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【凱旋門賞回顧】エネイブルが史上7頭目の連覇 日本馬制覇の悲願は持ち越し

2018年10月09日 12:30

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 新装なったパリロンシャン競馬場を舞台に3年ぶりに行われたG1凱旋門賞(芝2400m)はL.デットーリ騎手が騎乗した英国調教馬エネイブル(牝4、父ナサニエル、J.ゴスデン厩舎)が残り300mで内ラチ沿いに先頭に立って優勝。史上7頭目の連覇(異なる競馬場での連覇は初)、牝馬ではコリーダ(1936年、37年)、トレヴ(2013年、14年)に次ぐ3頭目の大偉業を達成した。

 エネイブルのJRAの海外馬券発売によるオッズは1.7倍の1番人気。短クビ差の2着に後方から馬場中央を追い込んだ3歳牝馬のシーオブクラス(3番人気、単勝6.3倍)、さらに3/4馬身差の3着にシャンティイ競馬場で行われた昨年の凱旋門賞で2着したクロスオブスターズ(9番人気、単勝56.8倍)、前哨戦のG2フォワ賞に勝って2番人気に推されたヴァルトガイスト(単勝6.2倍)は4着。武豊騎手を鞍上に1番枠発走からエネイブルと雁行するように3番手を進んだクリンチャー(4番人気、単勝8.6倍)は勝負どころで瞬発力に勝る馬たちの後塵を浴びて後退。19頭立ての17着で入線し、悲願は来年以降に持ち越されることになった。良馬場の勝ちタイムは2分29秒24だった。

 勝ったエネイブルは、これで10戦9勝。G1は英愛のオークスとヨークシャーオークスの欧州三大オークスに加え、キングジョージ6世&クイーンエリザベスSと凱旋門賞連覇によって6度目の制覇。欧州競馬史に残るスーパーホースになった。

 エネイブルはガリレオ直仔のナサニエル産駒で、2着、3着馬の父シーザスターズはガリレオの半弟。4着のヴァルトガイスト、先行して5着に残ったカプリはともにガリレオ直仔。1993年の凱旋門賞に勝ったアーバンシーを母に持つガリレオとシーザスターズ兄弟の血を色濃く受けた馬たちによる競演となった。

 膝の不具合によって今年の青写真が白紙に戻されて復帰の時期を探ったエネイブルが、本番前のひと叩きに選んだのはオールウェザートラックのG3セプテンバーS(2400m)。4頭立ても実質はキングジョージ6世&クイーンエリザベスS で2着馬のクリスタルオーシャンとの一騎打ちを楽々と逃げ切った。管理するJ.ゴスデン調教師は「調教のようなレース」と振り返ったが、破竹の勢いで臨んだ昨年と異なり、能力上位に疑いはないものの、一抹の不安を残したスタートだったことは否めなかった。L.デットーリ騎手にとってはひとつのミスが命取りになる重圧がかかったはずだが、凱旋門賞5勝の一流はまったく動じることなく逃げ馬を前に見てクリンチャーの外につける完ぺきな騎乗ぶり。残り400m地点で先頭に躍り出た昨年と異なり、今年は先を行った芦毛カプリを目標にゴールから300m地点まで追い出しを遅らせて唸るように馬群を割って迫るシーオブクラスの鬼脚を封じた。

 凱旋門賞はこれまで数々のスターホースを誕生させてきたが、エネイブルの歴史的勝利はJ.ゴスデン調教師、L.デットーリ騎手の偉大さを深く刻み込むことにもなった。

 クリンチャーについて宮本博調教師は「フォワ賞が終わってから運動量を増やし、悔いのない仕上げでやってきましたが、申し訳ありません。乗り方はジョッキーに任せていましたし、想定通りの展開でしたが、エネイブルに付いていけなかったのが現状です」と世界の壁の厚さを振り返った。彼我の競馬に違いがあることは如何ともしがたいが、血統や気性、走りっぷりからフランスの馬場に向くと判断して遠征というリスクを取ったクリンチャー陣営の挑戦はたくさんのファンの支持を得た。いつか日本の馬が凱旋門賞を制した時に、積み重ねられた挑戦の意義が明らかになるだろう。

(サラブレッドインフォメーションシステム 奥野 庸介)