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【香港国際競走回顧】今年も日本旋風が続く ラヴズオンリーユー&グローリーヴェイズが快挙

2021年12月14日 14:40

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 現地時間12月12日、香港シャティン競馬場で4つの香港国際レースが行われた。

 長引くコロナ禍に加えオミクロン株の流行もあり、一時は開催も危ぶまれた。しかし、結局は予定していた外国からの遠征馬を全馬受け入れ、観客数を制限して開催された。

 1200メートルから2400メートルの4つのG1に臨む日本馬は12頭。先陣を切って香港ヴァーズ(G1、2400メートル)にはグローリーヴェイズ(牡6歳、美浦・尾関知人厩舎)とステイフーリッシュ(牡6歳、栗東・矢作芳人厩舎)が出走。一昨年の覇者でもある前者はJRAのプールのみならず現地香港でも圧倒的な1番人気に推された。

 地元のリライアブルチームが逃げた流れは前半が1分16秒34という超スローペース。グローリーヴェイズは8頭立ての7番手を追走と、見た目だけでなく流れを考慮すればかなり厳しい競馬を強いられたかと思いきや、手綱を取った香港の名ジョッキー、J.モレイラ騎手はレース後「ミスなく運べて楽しんで乗る事が出来た」とコメントを出した。

 直線へ向くとひと足先に抜け出したのがイギリスのパイルドライヴァー。一旦抜け出し、ペースを考えても完全に勝つ態勢かと思えたが、ゴール前、唯一これに襲いかかってきたのがグローリーヴェイズ。きっちりかわすと最後は1馬身の差をつけて2度目の香港ヴァーズ制覇を飾った。

 「3度目の香港遠征でリラックスしていたし、本当に大した馬です」

 尾関調教師はそう語って喜びを表現した。

2年ぶりに香港ヴァーズを制したグローリーヴェイズ。(Photo by The Hong Kong Jockey Club)

 凱旋門賞(フランス、G1)やキングジョージ6世&クイーンエリザベスS(イギリス、G1)をみても分かるように2400メートル戦線はヨーロッパのホースマンにとって常に大目標となる根幹距離。凱旋門賞で日本馬が跳ね返されるたびに「馬場が合わない」という論評が噴出するが、逆にヨーロッパの馬はアメリカのブリーダーズCターフ(G1)やドバイのドバイシーマクラシック(G1)などこの距離なら馬場など関係なく世界中で実績を残している。香港ヴァーズも同様で、圧倒的にヨーロッパ勢が良績を残してきたカテゴリー。この分野でヨーロッパ勢を2、3着にくだして2度目の戴冠をしたグローリーヴェイズの偉業は称えられてしかるべきだろう。

 なおステイフーリッシュは5着に敗れた。

 続いて行われた香港スプリント(G1、1200メートル)ではアクシデントが発生。災難に見舞われたのは4コーナー。先行していたアメージングスターが故障して転倒するとこれに巻き込まれる形でラッキーパッチやナブーアタック、そして日本のピクシーナイト(牡3歳、栗東・音無秀孝厩舎)も落馬。アメージングスターとナブーアタックは残念ながら予後不良となり、ピクシーナイトは一命を取り留めたもののレース後の検査で骨折が判明。馬場に投げ出された福永祐一騎手も左鎖骨骨折を負ってしまった。

 このアクシデントに直面してしまったのがダノンスマッシュ(牡6歳、栗東・安田隆行厩舎)。落馬こそ免れたものの、回避するために大きなロス。この時点で父ロードカナロアに並ぶ連覇の夢が断たれた。

追い込みながら僅かに届かず2着となったレシステンシア。(Photo by The Hong Kong Jockey Club)

