【ブリーダーズカップ回顧】日本競馬初の快挙フォーエバーヤング、夢はまだ続く「勝てていないレースを全部勝ちたい」
2025年11月03日 13:15
ダート競馬の世界一決定戦、ブリーダーズカップ(BC)クラシックが日本時間11月2日(日)にアメリカ西海岸のデルマー競馬場2000mダートで行われ、JRA発売分で単勝1番人気に支持された坂井瑠星騎手騎乗のフォーエバーヤング(牡4=栗東・矢作芳人厩舎)が優勝。日本調教馬史上初の快挙を達成した。
日本調教馬として初めてBCクラシックに挑戦した1996年タイキブリザード(13着)から29年。フォーエバーヤングと坂井騎手がついに新たな歴史の扉を開いた。
「最高です。本当に世界一の馬だなと思いますし、悔いのないレースができました。こんなに嬉しいことがあるんだなという気持ちです」
殊勲の手綱を握ったジョッキーは、レース後のインタビューでそう喜びを噛みしめていた。「馬を信じて乗ってこい」。師匠である矢作調教師からレース前に受けた指示はそのひと言。坂井騎手がBCクラシックで見せた騎乗は、まさにその言葉通りのものだった。
レースは、同い年のライバルであり昨年のBCクラシック勝ち馬、単勝2番人気シエラレオーネ陣営が用意したペースメーカーであるコントラリーシンキングを1馬身前に見る形、好位2番手の外で1、2コーナーを通過。すぐ内側にはもう1頭の同い年のライバルで昨年BCクラシック2着馬、単勝3番人気のフィアースネスがいる。
「7、8割はフィアースネスを見ながら3、4番手かなというイメージだったのですが、逃げ馬とフィアースネスの雰囲気を見て、これだったら2番手を取り切ってフィアースネスを内に閉じ込められたらいいんじゃないかなと思いました」
この位置取りはレース中の判断だったと振り返った坂井騎手。フィアースネスを窮屈なインに押し込んだまま、ライバルに一歩先んじるポジションをキープするのに成功した。
だが、これで隊列がすんなりと収まったわけではない。すぐさまレースは動き始めた。ペースが遅いと見たか、向こう正面半ばから単勝5番人気のマインドフレームが先頭を窺う勢いで進出。フォーエバーヤングもこれに合わせて3コーナー手前から2頭並んで先頭に立つと、4コーナーからはさらに加速し単独先頭で最後の直線を迎えた。コーナーでのこの加速も調教で強化してきたポイントだと、矢作調教師は明かす。
「コーナーで少し置かれるところがある馬なので、そこを強化してきました。デルマーは直線が短いので4コーナーでトップスピードに乗るようにと、そういう調教をしましたし、それを実行できたので、これで負けたら仕方ないと思いました」
栄光のゴールを目掛けてリードを広げにかかるフォーエバーヤングと坂井騎手。しかし、本当の勝負はここからだと言わんばかりに、最内から外へと切り替えたフィアースネスがジワジワと迫り、そして道中最後方から虎視眈々と脚を溜めていたシエラレオーネが大外から末脚を伸ばして一気に襲い掛かる。それでもフォーエバーヤングは最後までスピードを落とすことなく、シエラレオーネの追撃を半馬身抑えて歓喜のフィニッシュへと飛び込んだ。
1番人気は確実と見られていた今年のケンタッキーダービー&ベルモントS二冠馬ソヴリンティが熱発のため直前で回避となったものの、その上でもなお「史上最高メンバー」の呼び声があった今年のBCクラシック。このハイレベルな一戦を正攻法で制した日本馬の強さ、そして歴史的価値に文句を言う者はいないだろう。
「この1年はこのレースを勝つためにやってきたと言っても過言ではありません。(当日の馬の様子は)パーフェクト。これで負けたら、俺どうしたらいいんだろう?というくらいの状態でした。(ゴールの瞬間は)いやあ、考えられないですよね。もちろん勝つために来ているんですが、想像できなかったというか、何も言葉はなかったです」(矢作調教師)
昨年、ともに3着に敗れたケンタッキーダービー、BCクラシックから3度目の正直でつかんだ米国ダートの頂点。今年は香港最強ロマンチックウォリアーとの死闘を制したサウジカップ1着に始まり、ドバイワールドカップ3着の悔しさを乗り越え、船橋の日本テレビ盃1着をステップに世界一の座にたどり着いた。3歳時からそうであったが、中東、日本の地方競馬、アメリカと場所を選ばず活躍する姿は、まさに世界を股にかけるスーパースターと言っていい。
加えて、フォーエバーヤングの曽祖父であるサンデーサイレンスは1989年のBCクラシック勝ち馬。種牡馬として日本に渡り、その子孫が血のルーツであるアメリカで頂点に立った――そんな36年にも渡る血統ドラマもまた競馬の面白さ、奥深さでもある。
「最初から素晴らしい馬でしたが、ここに来て完成に近づいていると思います。フォーエバーヤング自身、まだ勝てていないレースがあるので、そこを全部勝ちたいなと思っています」
坂井騎手は自身がフォーエバーヤングにふさわしい“世界一のジョッキーになる”という目標とともに、相棒のこれからの展望をこう語った。「勝てていないレース」というのはドバイワールドカップがそうだろうし、期待されている芝レースへの参戦も含まれているのかもしれない。
いずれにせよ、フォーエバーヤングの挑戦はここでピリオドではなく、まだ続きがあるということ。これからももっとフォーエバーヤングと一緒に夢を追い続けることができる――それは私たち日本の競馬ファンにとってこれ以上幸せで楽しみなことはない。
一方、日本で馬券が発売されたレースのうち、1600m芝のBCマイルに出走したアルジーヌ(牝5=栗東・中内田充正厩舎)は、騎乗したランフランコ・デットーリ騎手が「最後はとても良い脚で伸びてきました」と後方からよく追い込むも6着。外め9番枠からの発走だったために位置取りが悪くなり、「もうちょっと運がこっちの味方だったら着順は前の方に来てくれたのかな」と中内田調教師はコメントしている。
また、BCスプリント(1200mダート)に出走したアメリカンステージ(牡3=栗東・矢作厩舎)は4着、BCターフスプリント(1000m芝)に出走したインビンシブルパパ(牡4=美浦・伊藤大士厩舎)は6着、ピューロマジック(牝4=栗東・安田翔伍厩舎)は10着、BCディスタフ(1800mダート)に出走したアリスヴェリテ(牝5=栗東・中竹和也厩舎)は10着、前日の日本時間11月1日に行われたBCジュベナイルフィリーズターフに出走したスウィッチインラヴ(牝2=栗東・矢作厩舎)は11着だった。
なお、2400m芝で行われたBCターフでは、障害レースにも出走している二刀流のアイルランド調教馬で現地の単勝オッズ28.7倍の伏兵エシカルダイアモンドが優勝。2022年&24年の同レース覇者レベルスロマンス、今年の欧州オークス三冠で凱旋門賞2着のミニーホーク、日本でもおなじみゴリアットら並みいる平地専門の強豪G1馬を大外から豪快に差し切る驚きのVだった。
文:森永淳洋
