傑出馬不在で大混戦、ソウルラッシュとエンブロイダリーも展開ひとつ
今年の香港国際競走は全4レースに前年の勝ち馬が出走するものの、香港マイルは1着のヴォイッジバブル、2着のソウルラッシュがそろいながら下馬評は4レースで最大の混戦。これら2頭をはじめレーティング上位馬が軒並み外枠となり、勝負の行方を占うのがますます難しくなっている。
ヴォイッジバブルは王者ロマンチックウォリアーが中東遠征に出た年明けから地元中距離路線をけん引し、31年ぶり2頭目の香港三冠を達成。ここも優勝候補の筆頭として然るべきだが、三冠達成の合間にはチャンピオンズマイルで伏兵レッドライオンを捕らえ切れずに金星配給の失態を演じるなど、ロマンチックウォリアーやカーインライジングのような絶対感はない。今季の2連敗は重いハンデなどに酌量の余地があるものの、超スローペースに持ち込みながらロマンチックウォリアーに一蹴された前走は案外。目標だった香港カップをあきらめての香港マイル出走は正念場となる。
ソウルラッシュは香港マイルで一昨年、昨年とヴォイッジバブルに連敗しており、引退レースでもある今回は三度目の正直にしてラストチャンス。過去2戦は位置が後ろすぎて追い込み切れなかったが、ドバイターフでロマンチックウォリアーを破る立役者となったC.デムーロ騎手とのコンビで逆転の期待はある。ただ、前走のマイルCSでまさかの6着に終わるなど、この秋は年齢的な影響も感じさせる面も。外枠ながらヴォイッジバブルの隣は幸いで、ドバイターフと同様、マークすべき対象から離れず運べるかに懸かっている。
混戦に乗じたいのがエンブロイダリー。香港マイルでは3歳馬と牝馬の実績が少なく、古馬との対戦も海外遠征も初めてと乗り越えるべき壁は多い。ただ、桜花賞と秋華賞でマイルの一線級にも通用するスピードとスタミナを証明できており、流れに乗れれば勝機がめぐってきても。ゲートがあまり速いタイプではなく、中団あたりまでの位置は欲しい。
3歳馬ではA.オブライエン調教師のザライオンインウィンターにより大きなチャンスがあるかもしれない。G1勝ちこそないものの、マイル戦線に定着した直近5戦は全てG1に挑み、そのうち4戦で3着以上と堅実。前走はBCマイルでアメリカ遠征を経験し、平坦、小回りのトラックでスピード勝負にも対応した。ただし、先行力が武器だけに大外枠は痛手。内枠勢の出方次第では流れに乗れないまま終わってしまうリスクが生じた。
欧州勢はマイルCSから転戦のドックランズ、前走でG2勝ちのボーバティエの古馬も控えているが、ドックランズは昨年も香港マイルに参戦して12着に大敗。直線で多少の不利はあったものの、マイルCSともどもソウルラッシュに明確な差をつけられている。典型的なストレッチランナーで、この馬にはシャティン競馬場の直線も短い。
ボーバティエはドックランズと同じ末脚勝負型だが、スプリント戦が主戦場で今回は前走より200m延びる距離が鍵。3歳の昨年はジャンプラ賞、モーリスドゲスト賞、フォレ賞で3着が3回とG1でも通用の実力は示している。前々走のスプリントCで大敗したのは枠順の偏りによる影響が大きく度外視可能。前走はG1勝ち馬を含む相手を強烈な末脚で一蹴しており、内目の6番枠から脚を溜められれば少々不気味だ。
地元前哨戦のジョッキークラブマイルはヴォイッジバブルが不在。一枚落ちのメンバーだった感は否めず、2番枠から内ラチ沿いキープで1着のギャラクシーパッチは、J.マクドナルド騎手の手腕に負うとこが大きかった。ただ、当時のマクドナルド騎手は初騎乗。今回も内目の5番枠に恵まれ、混戦ほど騎手の腕が物を言うだけに侮れない。
前哨戦組では1.4倍の1番人気で4着に敗れたマイウィッシュが2番枠をゲット。前走は差し馬向きの流れで道中3、4番手から一度は先頭の形を作っており、敗れたとはいえ内容は濃い。また、2着に差し込んできたサンライトパワーは3番枠を引き当て、4月のチャンピオンズマイルで3着に導いたC.スミヨン騎手との再コンビが怖い。3着のハッピートゥギャザーは直近6戦のうち5戦で3着以上という安定株。昨年の香港マイル(5着)もソウルラッシュとは1馬身差しかなく、上位争いの力がある。
(渡部浩明)
※ハッピートゥギャザーは出走取消となりました。