地元の上位勢力は海外遠征帰り、臨戦過程が有利な日本勢に初制覇の好機
2016年のG1昇格と歴史が浅いこともあり、香港チャンピオンズデーのG1レースで唯一、日本調教馬の優勝がないチェアマンズスプリントプライズだが、今年は千載一遇のチャンスかもしれない。前年の覇者で現役最強のラッキースワイネスが故障で戦線離脱し、代わりを担うカリフォルニアスパングルとビクターザウィナーはともに海外遠征帰り。日本から挑むマッドクールとサンライズロナウドは臨戦過程に余裕があり、ライバルたちの地の利を相殺可能な関係にある。
出走メンバーの中でG1勝ちの実績があるのはカリフォルニアスパングルとビクターザウィナー、リトルブローズ、そしてマッドクールの4頭だが、このうちリトルブローズは豪州で2歳時に記録したもの。それが最後の白星で今回は6カ月半の休み明け、香港移籍初戦の上に2歳戦が盛んな豪州で活躍済みと成長力の点でも不透明な面がある。
実績的にはスプリント路線に転じて再生したカリフォルニアスパングル、3か月前のセンテナリースプリントCでラッキースワイネスを封じたビクターザウィナーが地元勢をリードしている。ただし、両雄は3月末の海外遠征からの帰国初戦で調整が難しい。カリフォルニアスパングルはレーティング123で実力的に頭ひとつ抜けており、状態に問題がなければあっさり決めても不思議はないものの、3月10日からドバイ遠征を挟んで3戦目、しかも香港においてはシーズン終盤というタイミングだけに回復できているか。
ビクターザウィナーは前走で高松宮記念に参戦し、マッドクールから3馬身余りの3着に敗れた。敵地に乗り込んだ上に道悪と条件は厳しく、結果としては善戦の評価もできるが、今回は香港と日本の往復を経ており、片道で臨む日本勢より負担は大きい。香港スプリントではマッドクールに先着したが、当時のマッドクールはデビュー戦並みに体重を減らしていた。それ以来の高松宮記念は18kg増の馬体重で勝った上に今回は叩き2戦目。前回の経験と合わせてマッドクールには上がり目がある。
また、現地の天気予報では週末まで雨混じりの天気が続くらしく、今年は天候も日本勢に味方しそうだ。マッドクールは高松宮記念を含め重馬場でオープン2勝と道悪を苦にせず、サンライズロナウドには道悪での勝ち鞍こそないものの阪急杯の小差3着がある。スプリント路線に転向して経験が浅いサンライズロナウドにとっては、良馬場のスピード勝負よりも時計を要す条件が助けになるはず。中距離で培ってきたスタミナも生きるだろう。
英国のビリービングにはG1スプリントCで勝ち馬から1馬身圏内(3着)、重馬場でG3勝ちの実績がある。直線競馬が主体の欧州勢は香港スプリントで苦戦してきた歴史があるが、この馬の場合はオールウェザー戦ではあるものの、コーナーのあるコースで好成績を収めている。先行力があるのも魅力で、強敵相手にコーナーを克服できれば見せ場を作れるかもしれない。良馬場の経験しかなく、ドバイでレコード勝ちするほどのカリフォルニアスパングルが道悪を苦にするようなら、先行勢には一段とチャンスも広がるだろう。
香港スプリントで2着に激走し、マッドクールやビクターザウィナーに先着したラッキーウィズユーにも注意が必要だが、前走の9着(G2スプリントC)の敗因について、鞍上が雨により良馬場の発表より重くなった馬場を挙げている。レース当日の馬場状態によっては再び苦しい戦いになりそうだ。
その裏返しとして、ラッキーウィズユーに先着したインビンシブルセージ(2着)、フライングエース(3着)、ハウディープイズユアラブ(4着)には引き続きチャンスがあるか。インビンシブルセージとフライングエースのD.ホール調教師は今回の相手関係で格下と認めつつも、道悪適性には自信を見せている。ムゲンは条件クラスからの挑戦でレーティングも大きく見劣るが、香港スプリントのラッキーウィズユーも同様の状況だった。地元の上位勢に隙も見える今回は、思わぬ波乱を演出する可能性もあるだろう。
(渡部浩明)