取材・文:平松さとし
撮影協力:smart center 京都, the garden カフェ「.S」
さて、クリンチャーの話をお聞かせください。最初にこの馬の凱旋門賞挑戦という話が出たのはいつくらいですか?
「年明けすぐくらいにお話を伺いました。今年初戦の京都記念は、僕が同日の共同通信杯での騎乗が先に決まっていたので乗れなかったのですが、この時から凱旋門賞を見越しての依頼は受けていました」
昨年のクラシック戦線ではダンビュライトの相手として戦っていました。当時の印象は?
「菊花賞(2着)の印象が強烈に残っていますね。あの日はすごく悪い馬場状態でダンビュライトも一杯になってしまったけど、クリンチャーは勝つんじゃないかというシーンを作っての2着。スタミナのある馬だと感じました」
阪神大賞典で実際に騎乗しました。結果は3着でしたが、実際に乗ってみてイメージと違う感じはありましたか?
「そうですね。思った以上にピリピリしていて、レースでも掛かってしまいました。ただ、この時は調教もだいぶ強くやっていた時期で、それが原因だったのか、これがこの馬の気性なのか少し分かりかねるところがありました。続く天皇賞では調教内容を変えるなどして臨んだのですが、僕が騎乗停止になってしまい乗れませんでした。だからまだ気性面を含め、掴みきれていない面はあります」
天皇賞では三浦皇成騎手が騎乗して3着。観ていてどう感じられましたか?
「道中、勝つかなと思う場面がありましたし、やっぱり走る馬だと感じました。レースが終わって1分と経たないうちに前田幸治オーナーから電話がかかってきて『秋は凱旋門賞へ行こう』と改めて言われました」
最初に武豊騎手も言われていましたが、G1勝利はないものの何度も好勝負を演じています。
「ジェニアルも日本では500万下クラスでしたけど、フランスでG3を勝ちました。ジェニアルがG3を勝てるのだから、クリンチャーならG1を勝っても不思議ではないでしょう(笑)。また、スタミナのある馬だから向こうの馬場も合うと思いますね。血統的にも向いているでしょう」
武豊騎手は過去に大舞台のプレッシャーに押し潰されると感じたことはないのでしょうか?
「そういうのは嬉しいプレッシャーですからね。乗っていなければ味わえないプレッシャーなので歓迎ですし、レースにおいてネガティブなプレッシャーを感じたことはほとんどないですね。競馬ですから負けることが多いのは仕方ありません。もちろん勝ちたいし、勝てるように頑張っているけど、負けたからといって毎回落ち込んではいられません。もちろんスタート直後に『もう1回、やり直させて!』と思うこともあるけど(笑)、競馬にテイク2はないですから。負けても次に切り替えるようにしています」
騎手は敗因を被せられることもありますよね?
「最後を託される立場ですから。言いたいことがあっても結果が悪ければ、黙って被らなくてはならないこともあります。その反面、上手に乗れなかったと思っていても勝てば褒められることもある。だからこそ結果は大事なんです。凱旋門賞でも結果を出したいですね」
日本馬は2着が4回ありますがいまだ勝った馬はいません。これについてはどうお考えですか?
「ディープインパクトでも勝てなかったし、あのオルフェーヴルでも2年連続で2着に敗れた。これだけ多くの馬が出走していて、もちろん運やタイミングもあると思いますけど少し不思議ですね。でも、考えてみれば欧州のホースマンが皆、ここに全力を向けてくるわけだから簡単に勝てないのは当然です。レベル的にどうだったかなと思う凱旋門賞はないですし、そこは他のG1レースとは違うと思います。それを思えば日本馬の成績も決して絶望的ではないですし、トライし続ければいつか必ず勝つ日が来ると思います」
それが今年かもしれません。
「そうですよ!その可能性は充分にあると考えていますし、そうなるように頑張ります」
改めて武豊騎手にとって、凱旋門賞とはどのような意味を持つレースなのかお教えください。
「毎年の目標です。勝ちたいレースは沢山ありますけど、もし1つ選べと言われたら『凱旋門賞です』とハッキリ言える。その思いは年を追うごとに強くなる一方です。それが凱旋門賞というレースです」
では最後にファンの皆様にメッセージをお願いします。
「日本の馬で海外のG1に騎乗する時は、ナショナリズムを感じます。勝てば沢山の日本のファンが喜んでくれると思うと、ありきたりだけど、ベストを尽くそうという気持ちもより強くなります。凱旋門賞は勝った馬の関係者だけがレースのあと、スタンド前を馬車に乗ってパレードできるのですが、それに乗れるように頑張ります。応援よろしくお願いします!」