傑出馬不在で下馬評は混戦、今年のケンタッキーダービーも波乱含みか
昨年はフォーエバーヤングが歴史的な快走を披露してくれたケンタッキーダービー。勝利へハナ2つの差まで迫っただけに、今年のルクソールカフェとアドマイヤデイトナにはもう一歩、ひと押しでの優勝に期待が懸かる。
今年のKYダービーは前走のサンタアニタダービーをはじめ重賞3勝を含む4連勝中のジャーナリズムが前売りの1番人気に推され続けてきた。4連勝どころか3連勝で駒を進めてきたのは他にルクソールカフェしかおらず、人気になるのも分かりやすい。ただ、本拠地の西海岸を離れるのは初めて。通算5戦で2戦目(未勝利戦1着)こそ10頭立ても、残りの4戦は5頭立てで揉まれ込んだ経験がなく、一気に4倍増の今回には不安もある。
また、近年は直前のレースと本番の関係性も不安定化している。KYダービーの出走権を争う「Road to the Kentucky Derby」のポイントシステムは、本番が近づくに連れて配点を高くし、直前で注目度を高めた馬が盛り上げにひと役買うよう設計されている。しかし、勝ち馬に100点が配点されている直前のレースと本番を連勝した馬は、2018年の三冠馬ジャスティファイまでいない(2019年のマキシマムセキュリティはフロリダダービー勝ちから本番で1位入線するも降着、2020年はコロナ禍で9月開催のため参考外)。
勝ち馬に100点が配点されているのは8レースあるが、今年の勝ち馬はサンタアニタダービー(ジャーナリズム)、フロリダダービー(タッパンストリート=回避)、アーカンソーダービー(サンドマン)、ルイジアナダービー(ティズタスティック)、ブルーグラスS(バーナムスクエア)、ウッドメモリアルS(ロドリゲス)、UAEダービー(アドマイヤデイトナ)、ジェフルビーS(ファイナルギャンビット)。これらの馬が近年の流れを止められるかが一つの見どころになる。
一方、ジャスティファイの2018年からコロナ禍の2020年までを除き、2021年以降にKYダービーを優勝した馬の持ち点は最高でも52点(2021年マンダルーン)に過ぎない。同馬は繰り上がりでの優勝だが、1位入線から失格になったメディーナスピリットの持ち点も74点で、直前のサンタアニタダービーは2着。近年は最重要とされる直前のレースでどうにか得点を加算するか、それまでに50点前後を稼いでいた馬が本番を制す傾向にある。
本番前の直近2戦はマンダルーンがリズンスターS(1着)からルイジアナダービー(6着)、2022年のリッチストライクは直前のジェフルビーS(3着)の得点のみで本番前日に繰り上がり出走、2023年のメイジは年明けデビューで2戦目のファウンテンオブユースS(4着)からフロリダダービー(2着)、2024年のミスティックダンはサウスウェストS(1着)からアーカンソーダービー(3着)という臨戦だった。
日本や欧州のクラシック初戦は2歳からの直行ローテが増えてきたように、近年は厚い戦績より適度な実績と鮮度も選好される時代。ジャスティファイは年明けデビューの馬として136年ぶりのKYダービー制覇だったが、それからわずか5年でメイジも達成しており、本番に至るまでの鮮度がより重要になってきている可能性はないか。KYダービーの得点システム上、2歳戦だけで必要ポイントを満たし、直行するのはなかなか難しいものの、米国にも新たな潮流が生じはじめているとすれば、今後を占う上で注目すべき傾向となる。
今年の出走馬の中で、直前より二走前までの結果が良いマンダルーンやミスティックダンのようなタイプにはシチズンブル、コールバトル、ソヴリンティ、オーウェンオールマイティあたりが該当。直前の好走で滑り込んだリッチストライクやメイジのタイプにはファイナルギャンビット、アメリカンプロミス、アドマイヤデイトナあたりが該当する。
このうち、ソヴリンティは前売り2番人気でもともと評価が高く、追い込みに近い差し馬のため外目の枠順もあまり気にならない。反対にシチズンブルは2歳王者という歴とした実績があるにもかかわらず、不利とされる1番枠が過剰に嫌われている感も。中途半端に控えられない枠順になったことで陣営は腹をくくっているうえ、近くの4番枠に同厩で同型のロドリゲスもおり、2頭で主導権をにぎってしまう展開も考えられる。両馬はKYダービー通算6勝で、出禁処分を解かれて今年から復帰が叶ったB.バファート調教師の管理馬という点でも不気味さがある。
また、ファイナルギャンビットは今回が初ダートで未知数ながら、同じダート未経験での5戦目、ジェフルビーS勝ちからの臨戦は2011年のアニマルキングダムと同じ(当時はスパイラルS)。ジャドモントファームの自家生産馬で血筋も良く侮れない。アメリカンプロミスは前走のバージニアダービーで7馬身3/4差の圧勝。今年から得点システムに加わったレースで重賞格付けがなく、相手関係も手薄だった面は否めないが、絶妙な開催時期で賞金水準も高い。上位争いに絡めばレースの価値が一気に上がるため注目に値する。
日本期待のルクソールカフェは直前の伏竜Sが余力十分の圧勝。昨年はフォーエバーヤングの影に隠れる形になったが、5着のテーオーパスワードも従来の日本馬による最高着順を更新する快走を披露したように、実績のある臨戦という面は心強い。米国勢との比較で多頭数のレースも経験しており、初遠征に対応できれば好勝負できても不思議はない。
アドマイヤデイトナは例年より1週短いUAEダービーからの転戦が課題。もともと厳しいといわれてきた臨戦のうえ、上位争いしたのもフォーエバーヤングだけでデータ上は苦しい。ルクソールカフェに2連敗も、未勝利戦は首の上げ下げのタイミング、ヒヤシンスSはゲートで後手と力負けした訳ではなく、互角の関係と考えられるだけに、ドバイ遠征の経験を糧として、上位争いに加わってくれることを願いたい。
※ロドリゲスは出走取消となりました。
(渡部浩明)