7番枠を引きあてると、強力なライバルと見られていたオマハビーチが欠場。そして、望んでいた雨の贈り物。オーナーブリーダーのウエスト夫妻、J.サーヴィス調教師、L.サエズ騎手、マキシマムセキュリティ陣営に勝利の女神が微笑んだかのように見えた。

 米国での人気はB.バファート厩舎のインプロバブル(5倍)に次ぐ2番人気(5.5倍)だったが、早朝からレースを見守った日本のファンは刻々と悪くなる馬場に反応してマキシマムセキュリティを単勝3.1倍の1番人気に支持した。

 スタンド前左手に置かれたスターティングゲートから飛び出した19頭は我先にと先行争いを繰り広げた。その中心はマキシマムセキュリティで、これに大外21番枠からダッシュ良く内に切れ込んだボーディエクスプレス、同じく外の18番枠から行き脚をつけたロングレンジトディ、それに隣の枠のマキシマムセキュリティと競うよう先行したヴェコマが最初のコーナーに殺到した。マキシマムセキュリティは最初の400mを22秒31で走って主導権を握ると向正面入口あたりの800mを46秒62で通過した。15番枠から出たマスターフェンサーはゲートが開いてすぐに右に大きくジャンプして離れた最後方からの追走。テレビ画面にも映らない最悪の位置取りとなった。

 3コーナーにかかる1200m通過タイムは1分12秒50。終始緩みのないペースで勝負どころの最終コーナーでアクシデントが起こった。逃げるマキシマムセキュリティが物見でもしたかのようにコーナーで大きく外側に膨れてウォーオブウィルに接触。ウォーオブウィルと、その外を追い上げたカントリーハウスの間に挟まれたロングレンジトディが大きく後退し、このあおりを受けたボーディエクスプレスも被害を受けた。一連のアクシデントの間に内をすくったコードオブオナーが一瞬先頭に立ったが、態勢を立て直したマキシマムセキュリティが、ギアを上げてこれを抜き返す。外からカントリーハウスが追撃したが、マキシマムセキュリティはゴールでこれを1馬身3/4退けて先頭で入線。昨年のジャスティファイに続く不敗のケンタッキーダービー馬が誕生か、と思われたが、カントリーハウスのF.プラ騎手から異議申し立てが成されて落ち着かない時間が過ぎた。約20分にわたる審議はマキシマムセキュリティの降着(被害馬ロングレンジトディの次の17着)とカントリーハウスの繰り上がり優勝が決まった。不良馬場でマキシマムセキュリティが計時したタイムは2分03秒93。3着以下もそれぞれ繰り上がって2着にコードオブオナー、3着にタシトゥス、4着インプロバブルで確定。W.モット調教師とプラ騎手はともにケンタッキーダービー初優勝となった。長旅を経て参戦したマスターフェンサーは直線に向いても最後方のままという苦しい競馬だったが、馬群を縫うように最内に潜り込んで残り200mでラチ沿いに伸びて「最後は非常に良い脚を使ってくれました」とJ.ルパルー騎手はコメント。5着したゲームウィナーにアタマ差の6着はラニの9着を上回る日本調教馬の最高着順となった。

 ケンタッキーダービーの1位入線馬が降着となるのは史上初(1968年のダンサーズイメージはレース後に禁止薬物が検出されて失格)の出来事。3連単の配当(1629万8210円)はJRAが海外馬券発売を始めてからの最高配当となった。

この降着に関してはレース後から賛否両論が寄せられたが、判断の源となったのは米国が採用するカテゴリー2の降着基準である。日本でも2013年から採用した世界基準のカテゴリー1は「その加害行為がなければ被害馬は加害馬よりも上位になることができた」とみなされた場合のみ降着とされるが、カテゴリー2は「その加害行為が被害馬の競走能力発揮にどれくらい影響を与えたかを見て総合的に判断する」というもの。今回の例に当てはめるとカテゴリー1基準であれば、騎手にペナルティは与えられてもマキシマムセキュリティの降着はなかった可能性が高い。サラブレッドデイリーニュースでは米国が採用しているカテゴリー2についての問題提起をしており、今後国内で降着基準の見直しについて議論されることになるだろう。

枠順や馬場も含め、出走馬の多くはなんらかの不利益を被ったが、厳しい篩(ふるい)にかけられたことによってマスターフェンサーまでの上位7頭にクラシックに届く能力が認められた。残る二冠の勝ち馬はこの中から出るだろう。

(サラブレッドインフォメーションシステム 奥野 庸介)