 最後の直線、先行して内を回っていたため不利を全く受けなかったクーリエワンダーが抜け出したが、これに差を詰めてきたのがすんでのところで事故を回避したレシステンシア(牝4歳、栗東・松下武士厩舎)と地元のスカイフィールド。スカイフィールドが内にいたホットキングプローンをかわすために外へ進路をとった際、更に外にいたレシステンシアを押圧。その後、クーリエワンダーが外へヨレたため、その外にいたスカイフィールドが玉突きのような形で再度レシステンシアを弾く(実際に馬体の接触はなかった)ようになり、追い込んで来た日本の牝馬は2着まで。伏兵スカイフィールドが4分の3馬身だけ速く1分08秒66の時計で勝利のゴールへ飛び込んだ。

 レシステンシアに騎乗したC.スミヨン騎手は「落馬を回避する不利があった上、直線では勝ち馬に外へ押された」と語った後「1400メートル以上でも良さそうな馬」と続けた。

 勝ったスカイフィールドに騎乗したのはB.シン騎手。2008年にはヴュードでメルボルンC(オーストラリア、G1)勝ちもあるオーストラリア人騎手は香港に移籍して3シーズン目。本来なら嬉しいはずの香港スプリント初制覇にも「大きなアクシデントに見舞われた人馬がいるだけに、心配です」とコメント。なんとも後味の悪いレースになってしまった。

 国際4競走の3つ目に行われたのが香港マイル(G1、1600メートル)。ここにはインディチャンプ(牡6歳、栗東・音無秀孝厩舎)、ヴァンドギャルド(牡5歳、栗東・藤原英昭厩舎)、サリオス(牡4歳、美浦・堀宣行厩舎)、ダノンキングリー(牡5歳、美浦・萩原清厩舎)の4頭の日本馬が挑戦。マイルの女王グランアレグリアこそ引退を表明してここへは参戦していなかったものの、およそ考え得る日本のトップマイラー達が呉越同舟でここに臨んだ。

 しかし、そんな日本の一流馬達に立ちはだかったのが地元の雄・ゴールデンシックスティ。ディフェンディングチャンピオンでもある同馬は追い込み馬だが、今回は好スタートを決めるといつもよりは前、中団の少し後ろを追走した。逃げ馬不在で途中からハナに立ったサリオスが作った前半のペースは47秒92。思ったよりは流れたがそれでも決して速くはない。ヴァンドギャルドが好位のイン。福永騎手からC.スミヨン騎手に乗り替わったインディチャンプが後方の外でダノンキングリーは更に後ろのインを追走した。ゴールデンシックスティは馬群の中に入り、4コーナーをカーブ。直線へ向いた。

香港マイルで日本勢最高の3着となったサリオス。(Photo by The Hong Kong Jockey Club)

 ここでゴールデンシックスティのC.ホー騎手は一瞬、外へ進路を取ろうとしたが、地元勢3頭ががっちりと蓋をしていたので出られないとみるやすぐにインへ切り替えた。この一瞬の判断が吉と出た。粘るサリオスの真後ろへ入れるとそこから1頭分だけ外へ出して馬群を割る。すると後はいつも通りの末脚を炸裂。サリオスが一杯になったところを地元のモアザンディスが差して2着に上がったが、香港の王者はその1馬身3/4前でフィニッシュ。ラスト2ハロンは22秒75という速いラップになったが楽々と抜け出して香港マイル連覇を飾った。

 これでゴールデンシックスティは20戦19勝。デビュー当初に1400メートルで1度だけ大敗したが、その後の連勝を16に伸ばし、サイレントウィットネスが持つ香港での連勝記録である17にあと1と迫った。

 「2番枠というのだけがトリッキーで嫌だったけど、終わってみれば問題ありませんでした。彼はチームワークが生んだ馬。誰1人が欠けてもこの活躍はなかったでしょう」

 ホー騎手はそう語った。それにしても自国の生産はなく1350頭の競走馬しかいない香港から定期的にこのようなスーパーホースが現れるのは驚きの一語である。

 なお、日本馬はサリオスが3着、以下、インディチャンプ5着、ヴァンドギャルド6着、ダノンキングリー8着と、それぞれ敗れてしまった。

 香港国際レースのメインでありトリとして行われるのが香港カップ(G1、2000メートル)。以前はヨーロッパ勢も活躍したカテゴリーだが、近年は地元香港馬と日本馬が席巻。近2年はウインブライト、ノームコアと日本馬が連勝している。

