【フォワ賞回顧】ヴァルトガイストが重賞4連勝!クリンチャーは凱旋門賞での巻き返し期待
2018年09月17日 17:20
4月に新装オープンしたパリロンシャン競馬場で、3年ぶりの開催となったG2フォワ賞(芝2400m)は、P.ブドー騎手で単勝1番人気に推されたヴァルトガイスト(牡4、父ガリレオ、仏A.ファーブル厩舎)が、後方追走から直線で鮮やかな差し切りを決めて優勝。同厩舎の5歳牡馬タリスマニックに2馬身半差をつけて重賞4連勝を飾り、来月7日のG1凱旋門賞に向けて大きく前進した。武豊騎手を鞍上に欧州初戦に臨んだクリンチャーは先頭に立つ積極策も、これを目標に襲い掛かった欧州勢に一気に交わされて後退。先頭から約8馬身差のしんがり6着で入線した。穏やかな陽気にも恵まれたこの日の馬場は良馬場を示す”Bon”。勝ちタイムは2分28秒70だった。
出走した6頭の内、8月に競馬を使ったウェイトゥパリスとタリスマニックを除く4頭は、どれも前走から2か月半以上の間隔を空けての実戦。特に4月の天皇賞・春(3着)以来の競馬となったクリンチャーは、本番と同じ馬場を走って芝の感触を確かめながらレース勘を取り戻すこと。そして、納得できる結果を残すことが求められたが、残念ながら最後の課題はクリア出来ずに終わった。
ここに3頭を送り出したフランスの"皇帝"A.ファーブル調教師は今年も定位置のリーディングを独走するものの、この日の開催前までG1勝ちはヴァルトガイストのサンクルー大賞の1度だけ(フォワ賞の前に行われたヴェルメイユ賞を4歳牝馬のカイトサーフで優勝)。3歳世代もG1仏ダービーへ出走させる馬が1頭もいなかったようにエース不在でありながら地道に獲得賞金を積み重ねてきた。フォワ賞の結果は、この流れを変えた。厩舎の稼ぎ頭で秋に狙いを定めて順調なステップを踏んでいたヴァルトガイストが、期待を上回る走りを見せ、米国のG1ブリーダーズCターフ連覇を視野に入れるタリスマニックが2着に健闘。前年の凱旋門賞2着馬のクロスオブスターズも差のない3着(2着に短クビ差)と申し分のない結果は厩舎の巻き返しに火をつけたのではないか。
レース直後のファーブル調教師はいつものように表情を崩さなかったが、古馬トリオの好走が嬉しくないはずはなく、特にヴァルトガイストについては「この馬はジャパンカップに向いていると思う」というリップサービスまで飛び出した。凱旋門賞で最多の7勝をして"勝利の方程式”を知るベテランらしい余裕が感じられる言葉だった。
クリンチャーは押し出される恰好でハナを切って最後は欧州馬の手荒い洗礼を受けた。エルコンドルパサーやディープインパクトの凱旋門賞と同じパターンでの敗戦である。ゲートをスムーズに素早く出ることを教え込まれている日本馬にとっては仕方のないことだが、このあたりにも彼我の競馬の違いが見え隠れしている。レース後のインタビューに答えた武豊騎手は「走りも悪くなかったですし、馬場も気にするところはありませんでした。もともと叩いて良くなるタイプなので、次に期待したいと思います」と残り3週間での変り身での巻き返しに希望をつないだ。だが、外野席からの視線は厳しくならざるを得ない。トライアルということを踏まえても今回のレースぶりは心許ない。中間の調教によって心身共に引き締まってくることは間違いないだろうが、上位陣が分厚い今年の凱旋門賞にはさらに厳しい壁が立ちはだかる。
ノーステッキで馬群を交わし去ると鞍上が手綱を緩める余裕さえあったヴァルトガイストの成長には目を瞠る。昨年はG1仏ダービーでブラムトに短アタマ差の2着するなど、その潜在能力は誰もが認める馬だったが、シーズンが終わってみれば5戦して勝ち星なく2着3回で終了。心身共に幼さを残していたのだろうか。しかし、今年に入ってからの5戦は初戦のG2アルクール賞こそ5着だったが、5月のG3エドゥヴィル賞を皮切りに、6月のシャンティイ大賞、7月のG1サンクルー大賞、そしてフォワ賞と芝2400mの重賞ばかり4連勝。シャンティイ大賞では重馬場で後続を3馬身ちぎった。血統は父ガリレオ、母の父がモンズーンで、こちらも晴雨兼用を物語っている。長期予報は10月1週目のパリ地区に雨マークをつけている。当日馬場が悪くなった場合は昨年シャンティイの重馬場で1、2着したエネイブルとクロスオブスターズ、それに馬場が柔らかくなれば、と牽制球を投げるクラックスマンなどが強敵になるはず。雨はクリンチャーにも追い風となりそうだが・・・
(サラブレッドインフォメーションシステム 奥野 庸介)