空模様が不安定で混戦の下馬評に拍車、日本勢の凱旋門賞制覇に追い風は吹くか
今年の凱旋門賞は3年ぶりに日本から複数の馬が挑戦。クロワデュノール、ビザンチンドリーム、アロヒアリイの3頭が現地でそれぞれ異なる前哨戦を勝って本番に駒を進めるという、かつてないほど充実した態勢を整えてきた点が非常に興味深い。今後のチャレンジに向けて新たな可能性を開くような成果も期待できるだろう。
ただし、今年も馬場状態が気懸かり。週初めには9月7日のトライアルデー以上の好状態という予測が立てられていたが、週末に向けて天気が崩れるという予報に変わった。欧州勢にも振り回されている陣営が散見する状態で、大混戦の下馬評に拍車を掛けている。
日本勢はブックメーカーの前売りでクロワデュノールとビザンチンドリームの評価が高く、3番人気を争っている状態。クロワデュノールは前走のプランスドランジュ賞で道悪を経験し、夏場に稼働していた欧州勢に対してダービーから3か月半ぶりの実戦、他馬より重い斤量など完全アウェーの状況を克服した。短アタマ差の辛勝でも勝ち切った点を素直に評価すべきで、皐月賞からひと叩きのダービーで良化したように上積みも大きいだろう。
あとは欧州で経験の少ない北村友一騎手が厳しいレースに対応できるか。前売り人気に表れているように、今や日本馬は挑戦者の一方でマークされる立場でもある。今夏はダノンデサイル(英インターナショナルS)、アスコリピチェーノ(ジャックルマロワ賞)が不本意な結果に終わり、駆け引きの難しさを痛感させられたばかり。前哨戦の段階でムチの過剰使用による制裁を受けた北村騎手には、慎重かつ大胆な騎乗が求められる。
ビザンチンドリームのフォワ賞は昨年の凱旋門賞で3着のロスアンゼルス、4着のソジーら実績馬に快勝。ほぼ最後方から外を回ったレッドシーターフHや天皇賞(春)とは異なり、馬群の中から抜け出してO.マーフィー騎手がステッキを入れることなく差し切った内容は大きな収穫だった。ただ、レース後にはさらなる馬場悪化を懸念する陣営のコメントがあり、本番当日の馬場状態は心配なところ。馬場さえ良ければ鞍上も含め日本勢で最右翼の期待もできるが。
アロヒアリイは腕試しのギヨームドルナノ賞を鮮やかに逃げ切り、当初は挑戦が白紙だった凱旋門賞へ文字通りに弾みをつけた。ただし、逃げる形にはなったものの出遅れており、5頭立ての少頭数で序盤からペースが上がらない展開、その相手関係など恵まれた面もある。ビザンチンドリームともどもゲートが上手な方ではないだけに、頭数が増える本番で決められるがカギ。弥生賞や皐月賞の内容からスタミナは相当ありそうで、初の2400mはむしろプラスと感じさせる。
傑出した牡馬が不在の凱旋門賞で、1番人気を争っているのがアヴァンチュールと追加登録で臨むミニーホークの牝馬2頭だが、実績的にはアヴァンチュールの信頼性が上回っている。昨年の凱旋門賞で2着、今年も4戦3勝、2着1回と安定感は抜群で、重要前哨戦のヴェルメイユ賞を完勝と欠点らしいものが見当たらない。昨年もヴェルメイユ賞2着からの臨戦だった。
これに対してミニーホークは英、愛、ヨークシャーと「オークス」とつくG1を3勝し、今年は無傷の4連勝中だが、牝馬限定戦のみで古馬との対戦も前走が初めて。当時は良馬場だったが、2着のエストレンジ陣営は軟らかい馬場向きを公言し続けており、馬場の軟化が見込まれる今回は、1kg詰まる斤量差と合わせて関係性が変わる可能性も残っている。また、これら3オークスを勝った3歳牝馬は2017年にエネイブルが凱旋門賞を制しているものの、同馬はキングジョージ6世&クイーンエリザベスSで年長の牡馬も負かしていた。
カルパナは前走のセプテンバーSでジアヴェロットに完敗し、一度は凱旋門賞からの撤退も噂されるほど評価を落としたが、雨予報を受けて徐々に人気が回復。当日には日本勢を抜いているかもしれない。今年は4戦未勝利ではあるものの3戦がG1で、デビューから3着以内を守ってきた安定感は健在。ディープインパクトの孫世代に当たるこの馬が、日本勢の悲願の前に立ちはだかることも。
ジアヴェロットは良馬場を見込んで週初めに出走表明したものの、本番当日までに回避する可能性が出てきた。年内は香港ヴァーズの連覇が大目標で、調教師も現地1日の時点でかなりトーンダウンしており、出走の場合はオーナーの意向が強いものになりそうだ。
昨年の凱旋門賞で4着のソジーは、同馬主で2着のアヴァンチュールに完敗の形だった。前走のフォワ賞ではビザンチンドリームにねじ伏せられており、馬場状態の良し悪しにかかわらず、上位争いはできても勝ち切るほどのパンチに欠ける印象。昨年3着のロスアンゼルスも同じ境遇にある。
仏ダービー2着のクアリフィカーはギヨームドルナノ賞でアロヒアリイに完敗したが、凱旋門賞で歴代最多の8勝を誇るA.ファーブル調教師の説明では、休養中に大きくなりすぎたため、凱旋門賞から逆算して使いはじめたとのこと。前走のニエル賞をしっかり勝った事実に裏づけがあり、これまでも本番ではひと味違う仕上げを施してきた名伯楽の手腕が不気味。ソジーもファーブル師の管理馬で、昨年の仏ダービーは3着だった。
混戦の下馬評だけに伏兵も多士済々。日本では2016年に馬券発売が開始されたが、昨年までの9回のうち7回で地元のフランス勢が1頭以上の入着を記録しており、地の利のある地元勢は軽視できない。
9月30日時点で129勝を挙げ、2位のファーブル師に36勝差をつけてリーディングを独走するF.グラファール調教師は3頭出し。仏オークス馬ゲゾラ、前走でG1ジャンロマネ賞勝ちのキジサナ、そしてクロワデュノールと接戦のダリズという実力馬をそろえている。日本から見て気になるのはやはりダリズで、前走は直線でスムーズならクロワデュノールを差し切っていたかの脚勢。1kg軽い斤量だったとはいえ、内容的に勝負づけが済んだとはいえず侮れない。
また、ゲゾラは前走のヴェルメイユ賞でアヴァンチュールに完敗だったが、昨年はヴェルメイユ賞の上位2頭がそのまま本番でもワンツーを決めたように、アヴァンチュール以外となら互角と考えておく必要はありそう。キジサナは瞬発力を持ち味としているため、グラファール師は可能な限り良い馬場を希望している。
これら以外でも、ホワイトバーチとホタツェルにはG1勝ちの実績があり、前走のアイリッシュチャンピオンSは両馬に少々堅くベストとはいえない馬場状態ながら、ドラクロワの奇襲ともいえるようなスパートにも大きく崩れていない。ルファールは7月に今回と同舞台のパリ大賞でG1勝ち。走破時計の2分26秒45を凱旋門賞と比較すると、パリロンシャン開催の2018年以降では2位に相当し、馬場次第で大きく浮上する可能性も。アローイーグルはG1実績がなく格下だが、2年前の優勝馬エースインパクトの半弟という血統が魅力。
※エストレンジは出走取消となりました。
(渡部浩明)