プロフィール
母トゥーソードは現役時代にG1ゲイムリーHを勝ち、繁殖入り後は3頭のG1ホースを生み出していた名牝。そして、母ともどもハーリド・アブドゥラ殿下率いる名門・ジャドモントファームの自家生産馬という、眩いばかりの血統背景を持つエンパイアメーカー。その名に込められた期待は見事なまでに結実する。
オーナー陣営の期待のみならず、競馬関係者からも高い注目を集めていたエンパイアメーカーは、2歳10月のデビュー戦を単勝1.45倍の圧倒的人気に応えて快勝し、華々しくキャリアをスタートさせた。しかし、2戦目の重賞挑戦で3着に敗れると、明け3歳初戦も2着と続けて1番人気を裏切り、4戦目のフロリダダービーでは2番人気に評価を落とされた。
ここでR.フランケル調教師はエンパイアメーカーにブリンカーを初装着する。戦前のフランケル師は、もっと早い段階から使用するプランもあったものの、ピークが早まる可能性を考慮したと公言していた。すると、エンパイアメーカーは直線独走で9馬身3/4差の圧勝。名伯楽の采配的中でスポットライトを取り戻したエンパイアメーカーは、続くウッドメモリアルSでもファニーサイドをねじ伏せ、G1連勝でケンタッキーダービー最有力候補の座を不動の物とした。
ところが、エンパイアメーカーは本番を目前に控える週初に右前脚を打撲し、満足に調整できないまま大一番を迎えることになってしまった。レースは8番手から最終コーナーで先頭に並び掛けたものの、そこからファニーサイドに突き放されて2着。前哨戦で退けた相手に最大の夢を奪われる結果に終わった。
それでも、エンパイアメーカーはベルモントSに直行すると、プリークネスSも勝ってきた宿敵ファニーサイドを5馬身差の3着に沈めて意地の三冠阻止。フランケル師に生涯唯一のクラシックタイトルを贈った。その後は2か月後のジムダンディSで斤量が2ポンド(約1kg)軽い相手をクビ差捕らえ切れずに2着と取りこぼし、さらには予定していたレースを疾病や脚部不安の再発により次々と回避して引退。生まれ故郷のジャドモントファームで種牡馬入りした。
エンパイアメーカーの種牡馬生活は重賞勝ち馬を毎年輩出して順調そのものだった。ところが、6年目の繁殖シーズンを終えた秋に突如として日本に売却される。優良種牡馬の流出は米生産者の間に衝撃を与えただけではなかった。エンパイアメーカーが日本に渡った後になって、アメリカに残してきた産駒の中から4世代目のロイヤルデルタがエクリプス賞を3回受賞する名牝に育ち、2世代目のパイオニアオブザナイルは早々に種牡馬入りして三冠馬アメリカンファラオを輩出。その血を求める声が収まることはなく、日本に5世代を残してアメリカに買い戻され、2016年から現地で種牡馬生活を再開した。
その後、エンパイアメーカーは2020年の1月に20歳で亡くなったが、息子のパイオニアオブザナイル、孫の三冠馬アメリカンファラオも種牡馬として結果を出し、その勢力をアメリカは元より世界へ拡大しようとしている。