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女傑エネイブルの凱旋門賞連覇は? クリンチャーは天気が鍵か
現地3日に締め切られた追加登録を受け、昨年の18頭と同程度の多頭数で争われることになりそうな今年の凱旋門賞。その主役を担うのも昨年と同様にエネイブルだが、故障に見舞われて予定が大幅に狂った今年は隙もありそうだ。
昨年は破竹のG1レース4連勝で凱旋門賞に臨んだエネイブルだが、今年は始動戦を前にヒザを故障して再調整。前走で復帰するまでに11か月も実戦から遠ざかった。そのセプテンバーSではマイペースの逃げを打ち、直線でひと脚伸ばす程度の理想的な内容で完勝している。キングジョージ6世&クイーンエリザベスSで僅差の2着という実力馬クリスタルオーシャンを、J.ゴスデン調教師いわく8割という状態で退けたとあれば、3歳からの成長力も担保できたと考えられそうだ。
ただし、相手を1頭に絞れた前走に比べて同等かそれ以上の強敵が集結し、今回のパリロンシャン競馬場は未経験の上に斤量も昨年比3kg増と、長期休養明けの2戦目としてはハードルの上がり幅が大きい。連覇達成なら史上7頭目の快挙だが、100回近い歴史の中で6頭しかいない事実が、前年以上に困難な戦いとなることを暗示している。
日本から遠征のクリンチャーはフォワ賞完敗から如何にして巻き返すか。叩き良化型の同馬に久々の実戦は敗戦を織り込める条件だったが、直線であっさりと置き去りにされた内容は物足りない。2戦目の良化分を加味しても瞬発力勝負では分が悪そうで、宮本調教師が言うようにひと雨でも欲しいところだ。オープンストレッチが使用されないことになったのは、先行力があるクリンチャーに朗報といえ、あとはひと叩きでどれだけ粘りを増しているかが鍵だろう。
凱旋門賞出走は馬場次第と態度を保留していた3歳牝馬シーオブクラスが、12万ユーロ(約1580万円)もの追加登録料を支払って名乗りを挙げた。進上金や遠征費を考慮すれば、馬主には5着(賞金14万3000ユーロ=約1880万円)以上の結果が必要になり、すなわち自信の表れとなる。多頭数必至の中で後方一気の脚質を懸念されているが、ここまでのキャリアはわずかに5戦。前走のヨークシャーオークスでは残り400mまで鞍上が持ったまま進出するほどのスピードを見せており、不利を承知で後方待機策を取るとは決めつけられない。中団辺りで流れに乗れば、軽い斤量と持ち味の瞬発力が物を言う。ひと際目を引く黄色い勝負服に要注目だ。
シーオブクラスと同様に末脚の破壊力で勝利を狙うのが地元フランスの大将格ヴァルトガイスト。フォワ賞でクリンチャーらを一刀両断した瞬発力で、日本の競馬ファンにも一躍知られるところとなった。ヴァルトガイストの僚馬クロスオブスターズは昨年の凱旋門賞でエネイブルに2馬身半差の2着だったが、そのクロスオブスターズには3連勝中。エネイブルの負担重量が前年比3kg増となる今回、目下のヴァルトガイストをもってすれば差し切りも不可能ではない。もう1頭の僚馬タリスマニックを含め、凱旋門賞で最多勝を誇るA.ファーブル調教師が送り込む3頭は、どれが勝っても不思議ではないほどの実力を秘めている。
名伯楽といえばアイルランドのA.オブライエン調教師の管理馬たちにも注目。筆頭格は前走で英セントレジャー勝ちのキューガーデンズとなろう。ステイヤーらしい息の長い末脚を武器としており、同じ差し馬でも一瞬にしてギアを上げるシーオブクラスやヴァルトガイストとはタイプが異なるが、オブライエン勢は1歳上の英セントレジャー馬カプリら5頭出しの構え。チームプレーで有利な流れを作り出す。キューガーデンズは3走前のパリ大賞でパリロンシャン競馬場の2400mに勝ち鞍があり、経験値も十分に備えている。
地元の3歳牡馬は近年精彩を欠いているが、今年は日本の競馬ファンにとって楽しみな1頭が凱旋門賞に出走する。仏ダービーを制したディープインパクト産駒スタディオブマンだ。近走は見せ場も作れず2連敗と株を落としているものの、凱旋門賞参戦は仏ダービー制覇の直後から温められていたプラン。2400mは未経験ながら、同じ境遇だった2013年の仏ダービー馬アンテロは、凱旋門賞でキズナを抑え3着に食い込んだ。距離延長が吉と出る可能性もゼロではないだろう。