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【凱旋門賞】土屋真光の見解

2017年09月29日 13:00

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 断然の主役と目されているのが、7戦6勝の3歳牝馬エネイブル。目下GIを4連勝中で、2走前には凱旋門賞と並ぶ欧州2400m路線のプレミアレースである“キングジョージ”をぶっちぎりで制している。2着がユリシーズと凱旋門賞で有力馬に挙げられている馬だけに、このレースで完勝した結果から、ここでも中心視されるのは当然といえるだろう。戦績から、馬場に左右されず、むしろ“キングジョージ”の内容からも渋った馬場は大歓迎のクチ。週末に向けて、シャンティイは雨が降ることが予想されており、この馬にとっては文字通りに恵みの雨となりそう。さらに、仮柵をはずした後の2番枠というのも絶好だろう。

 とはいえ、死角がないかといえば、決してそうとも思えない。ひとつは、今年すでに6戦を消化している点。それも6月以降にGIばかり4戦というのは、3歳牝馬にはいささかタフであったように思える。また、“キングジョージ”の勝ち馬が凱旋門賞では好走しやすいが、勝つとなると容易なことではない。ヨークシャーオークスを経ての参戦では、2014年のタグルーダが、“キングジョージ”1着→ヨークシャーオークス2着ののち、凱旋門賞では1番人気3着となっている。もちろん、タグルーダ以上のスケールも感じるし、管理するのも同じJ.ゴスデン調教師ということからも、これをあっさり乗り越えることも想像できるが、エネイブルは敢えて1着がない、2、3着の軸としての1番手と考えたい。

 では、エネイブルを逆転する候補はどの馬か。当初は予報ほど雨が降らないと見てハイランドリールを想定していたが、残念ながら回避。残った中から、その候補4頭を挙げたい。

 まず、昨年の勝ち馬ファウンドや、回避したハイランドリールと同じ、クールモアのカプリ。アイリッシュダービーで後にニエル賞を快勝するクラックスマンを退け、3ヵ月半ぶりに出走した英セントレジャーを勝利した流れから、ステイヤーとしての色が強く見えるが、母の父が短距離指向の強いアナバーで、むしろ距離短縮は好材料に見える。抜け出してから最後まで抜かせなかった英セントレジャーの内容、そして凱旋門賞から逆算したと思えるローテーションにも好感を覚える。祖母の父は凱旋門賞馬サガミックスを送り出したリナミックス。

 2頭目は同じくクールモアのセブンスヘブン。今年のドバイシーマクラシックでもかなり渋った馬場でジャックホブスの2着となった。もちろん、ポストポンドとハイランドリールの凡走もあっての2着ではあるが、この馬の特筆すべきは、やはり渋った馬場だった昨年のヨークシャーオークスで、2走後に凱旋門賞を制するファウンドを3馬身近く退けている点である。4ヶ月ぶりだった前走のブランドフォードSは、牝馬にもかかわらず60kgの斤量で、カプリ同様に凱旋門賞から逆算した叩き台と考えてこれは度外視できる。ライアン・ムーア騎手ウィンターを選んだという点は無視できないが、クールモア勢ならこの2頭を推したい。

 3頭目はフォワ賞を制したチンギスシークレット。目下3連勝中で、ドイツ調教馬であることや、サトノダイヤモンドが馬場に苦しんだフォワ賞を勝ったことから、重馬場の巧者ぶりは既に証明済み。ただ、ドイツ調教馬は意外に馬場を問わないケースも少なくない。2011年に凱旋門賞を制したデインドリームも、2分24秒49という超快時計で後続を5馬身千切り捨てた。一概に時計の比較だけでは言い切れないが、ベルリン大賞を勝ったときの時計は、チンギスシークレットが2分32秒8、デインドリームは2分33秒5だった。送り出すクルーク厩舎は、今年のドイツダービー馬で、9月にオイロパ賞を勝ったヴィントストースも擁する。使い分けに勝算を感じる。

 最後の1頭が、フォワ賞で2着だったクロスオブスターズ。実績が2000m前後に集中しており、距離には一抹の不安もあるが、前走のフォワ賞が4ヶ月ぶりで、本番を意識したレースぶりに見えた。しかも4角で不利も受けているにも関わらず、きっちり2着に入った。管理するのは凱旋門賞を過去7勝のファーブル師。ここ5年でも、勝利こそないものの、フリントシャー(2014、2015年とも2着)、ニューベイ(2015年3着)、アンテロ(2013年3着)、マスターストローク(2012年3着)と存在感を放っている。手ぶらということは、ちょっと考えにくい。

 一方、人気どころでは、ユリシーズは良馬場ならハイランドリールに、渋った馬場ならエネイブルに完敗しており、やや人気先行のきらいがある。同様にブラムトもフランス二冠の肩書きだけがひとり歩きしている印象。距離も疑問で、加えてスタート難があり、人気相当の旨味はない。サトノダイヤモンドは、馬場もそうだが、根本的に本調子に今ひとつといった印象を受ける。使った分、前走よりも上積みと、馬場への適応は感じるものの、厳しい戦いになりそうだ。むしろ、紛れるならサトノノブレスの方に妙味。