 日本馬3連覇を目指しこの舞台に名を連ねたのは3頭だが、中でも注目を浴びたのはこれがラストランとなるラヴズオンリーユー(牝5歳、栗東・矢作芳人厩舎)。日本でのG1勝ちは一昨年のオークスが最初で最後だが、今年は2月に京都記念(G2)を勝利した後、海外を転戦して実績を積んだ。ドバイのドバイシーマクラシック(G1)こそミシュリフの3着に敗れたものの、そこから渡った香港でクイーンエリザベス2世カップ(G1)を勝利。一旦帰国して札幌記念(G2)はソダシの2着に敗れたが、その後、勇躍アメリカへ飛ぶとブリーダーズCフィリー&メアターフ(G1)を優勝。今回はアメリカから直接、香港入り。今年だけで37000キロメートルを超える移動をしての出走だが、JRAプールだけでなく、香港でも1番人気に支持されての出走となった。

 日本でも香港でも3番人気に推されたのがヒシイグアス(牡5歳、美浦・堀宣行厩舎)で、大阪杯(G1)の覇者レイパパレ(牝4歳、栗東・高野友和厩舎)は日本では2番人気、香港では4番人気での出走。他ではイギリスの英チャンピオンS(G1、1990メートル)で2着に惜敗したもののミシュリフを競り負かし、アダイヤーにも先着していたドバイオナーらが上位人気に推されていた。

ゴール前で日本馬2頭のたたき合いとなった香港カップ。(Photo by The Hong Kong Jockey Club)

 地元のカーインスターとアイルランドのボリショイバレエが先行したレースは最初の半マイルが50秒台というスローペース。川田将雅騎手騎乗のラヴズオンリーユーは終始前を射程圏に入れる好位で流れに乗る。しかし、4コーナーの勝負どころで外を回って早目に仕掛けてきたロシアンエンペラーが先頭に立つと、ラヴズオンリーユーは馬群の中で多少モタモタした素振り。直線も抜け出しをはかるロシアンエンペラーに先に迫って来たのはヒシイグアスだったが、ようやくエンジンのかかったラヴズオンリーユーはその2頭の間を突いて鋭く伸びる。前走のブリーダーズC同様、万事休す?と思える状態から巻き返して最後には差し切ってみせた。

 出し抜けを喰らわせて穴をあけそうになったロシアンエンペラーはまたも最後に舌を出して止まってしまい、これを差したヒシイグアスが2着。日本ではG1実績のない馬だが、過去にはシャドウゲイトやルーラーシップにネオリアリズム、近年でもエイシンヒカリやウインブライト、今春のヴァンドギャルド(ドバイターフ2着)など「日本でG1勝ちがないのに海外のG1で好走」した馬が多数いる中距離戦で、またしても該当する馬が誕生。中距離戦に於ける日本馬のレベルの高さを証明した。

 一方、レイパパレはスタートが今一つでいつもの先行する形に持ち込めなかったせいか見せ場なく6着、後方から進んだドバイオナーは最後に差を詰めたものの4着まで追い上げるのが精一杯に終わった。

 話を有終の美を飾った勝者に戻そう。勝利した川田騎手にとっては香港スプリントでの大事故に巻き込まれたものの落馬を回避出来た事での戴冠となったわけだが、福永騎手らリタイアを余儀なくされた騎手達を慮ったか、レース後の表情はブリーダーズC制覇時よりもかたいままのように見えた。

 また、矢作調教師はリスグラシューで挑戦した香港では春も秋も惜敗に終わったが、ラヴズオンリーユーではこれで春秋制覇。とくにこの秋はブリーダーズCディスタフ(G1)をマルシュロレーヌで、ジャパンC(G1)をコントレイルでそれぞれ優勝。世界にその名を轟かせた。

取材・文:平松さとし