【ジャックルマロワ賞回顧】「もう少し速いペースだったら…」アスコリピチェーノ末脚不発で6着
2025年08月18日 13:00

夏の欧州競馬マイル路線の大一番、ジャックルマロワ賞が8月17日(日)、フランスのドーヴィル競馬場1600m芝で行われ、日本から参戦したクリストフ・ルメール騎手騎乗のアスコリピチェーノ(牝4=美浦・黒岩陽一厩舎)は6着、岩田望来騎手騎乗のゴートゥファースト(牡5=栗東・新谷功一厩舎)は5着に敗れた。優勝したのはエイダン・オブライエン調教師が管理するアイルランド調教馬のディエゴヴェラスケス(牡4)。JRA発売のオッズでは単勝23.3倍、10頭立てで8番人気の伏兵を名手クリストフ・スミヨン騎手が鮮やかにG1初勝利に導いた。
最有力と目されていたマイルG1・2勝のイギリス馬・ロザリオン(牡4=R.ハノン厩舎)が直前に出走回避したことで、アスコリピチェーノの勝機が高まったはずだった。JRA発売の単勝オッズでも2.6倍の抜けた1番人気の支持。1998年にタイキシャトルが日本調教馬として初の優勝を飾ってから27年、2頭目の快挙への期待を一身に浴びた日本のマイル女王は好スタートを決めると、逃げた2番人気のザライオンインウィンターのすぐ後方、3番手グループの外ラチ沿いを手応え良く追走した。
ドーヴィルのマイルは直線コース。前半でディエゴヴェラスケス、日本のゴートゥファーストが馬群からやや離れた馬場の真ん中あたりを運んだ以外は特に大きな動きはなく、淡々としたペースで馬群ひと塊のまま迎えた残り400m。ここでようやく横の並びがバラけ始め、視界がクリアになったところで、さあ、アスコリピチェーノの末脚の出番かと思われたが、意外なほどに伸びて来ない。結局、大逆転劇の主役を演じた今年のヴィクトリアマイルで見せたような切れ味を発揮できないまま、6着に敗れた。

「いいスタートを切りましたし、タメの効く良いポジションにいたと思うのですが、段々と外ラチの方に馬が集まってきて、少頭数でもタイトな馬群になってしまいました。また、スローペースだったので馬群がさらに凝縮した感じがありましたし、なかなか自分の競馬をさせてもらえなかったなと思います。上がりの勝負になってしまったので、ポジションが下がったところからではなかなか差を詰めきれなかった」
そうレースを振り返ったのは黒岩調教師。確かに道中は絶好位を確保できたものの、道中の大半は各馬が一団となったまま進み、アスコリピチェーノは外ラチ沿いに押し込まれる形となっていた。この欧州特有の窮屈な競馬の中でジワジワと体力が消耗してしまったのかもしれない。
だが一方で、トレーナーは「スペースができた時にアスコリピチェーノ自身、もっと反応してもいいなという部分もありました。展開とは別の部分で馬自身の反応の物足りなさもあったと思います」とも語っている。道中は後方2番手にいたイギリス調教馬のノータブルスピーチ(牡4=C.アップルビー厩舎)は、馬群がバラけてから縫うように強烈な末脚を繰り出しアタマ差の2着に猛追。本来の力を考えればアスコリピチェーノが同じだけの脚を使っても不思議はなかった。しかし、それができなかった、させてもらえなかったというところが、欧州競馬トップ戦線の難しさでもあるのだろう。
また、手綱をとったクリストフ・ルメール騎手は「落ち着いてラチ沿いを走ることができました。残念ながらペースが遅かったこともあり、残り400メートル辺りでもなかなかギアアップすることができませんでした。もう少し速いペースだったら、もっと良い結果になっていたと思います」と、スローな流れになってしまったことを敗因として挙げている。

もう1頭、日本から挑戦したゴートゥファーストはアスコリピチェーノにクビ差先着する5着。勝ち馬からおよそ3馬身差での入線は、日本でも重賞未勝利という実績を考えれば大健闘と言っていいだろう。道中はディエゴヴェラスケスを前に置いて折り合いをつけ、直線も内からジワジワと脚を伸ばしてのゴールだった。
手綱をとった岩田望来騎手は「何もかもが初めて尽くしでしたがうまく対応してくれて、結果は5着でも僕としては満足のいく競馬ができたと思っています」と納得の表情。新谷調教師も今回の内容には手応えを感じている様子で、このまま無事ならG1ムーランドロンシャン賞(9月7日、仏・パリロンシャン競馬場1600m芝)に続戦するとのことだ。
前日の16日(土)には同じドーヴィル競馬場の2000m芝で行われたG2ギヨームドルナノ賞を日本のアロヒアリイ(牡3=美浦・田中博康厩舎)が快勝で重賞初Vを飾り、凱旋門賞のダークホースへと一躍名乗りを挙げた。同様にゴートゥファーストも日本での実績はなくとも欧州のG1戦線を沸かすような激走を期待したい。

なお、勝ったディエゴヴェラスケスは3番手のイン側を追走から力強く抜け出し、後続の追撃をしのいでG1初制覇。これで通算11戦6勝。前走のG2ミンストレルステークスを制するなどそれまで重賞4勝を挙げており、特に直近は4戦3勝と力をつけていた。ただ、2走前のG1クイーンアンステークスで9着と大敗していたことで、今回は下位人気にとどまっていた。
また、レース前日には今年限りで引退し、来年からは種牡馬となることが海外メディアで報じられている。父フランケル、5つ年上の半兄にはG1サンクルー大賞の勝ち馬で武豊騎手とのコンビで2021年凱旋門賞にも挑戦(11着)したことで日本ファンにもおなじみのブルームがいる血統。今回のジャックルマロワ賞勝利で種牡馬としての価値が各段にアップしたことだろう。
文:森永淳洋