制作:株式会社レイヤード 取材:土屋真光
写真:Getty Images、武田信晃
日本馬計8頭が出走を予定している香港国際競走が、12月10日にシャティン競馬場で開催される。『JRA-VAN Ver.World』では香港国際競走特別インタビューとして、香港のリーディングジョッキーであり、日本の競馬ファンにも馴染み深いジョアン・モレイラ騎手に意気込みを語ってもらった。(取材日:2017年11月30日)
今年も香港国際競走が近づいてきました。
「毎年、この時期はとても賑やかで楽しみにしていますよ。レースもとても刺激的です。そして、去年は日本のサトノクラウンのおかげで、エキサイティングな思いができました。今年も僕も2頭乗せてもらいますが、たくさんの日本馬が来ますね」
その2頭のうちの1頭、トーセンバジルに騎乗して香港ヴァーズ連覇を狙います。
「この馬の過去のレースリプレイを何度か見ました。重賞は勝っていませんが、大変ポテンシャルを感じます。ひとつ前のレース、京都大賞典ではシュヴァルグランに先着していますよね。もちろん、向こうは休み明け、トーセンバジルは新潟記念を叩いて2戦目というのもありましたが、実力はそこまで差があるとは思いません。日本の馬は非常にタフですので、沙田(シャティン競馬場)の2400mに向くと思っています。この馬は長くいい脚を使えるので、それも向いてると思います」
とはいえ、かなり相手も強いと思います。
「もちろん、ハイランドリールとタリスマニックはかなり強いですね。こういったメンバーが来るということは、それだけこのレースが国際的な格を持っているということを証明しています。こういった馬たちと対戦するというのは俄然やる気が出ます。楽な相手ではないですが、1度できたことは2度3度とできるはず。特有の前半後半の流れの違いに対応できれば、十分に好勝負に持ち込めると考えています」
香港では芝2400mのレースは年間に3つしかありません。乗り慣れないので難しい距離だと思いますが、それでも私はモレイラ騎手がこの条件を好きだと思っています。なぜなら、モレイラ騎手は昨シーズンそのうち2勝を挙げました。
「その通りです。長い時間レースに乗っていられるから楽しいですよね。それに香港では、この距離のレースが少ないので、逆にそれが楽しみで待ち遠しく思ったりもします」
この条件を勝つための秘訣があったりしますか?
「とにかく馬をリラックスさせること。例えばスローで逃げても、リラックスできていなければラストスパートはできません。ですので、他の距離以上に、馬とのコミュニケーションは大切です。また、いい馬に乗ることも大事ですね。いい馬は時として騎手を助けてくれます。長い距離ではそれが顕著だと思います」
昨年のサトノクラウンの勝利は、日本馬にとって15年ぶりの香港ヴァーズの勝利でした。
「今年も日本の国旗を掲げたいですね」
香港スプリントではザウィザードオブオズに騎乗します。戦績を見ると、初期は1200mで勝っていますが、最近は1400mで結果を出しているようにも思えます。距離的には実際どうでしょう?
「みんなこの馬のベストは1400mなんじゃないかって言うんですよ。この馬の4歳シーズンは、ほぼほぼ1400m以上の距離を使われ、実際に勝つこともできました。それは、ジョン・サイズ調教師がこの馬の距離適性を試す過程の中で“勝てた”というもので、僕はこの馬は1200mがベストの馬だと思います。
根拠としては、4歳のときに出走した1600mの香港クラシックマイルで、ゴール前でパッタリと伸びがなくなりました。1400mがベストの馬ならもうひと頑張りできたはずです。では、1200mで実績がないのはなぜか。香港で1200mのレースは概ね先行有利なんですが、この馬はちょっと出足のよくない面があって中段やや後ろから行くタイプなんです。でも、香港スプリントの過去の歴史を紐解くと、かなりハイペースになりやすく、実は差し脚質が結果を残しているんですよね。スタートをきちんと決めて、それなりのポジションを取れれば、相手は強いですが結構やれるはずです」
どういった馬が強敵になりそうですか?
「やはりミスタースタニングとラッキーバブルズですね。実力もありますし、位置取りも近くなります。一昨年の勝ち馬ペニアフォビアは厳しいかもしれません。今、香港スプリントは差し有利という話をしましたが、一昨年僕がペニアフォビアで勝ったときは、大外枠から逃げ切りでした。あのレースは、スタート、道中のラップ、仕掛けどころと、全てがうまくいきました。個人的には僕のベストライドのうちのひとつです」
ザウィザードオブオズを管理するサイズ調教師は、他にミスタースタニングなど計4頭出しですが、何かその点について話とかされましたか?
「特にそれについてはないけど、ザウィザードオブオズについては、『能力はある』と言ってくれていますし、今回を目標に逆算してきっちり仕上げられていると思います。サイズ調教師のすごさは、4年前に安田記念で大敗したグロリアスデイズをきっちり立て直して、ぶっつけ本番で香港マイルを勝たせた、という象徴的なものに集約されています」
続いて、香港マイルでは上がり馬のシーズンズブルームに騎乗します。
「まさしく、今一番成長している時期だと思います。昨シーズン、香港4歳三冠シリーズでは、この馬は僕の騎乗していたラッパードラゴン(昨シーズンの香港4歳三冠馬。5月のチャンピオンズマイルのレース中に故障し安楽死)のいいライバルでした。1冠目のクラシックマイルが2着、次のクラシックカップ(芝1800m)が3着、最後の香港ダービー(芝2000m)が4着でした。その成績が示すように、適性はマイルまでだと思いますが、それでも終いの伸びはどのレースでも目を見張るものがありました。こうしてライバルだった馬に乗って大舞台に挑むというのは、面白い巡り合わせだと思いますし、オーナーや調教師にとても感謝しています」
モレイラ騎手が騎乗するようになって、4戦3勝2着1回と、非常に相性がいいように思えます。
「今言ったように、成長中のとてもいいタイミングで乗せてもらえたことが大きいです。そんな中、前走のジョッキークラブマイル(香港マイルのプレップレース)は、ペースも遅くなるので、敢えて道中はいつもより前半から出し気味に行って、外めを回るという競馬で、この馬がどこまでできるのか試すような乗り方をしました。あれだけ終始外を回っていながら、終いもきっちりと伸びてのあの勝ち方です。かなり期待しています。去年の手ごわい上位4頭がそのまま出てきますけど、かなり自信はあります。正直に言って、4つのレースのうち、一番自信があるレースです。2番目がカップのネオリアリズムですね」