凱旋門賞

Qatar Prix de l'Arc de Triomphe

2017/10/01(日)23時05分発走 ※発走日時は日本時間

シャンティイ競馬場

見どころ

今年の凱旋門賞で大本命と目されているエネイブル
今年の凱旋門賞で大本命と目されているエネイブル

驚異の3歳牝馬エネイブル、厳しさ増すマークを跳ね除け戴冠なるか

「エネイブルの、エネイブルによる、エネイブルのための凱旋門賞」となるのか、そうはさせじと他の馬たちが意地を見せるか。今年の凱旋門賞は1頭の傑出した3歳牝馬をめぐって争われることになった。

主役のエネイブルは前走までG1を4連勝中。いずれも2着馬に5馬身前後の差をつけるワンサイドの内容で能力の違いを見せつけてきた。それら4勝のうち英愛オークスは3歳牝馬同士、前走のヨークシャーオークスも牝馬限定戦で相手関係を疑うこともできるが、7月のキングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスでは、この凱旋門賞でもライバル視される年長の牡馬たちを一蹴している。この間に良、稍重の馬場をこなし、何らそん色のないパフォーマンスを発揮。フランスへは初遠征になるが、輸送や初コースは愛オークスで問題にしておらず、能力面や経験値において課題は見当たらない。下馬評で圧倒的支持を集めるのも納得の存在だ。

唯一、死角となるなら、英国調教の3歳牝馬は凱旋門賞を未勝利というデータになるが、そもそも地元フランス馬に有利で、英国調教馬の優勝自体が過去30年で6回しかないレース。エネイブルを送り出すJ.ゴスデン調教師とL.デットーリ騎手の師弟コンビは、2年前に3歳馬のゴールデンホーンで凱旋門賞を制したばかりでもあり、データの壁を乗り越えて新たな金字塔を打ち立てる可能性も低くはないだろう。

打倒エネイブルを実現する筆頭候補には、昨年の凱旋門賞で上位独占の離れ業を演じたA.オブライエン調教師が率いる軍勢に注目。今年も9月25日の段階で7頭の登録を残し、ギリギリまで出走メンバーの選抜に神経を尖らせている。その中には昨年2着のハイランドリール、3着のオーダーオブセントジョージも含まれるが、むしろ注目したいのはエネイブルと同じ3歳の牡馬カプリと牝馬ウィンターの2頭。ハイランドリールはキングジョージでエネイブルに完敗したのに対し、カプリもウィンターも今回が初めての直接対決となる。

カプリは愛ダービーと英セントレジャーの二冠、ウィンターは英愛1000ギニーなどG1を4勝しており、同じ3歳馬としてエネイブルに決して引けを取らないだけの実績を有している。そして、これら精鋭の中からエースライダーのR.ムーア騎手が、どの馬をパートナーに指名するのかも重要な鍵。昨年は3頭の見事な連携で上位独占を成し遂げ、ムーア騎手が優勝をさらったように、陣営が束になって最適な展開を演出してくるはずだ。

地元フランス勢は最近10年で4勝と外国勢に押され気味だが、史上3例目の母子制覇が懸かるザラック、史上最多の凱旋門賞7勝を誇る名伯楽A.ファーブル調教師が送るクロスオブスターズ、そして今年の仏牡馬クラシック二冠馬ブラムトと、3年ぶりのタイトル奪還も望めそうなタレントがそろった。いずれも半年以内にG1初制覇を飾っており鮮度も十分だ。

ただし、ザラックは前走から3か月ぶりの実戦となるうえ、左回りに良績が偏っている傾向。ブラムトもスタートに課題がありポジショニングに不安を抱える。3頭の中では前哨戦のフォワ賞に姿を見せ、しっかり2着と結果も残したクロスオブスターズが、ひと叩きの上積み込みで最右翼となるか。

昨年に続きシャンティイ競馬場で代替開催される凱旋門賞では、血統的な特異性にも注目しておきたい。従来のロンシャン開催では欧州の大種牡馬サドラーズウェルズの系統が不振を極めていたが、昨年は一転して直系が上位を独占した。今年も主役のエネイブルをはじめ、A.オブライエン勢の前記4頭も該当。それに対してフランス勢の前記3頭は異系に属している。

サドラーズウェルズの直系という点では、今年になってG1を2勝しているユリシーズも同様だ。キングジョージではエネイブルから4馬身半差の2着と完敗したものの、今回は当時にくらべて斤量差が縮まる。さらに、キングジョージの10頭立てから頭数が増え、エネイブルへのマークが一段と厳しくなることが必至なのも、末脚自慢のユリシーズには好都合だ。また、フォワ賞を制して臨むドイツのチンギスシークレットもサドラーズウェルズの直系。道悪巧者ぶりはサトノダイヤモンドを通じて日本の競馬ファンに強く印象づけたばかりで、エネイブルやA.オブライエン勢など、今回の中心勢力と未対戦だけに底知れない魅力がある。レース当日まで雨が降るほどに勝機も拡大するのではないか。

日本期待のサトノダイヤモンドは、フォワ賞の結果からもチンギスシークレットとは正反対の条件が望み。勝ち負けはフォワ賞より少しでも好状態の馬場が前提で、何はともあれ天気次第の面がある。そこをクリアできれば、4か月ぶりの実戦をひと叩きした変わり身で前進も大いに見込めるだろう。前走は遠征初戦であらゆる面がテストケース。僚馬サトノノブレスともども敗戦から学んだことは少なからずあったはずだ。何よりも、近年の日本調教馬とは異なり、本番での厳しいマークから解放された立場を幸いとしたい。