NEWS

ニュース

ニュース/コラム

【ジャパンC】グランドグローリー5着の価値は…4日の繁殖セールにも注目

2021年11月29日 14:00

  • 友だち追加数

「ジャパンCに参戦した牝馬の子は走る」-。これは外国馬招致のうたい文句にできると思う。もちろん、なんでもかんでも連れてくればいいというのではないし、世界最上位級のレースレーティングを持ったジャパンCというレースの質を下げる必要はない。ただ、外国馬の参戦=多様性の激突は競馬というエンターテインメントに欠かせないもの。ファンのワクワク感を大事にする努力を今後も主催者にはお願いしたいところだ。

 今年は海外から3頭が参戦したジャパンC。実績最上位でその馬名からも注目を集めたジャパン(牡5、A・オブライエン)は武豊騎手とのコンビで8着。前走BCターフ2着からの参戦だったブルーム(牡5、同)は後方のまま11着に敗れた。直線で伸びあぐねたアイルランドの2頭とは対照的に、外国馬最先着の5着でゴールしたのが、フランスからやって来たグランドグローリー(牝5、G・ビエトリーニ)だった。

 参戦が発表された時点で、自国フランスで行われるアルカナ社のブリーディングストックセール(繁殖セール、12月4~7日に開催)に上場されることも公になっていた。セール直前に異国で迎えるラストラン。「勝ちたいけど、5着以内を目指しています」。金曜朝の会見で本心を包み隠さずに話した陣営だったが、見事に5着という結果を出した。外国馬が日本馬に太刀打ちできない状況が続く近年のジャパンCでは、立派な成績だと言っていい。

 06年3着のウィジャボード以来となる海外調教馬の牝馬による掲示板(5着以内)だった。グランドグローリーは3歳春に仏オークスで3着に入り、今年は夏のジャンロマネ賞でG1初制覇を果たし、凱旋門賞当日の牝馬限定G1オペラ賞で2着惜敗。高速決着と距離延長への対応が要求されていた。このジャパンCの5着は世界中の生産者から高く評価されるに違いない。アルカナ社のセールの初日(4日)、「192番」で上場される彼女はどのような金額で、どこの国の生産者に落札されるのだろうか。

 ジャパンCに参戦し、引退後に活躍馬を出した繁殖牝馬といえば、真っ先に思い浮かぶのが、93年のアーバンシー(8着)だ。凱旋門賞を制して来日し、引退後はガリレオ、シーザスターズという欧州の歴史的名馬、名種牡馬を生んだ。彼女を祖とする牝系からは英ダービー馬マサーも登場した。18年の凱旋門賞では1~8着馬がアーバンシーの血を引いていることが大きな話題になったほど。“ジャパンCに参戦”した経験を持つアーバンシーの血は今の欧州競馬に欠かせない。

 81年にスタートし、数々の名牝が参戦してきたジャパンC。ハイホークはモハメド殿下所有馬として第3回(83年)のJCに来日し、13着に惨敗したが、繁殖入り後にインザウイングス(コロネーションC、サンクルー大賞、BCターフを制覇。シングスピールの父)を生んだ。

 91年のジャパンCで2着のマジックナイトは日本で活躍したマグナーテン、6着だったワジドは98年の英セントレジャー覇者ネダウィを生んだ。アーバンシー来日の2年後、95年に出走したフランス調教馬カーリング(11着)は快速馬ローエングリン(産駒ロゴタイプはG1・3勝)を生んだ。00年に出走したレーヴドスカー(7着)は2歳女王レーヴディソール、04年に出走したリュヌドール(7着)はフィエールマン(菊花賞制覇、天皇賞・春連覇)を生んだ。05、06年に2年連続で来日した名牝ウィジャボードは欧州に帰国し、英ダービー馬オーストラリア(今年来日したブルームの父)を生んでいる。06年7着フリードニアの子アルビグナは19年にフランスの2歳G1マルセルブーサック賞を制した。

 日本、欧州だけではない。89年、オグリキャップを相手に2分22秒2のレコードで駆け抜けたニュージーランドのホーリックスの子、ブリューは00年にオーストラリアの競馬の祭典「メルボルンC」を制している。

 ハイレベルな競走成績を残し、高いレーティングを獲得している馬でなければ参戦できないのが、近年のジャパンCだ。速い時計の出る馬場への対応力が問われ、外国馬陣営から見れば日本馬が強くなり、簡単に勝てるレースではなくなった。BC開催や香港国際競走、ドバイワールドカップ開催などに比べると、検疫&調教施設も外国馬には厳しいもの。ボーナスの条件を緩め、賞金額を上げても、なかなか外国馬の参戦は増えない状況が続く。そんななかで、グランドグローリーの5着快走は今後の外国馬招致活動へ向けて明るい材料になるかもしれない。

「グランドグローリーが来るってことを聞いたときは最初、『すでにどこかの日本の牧場が繁殖牝馬として購入済みなのかな』と思ったんです」(JRA職員)。引退レースであることは決まっていたが、事情は違った。ただ、終わってみれば、“繁殖牝馬としての価値を上げるため”の本気の参戦だった。5着馬に与えられる3000万円の賞金も欧州競馬の賞金と比較すると、破格のものとなった。

 4日のアルカナ社ブリーディングストックセール初日、グランドグローリーは目玉の上場馬になっている。コントレイルが有終の美を飾ったジャパンCで、今年のダービー馬シャフリヤールに肉薄し、オークス馬ユーバーレーベンに先着。クールモアの2頭にも先着した。日本の生産者にとっても魅力的な繁殖牝馬になった彼女の落札額にも注目したい。そして、来年以降、彼女に続く海外の有力牝馬の参戦を楽しみにしたいと思う。

出典:日刊スポーツ