良馬場が濃厚でアスコリピチェーノにも勝機
日本からアスコリピチェーノとゴートゥファーストが3年ぶりに参戦するジャックルマロワ賞。舞台となるドーヴィル競馬場周辺は、週初からレース当日の17日まで大きな崩れは無い好天の予報が発表されており、日本調教馬に不足ない馬場状態を期待できそう。前日の16日にはアロヒアリイが出走予定のG2ギヨームドルナノ賞があり、馬場状態の確認と合わせてそちらにも注目したい。
良馬場の可能性が高いならアスコリピチェーノの勝機を期待しても良さそうだ。直線平坦の1600mが舞台となるジャックルマロワ賞のレースレコードは、スプリント路線で活躍したムーンライトクラウドがマークしたもの。アスコリピチェーノは前々走の1351ターフスプリントで好位から押し切るスピードを披露したうえ、前走のヴィクトリアマイルでは追い込みに近い形で差し切るなど自在性もある。
ゴートゥファーストはオープン入り後に重賞を2戦するも結果を出せていない。前走のダービー卿CTは1着から0秒4差と着順(8着)ほど負けていないが、勝ち馬より2.5kg軽い55kgとハンデに恵まれていた。今回は初の海外遠征で相手が一気に強化し、斤量も59.5kgに増加。登録があるムーランドロンシャン賞へ転戦するならば、ここである程度の内容は残しておきたいが。
地元のフランス勢が圧倒してきた歴史から、近年は打って変わって遠征馬が優勢になっている。当面のライバルは、その中心を担っている英国勢やアイルランド勢になるか。
1番人気が予想されるロザリオンは前走のサセックスSでクビ差、前々走のクイーンアンSもハナ差でそれぞれ2着、3走前のロッキンジSでは1着から約2馬身半差の3着と今季の英国マイルG1で勝ち負けになってきた。着差をつけられたロッキンジSは11か月ぶりの実戦という明確な敗因があり、その休養前は3歳マイル王決定戦のセントジェームズパレスS勝ち。2歳時にはジャンリュックラガルデール賞制覇とフランスでも結果を出している。堅実無比で最も穴が少なく、勝利に近い存在であることは間違いないだろう。
昨年の英2000ギニー馬ノータブルスピーチはロッキンジSとクイーンアンSで4着。大きく崩れた訳ではないものの、ロザリオンには3歳時のセントジェームズパレスSから3連敗中と分が悪く、前走は1200mのジュライCに出走(5着)とレース選択にも迷いを感じさせている。速い流れを体験したことがスピード優先の舞台で生きる可能性もあるが、あるいは成長力が不足しているのかもしれない。
この2頭をクイーンアンSで下したドックランズが1200万円余りの巨費を投じて追加登録してきた。ドーヴィル競馬場は未経験だが、アスコット競馬場の直線1600mに無類の相性を誇り、高い適性を秘めていても不思議はない。ゲートに課題を抱える身ではあるものの、追加登録料は3着以上でなければ回収できない金額。勝算あっての決断なのは当然で、クイーンアンSのように決まれば上位争いの可能性は十分にある。
ダンシングジェミナイはロッキンジSでロザリオンとノータブルスピーチに先着(2着)。しかし、クイーンアンSでは8着に終わり両雄の後塵を拝した。昨年の仏2000ギニーで2着などG1制覇に手が届く位置にいるのは確かだが、ここまで重賞1勝と底力の面で一枚落ちる感は否めない。
同じくG1未勝利だが、3歳馬のザライオンインウィンターは英ダービー戦線の前売りで1番人気に推され続けてきた素質馬で、このジャックルマロワ賞でも2番人気が予想されるなど現地での評価が高い。英ダービーでは4番人気まで評価を落とした末に大敗と一度は底を打ったが、距離を一気に1000m短縮した前走のジャンプラ賞で際どく3着に巻き返してみせた。その勝ち馬ウッドショーナは10日のモーリスドゲスト賞で3着と古馬に善戦し、今回の舞台は当時から200m延長するだけ。それらの比較から通用の目算は立つ。
ザライオンインウィンターの僚馬ディエゴヴェラスケスは今週になってオーナーが変わり、来年からの種牡馬入りが発表された。この馬もG1未勝利だが、昨秋のBCマイル(取消)から今季初戦になったクイーンアンSは順調さを欠いたもので、それを除けば重賞3連勝中と考えることもできる。半兄ブルームがG1勝ちなど血統も筋が通っており、種牡馬入りに向けてG1の勲章が欲しいところ。
8年ぶりの覇権奪還を狙うフランス勢は古馬2頭に3歳馬1頭という、質量ともに淋しい顔ぶれになってしまった。キングゴールドにG1勝ちの実績があるものの、2年前のモーリスドゲスト賞でいささか古い記録の上に当時は道悪。今年はドバイでダートのG3ファイアブレイクS勝ち、前走のG3ポルトマイヨ賞で3連覇を達成しているが、重賞実績は道悪やダートとパワーに偏っている傾向があり、8歳の高齢でスピード勝負に対応できるか。
残りの2頭は今年からジャックルマロワ賞のスポンサーとなったアガ・カーンスタッドが所有するザビアリとリダリだが、3歳のリダリは今後も含めて注目したい。重賞勝ちは今年4月のG3フォンテーヌブロー賞のみだが、仏2000ギニー(5着)と仏ダービー(6着)ではそれぞれ勝ち馬から1馬身半ほどの差。仏ダービーは力み通しで終盤に伸び負け、続く前走のG3メシドール賞(3着)も道悪と敗因がある。陣営としても良馬場の1600mでこそと勝算あっての抜てきで、金星を手にしても不思議はない。
※ロザリオンは出走取消となりました。
(渡部浩明)