日本馬挑戦の歴史
日本調教馬の初挑戦から約半世紀
日本調教馬が初挑戦したのは、人間の海外渡航さえ容易ではなかった1969年のこと。約50年、半世紀も昔に天皇賞馬スピードシンボリが開拓者となった。4歳の天皇賞・春でG1初制覇を飾り、秋にはアメリカにも遠征。そんな経験、実績とも備えたスピードシンボリが6歳を迎えて欧州に長期滞在するなど、難しいチャレンジを敢行したものの凱旋門賞では歯が立たなかった。スピードシンボリは帰国初戦で有馬記念を制し、翌年にかけて宝塚記念、そして有馬記念とグランプリ3連勝を飾った当時の最強馬。それでも太刀打ちできないほど実力に開きがあり、3年後に挑んだ天皇賞馬メジロムサシも壁に直面することになった。
それから14年後の1986年、シリウスシンボリが日本ダービー制覇からキングジョージに挑むなど約2年にもわたって欧州に長期遠征。5歳秋に凱旋門賞へと駒を進めたものの、ダンシングブレーヴの豪脚の前になす術なく後方2番手でのゴールとなった。
21世紀へエルコンドルパサーの飛翔
日本調教馬と凱旋門賞の距離が縮まったのは、スピードシンボリの初挑戦からちょうど30年後、21世紀が目前に迫る1999年だった。この年のエルコンドルパサーは先駆者たちと同様、フランスに長期滞在してG1サンクルー大賞制覇など次々と成果をあげ、戦前の段階で歴史を塗り替える快挙。凱旋門賞にも優勝候補の1頭として参戦するまでになった。不良馬場の中で敢然と逃げ粘り、惜しくも2着に敗れたものの1/2馬身差と、優勝へあと一歩まで迫ってみせた。
エルコンドルパサーの直後に続いた2頭は、再三のトラブルに見舞われて結果を求められるまでに至らない状況が続いた。そうした悪循環に楔を打つと同時に、日本調教馬の切り札として一身に期待を集める存在となったが2006年のディープインパクト。前年に無敗のクラシック三冠を成し遂げた最強馬をもってすれば、悲願達成は時間の問題と半ば信じられていた。しかし、レースでは2頭に先を越されてまさかの完敗。さらには呼吸器系治療薬の規定違反により失格の裁定が下され、日本中が声を失う結末を迎えてしまった。
失意の中で現れたゲームチェンジャー
ディープインパクトで勝てないのならいったい……凱旋門賞制覇が遠のいたかに思われた日本調教馬の元へ、一筋の光明をもたらしたのは2010年のナカヤマフェスタだった。G1勝ちは宝塚記念のみと、実績はエルコンドルパサーやディープインパクトに遠く及ばなかったものの、レースでは英ダービー馬ワークフォースと激闘を演じて2着。エルコンドルパサーの1/2馬身差からアタマ差へと、さらに勝利へと近づいて新たな可能性を示した。
そして2年後、ナカヤマフェスタと同じステイゴールド産駒で、ディープインパクト以来の三冠馬となるオルフェーヴルが渡仏。前哨戦のフォワ賞も制すなど、適性と実績の両面から不足のない態勢を整えて桧舞台に上がった。レースでは後方から直線一気に突き抜けて単騎先頭。あとはゴールに駆け込むだけという、誰もが勝利を信じる形勢に持ち込んだ。ところが、あとわずかという所で気まぐれな性格が顔をのぞかせ、目を疑うような急減速。一度は並ぶ間もなく抜き去った相手に差し返され、手にしたはずの栄冠を差し出してしまった。
オルフェーヴルは挽回を期して2013年も凱旋門賞に参戦。後輩ダービー馬のキズナも遠征して最強の布陣で挑戦したが、今度は3歳牝馬トレヴの豪脚に完敗を喫する。翌年は当時の世界ランキング1位ジャスタウェイら3頭が挑んだものの、またしてもトレヴが立ちふさがって36年ぶりの連覇を達成。この2年間に遠征した日本調教馬は間違いなく史上最強クラスの精鋭たちだったが、終わってみれば相手もまた歴史的名牝という不運に泣かされる結果となった。
その後、2016年にダービー馬マカヒキ、翌2017年にはG1・2勝のサトノダイヤモンド、サトノノブレスがシャンティイ競馬場での代替開催となった凱旋門賞に参戦したものの惨敗。エルコンドルパサーの快挙から20年近い月日が流れようとしているが、あと1枚の壁を破れない状態が続いている。
年 | 馬名 | 性齢 | 着順 | 騎手 | 調教師 |
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2017 | サトノダイヤモンド | 牡4 | 15 | C.ルメール | 池江泰寿 |
サトノノブレス | 牡7 | 16 | 川田将雅 | 池江泰寿 | |
2016 | マカヒキ | 牡3 | 14 | C.ルメール | 友道康夫 |
2014 | ハープスター | 牝3 | 6 | 川田将雅 | 松田博資 |
ジャスタウェイ | 牡5 | 8 | 福永祐一 | 須貝尚介 | |
ゴールドシップ | 牡5 | 14 | 横山典弘 | 須貝尚介 | |
2013 | オルフェーヴル | 牡5 | 2 | C.スミヨン | 池江泰寿 |
キズナ | 牡3 | 4 | 武豊 | 佐々木晶三 | |
2012 | オルフェーヴル | 牡4 | 2 | C.スミヨン | 池江泰寿 |
アヴェンティーノ | 牡8 | 17 | A.クラストゥス | 池江泰寿 | |
2011 | ヒルノダムール | 牡4 | 10 | 藤田伸二 | 昆貢 |
ナカヤマフェスタ | 牡5 | 11 | 蛯名正義 | 二ノ宮敬宇 | |
2010 | ナカヤマフェスタ | 牡4 | 2 | 蛯名正義 | 二ノ宮敬宇 |
ヴィクトワールピサ | 牡3 | 7 | 武豊 | 角居勝彦 | |
2008 | メイショウサムソン | 牡5 | 10 | 武豊 | 高橋成忠 |
2006 | ディープインパクト | 牡4 | 失格 | 武豊 | 池江泰郎 |
2004 | タップダンスシチー | 牡7 | 17 | 佐藤哲三 | 佐々木晶三 |
2002 | マンハッタンカフェ | 牡4 | 13 | 蛯名正義 | 小島太 |
1999 | エルコンドルパサー | 牡4 | 2 | 蛯名正義 | 二ノ宮敬宇 |
1986 | シリウスシンボリ | 牡4 | 14 | M.フィリッペロン | 二本柳俊夫 |
1972 | メジロムサシ | 牡5 | 18 | 野平祐二 | 大久保末吉 |
1969 | スピードシンボリ | 牡6 | 着外 | 野平祐二 | 野平省三 |