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【キングジョージ回顧】女王エネイブルが11連勝で凱旋門賞3連覇へ弾み シュヴァルグランは重い馬場に苦しむ

2019年07月29日 14:00

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 欧州競馬の上半期を締めくくるキングジョージ6世&クイーンエリザベスSは、日本から遠征したシュヴァルグランを含む11頭によって争われた。週の半ばに降った雨がコースに残って馬場状態はGood to soft。日本流の表記では稍重となった。

 JRAの馬券発売では今年初戦となった前走のG1エクリプスSを制して10連勝中の5歳牝馬エネイブルが単勝1.2倍(現地では1.6倍)の1番人気。前走のG1プリンスオブウェールズSで、待望のG1タイトルを掴んだクリスタルオーシャンが単勝6.1倍(同4倍)の2番人気で続き、G1英ダービー優勝、G1愛ダービー2着のアンソニーヴァンダイクが単勝8.2倍(同8.5倍)の3番人気。O.マーフィー騎手をパートナーとしたシュヴァルグランはJRAで単勝16.7倍の4番人気、現地では51倍の6番人気となった。

 レースはノルウェーが先導し、そのあとをマジックワンドとハンティングホーンが追走してA.オブライエン厩舎の馬たちが先行馬群を形成。J.ドイル騎手のクリスタルオーシャンとR.ムーア騎手のアンソニーヴァンダイクが雁行して好位を進み大外枠からスタートしたL.デットーリ騎手のエネイブルはヴァルトガイストのすぐ後ろに位置して7、8番手を追走。シュヴァルグランは後方集団でレースを進めた。三角形の頂点のスウィンリーボトムを過ぎて長く続く上り坂でもノルウェーが先頭になって馬群を引っ張って、この馬場にしては速いペースが刻まれた。

 勝利するにはエネイブルが動き出す前に機先を制すことと意識したJ.ドイル騎手は直線を迎える前に一度、二度と股の間から後ろを覗き、すぐ後ろにいたヴァルトガイストを目視して最終コーナーでクリスタルオーシャンを先頭に導いて逃げ込みを図った。ヴァルトガイストの後ろに身を潜めていたエネイブルもコーナーワークで、一気に差を縮めて外からぴたりと並びかける。残り400mは人気の2頭による激しい一騎打ち。英、愛ダービーを制して臨んだグランディが古馬最強馬バスティノを半馬身差退けて今も伝説のレースとして語り継がれる1975年の”キングジョージ”を彷彿させた激戦は、ゴールまで内に圧力をかけ続けた女王エネイブルに軍配が挙がった。

 クリスタルオーシャンはクビ差遅れての2着。2着から1馬身3/4差の3着にフランスのヴァルトガイスト。4着に昨年のG1凱旋門賞で6着したサルウィン。シュヴァルグランは勝ち馬から12馬身以上離された6着で入線し、オブラエイン厩舎のエース、アンソニーヴァンダイクは直線で馬群に沈んでブービー11着に敗れた。稍重の勝ちタイムは2分32秒42だった。

11連勝で歓喜の「デットーリジャンプ」を披露するデットーリ騎手。(Photo by Getty Images)

 類まれな勝負根性を発揮して一昨年に続いて”キングジョージ”2度目の制覇を飾ったエネイブルの勝因は、普段より後ろに構えて相手を一頭に絞ったことだろう。すぐ前にヴァルトガイストを置くことによってクリスタルオーシャンのドイル騎手の死角に入れたステルス作戦も効果的で、なにより勝負所で一気にスピードを上げてライバルに迫った並外れた運動能力も際立っていた。

 クリスタルオーシャンとは昨年秋のG3セプテンバーS(ケンプトン競馬場、オールウェザー2400m)で対戦し、その時はエネイブルがクリスタルオーシャンに3馬身半差をつけて逃げ切っていたが、デットーリ騎手は前走のG1プリンスオブウェールズSで、本格化したクリスタルオーシャンの強さを熟知しており、簡単に勝てる相手ではないことを理解していた。これまでは先行して直線入り口で先頭に立って後続を押し切る競馬を続けていたエネイブルだが、ライバルの存在が、新境地を開拓する結果にもつながったようだ。次走候補にはシュヴァルグランも参戦を予定する8月21日のG1英インターナショナルS(ヨーク競馬場、芝2050m)が挙げられていて、その後は史上初の3連覇を賭けてG1凱旋門賞に臨むことになる。

遠征初戦でキングジョージに挑んだシュヴァルグラン。(Photo by Satoshi Hiramatsu)

 遠征初戦は重い馬場もあって最後はワンペースになって6着に終わったシュヴァルグランだが、欧州競馬を経験したことで次戦予定のG1英インターナショナルSでは更なる変わり身を見せてくれるものと期待したい。

(サラブレッドインフォメーションシステム 奥野 庸介)