プロフィール
時に雑草とも称される存在が逆境を乗り越えながら描くサクセスストーリーは、洋の東西を問わず共感を呼ぶもの。スマーティジョーンズは波乱に満ちたデビュー前から無敗の三冠制覇に迫り、米競馬史に残るアイドルホースとして愛された1頭だ。
スマーティジョーンズはアメリカのサラブレッド生産においてマイナーなペンシルベニア州で生まれ、預託先は程なくB.カマック調教師に決まった。しかし、まだ生後9か月の2001年12月、カマック師が身内に殺害される痛ましい事件に巻き込まれてしまう。デビュー前にはゲート練習の際に頭を打ちつけて頭蓋骨を骨折。頭部の左側を激しく傷めて目に後遺症を負い、そのキャリアはマイナスからのスタートとなった。
しかし、2歳11月に初陣を迎えると3歳2月まで4連勝の快進撃で頭角を現し、5戦目のレベルSからクラシック戦線に向かう。オークローンパーク競馬場のオーナーが開業100周年の記念に500万ドルの「センテニアルボーナス」を設定。レベルSとアーカンソーダービーの勝者がケンタッキーダービーを制した場合に贈呈することを公表しており、スマーティジョーンズは首尾よく権利を獲得して無敗のまま大舞台へ駒を進めた。
ケンタッキーダービーに1番人気で迎えられたスマーティジョーンズは、逃げたライオンハートを直線半ばでねじ伏せる横綱相撲で完勝。続くプリークネスSをレース史上最大の11馬身1/2差で圧勝すると、シアトルスルー以来、27年ぶりの無敗三冠が現実的なものとなり、競馬の枠を超えて人気に火がついた。
ベルモントS当日のベルモントパーク競馬場には、三冠達成を見届けようと来場者数レコードの12万139人が殺到。競馬場側も応援団扇を配布するなど盛り上げに努め、異様な熱気に包まれた中、あとは勝利の瞬間を待つばかりとなる。
しかし、レースは探り合いのようなスローペースからスマーティジョーンズが向正面で先頭に立たされてしまう。それでも、鞍上がどうにか抑えて先頭をキープし、3馬身ほどのリードで直線に突入すると、大観衆のボルテージも最高潮に達した。ところが、残り1ハロン付近から目に見えて失速しはじめ、そこに道中4、5馬身ほど後方で機をうかがっていたバードストーンが接近。ダービーで寄せつけなかった伏兵にまさかの逆転を許し、静まり返る空気の中で三冠制覇の夢から醒めたのだった。