【凱旋門賞回顧】無観客の中で躍動した地元勢とレース展開に苦しんだエネイブル
2020年10月05日 18:00
10月4日、日本時間の凱旋門賞当日の早朝、ショッキングなニュースが飛び込んだ。
A.オブライエン厩舎が取り入れている飼料会社の飼料に禁止薬物が混入したため、凱旋門賞にエントリーしていた馬の出走を自重する事になったのだ。これにより武豊騎手が騎乗予定だったジャパンやパリ大賞を圧勝していたモーグルなど、4頭が取り消し。今年の凱旋門賞は11頭立てになった。
新型コロナウィルスの影響で無観客開催。人数制限された関係者のみが散見されるスタンドは陽光に照らされた。しかし、そんな空模様とは裏腹、週の半ばの雨が残り、馬場状態は不良。含水量を数値化したペネトロメーターの値は4.6。日本のフィエールマンとブラストワンピースが泣かされた昨年の道悪でさえその数値は4.1だったのだから、いかに悪い馬場かが分かる。当然、この馬場状態が結果に大きな影響を与える事になった。
展開のカギを握ると思われたガイヤースやサーペンタインが回避。一転して逃げ馬不在となった。結果、ゲートが開くと押し出されるようにハナに立ったのはペルシアンキング。昨年ヴァルトガイストで8度目の凱旋門賞制覇を飾ったA.ファーブル調教師が送り込んで来ただけに不気味な存在だが、マイルを中心に使われてきた馬。距離に対する不安は拭えない存在だった。
人気のエネイブルは好スタートを切るもL.デットーリ騎手が抑えて馬群の中へ。ディアドラは立ち遅れ気味になり、最後方から進んだ。
逃げたペルシアンキングの内、3番手あたりに昨年3着のソットサス。その後ろの馬群の中にエネイブルがいて内にドイツダービー馬インスウープ、外に長距離王ストラディバリウス。更に後ろの馬群の中に前走のヴェルメイユ賞2着のラービアーがいて、その外にはパリ大賞3着のゴールドトリップ。ディアドラは依然、後方という隊列でレースは流れた。
10メートルの小高い山を上り下りする前半の1600メートルは1分35秒72というラップ。その後、フォルスストレートを通過し、最後の直線に向くまで馬順に大きな変化はなかった。
直線へ向いてもペルシアンキングの逃げ脚がなかなか鈍らない。内ラチが大きく切れ込むオープンストレッチを無視して真っ直ぐ突き進む同馬に対し、そのすぐ直後にいたソットサスも内へは行かずあえて1頭分外へ出してペルシアンキングに迫る。更にそのソットサスの後ろで最内を回って来たインスウープは、対照的にオープンストレッチをフル活用。ペルシアンキングの内を突いて差を詰めた。
このあたりで馬群がゴチャつき、後に審議対象となるのだが、その影響が多少あったか、馬群の中のエネイブルはいつものような伸びがない。その外を終始好手応えで進んでいたと思えたストラディバリウスだが、こちらも案外伸びて来ない。かわって外から良い脚を繰り出したのはゴールドトリップ。ペルシアンキングを捉えて一気に先頭に立つかと思われたが、その2頭の間を伸びて来たのはソットサス。これが先頭に躍り出たのとは対照的にゴールドトリップは勢いが止まりペルシアンキングを捉まえるのにも手間取っている。その間隙を突くように、インから伸びたのがインスウープ。出走11頭中最も速い上がり3ハロン36秒45の脚で、2番手に上がってところがゴールだった。
勝ったのはソットサスで2着がインスウープ。ペルシアンキングがゴールドトリップの追撃をアタマ差しのいで3着。ラービアーが5着で、3勝目を目指したエネイブルは6着。以下、ストラディバリウス、ディアドラと続き、エネイブルのデットーリ騎手やディアドラのJ.スペンサー騎手ら負けた騎手の口からは異口同音に「馬場が悪過ぎた」というセリフが発せられた。
ソットサスは昨年、ニエル賞勝ち後、凱旋門賞で3着。今年は6月にガネー賞(G1)を優勝。前走の愛チャンピオンS(G1)では1、2着のマジカル、ガイヤースに迫る末脚で4着に上がっていた。手綱を取ったC.デムーロ騎手はこれが初めての凱旋門賞制覇。管理するJC.ルジェ調教師はフランスのダービー、オークスを計8回も勝っている名調教師だが、凱旋門賞はジョッキー同様、これが初めての優勝となった。コロナの年の凱旋門賞は2分39秒30という勝ち時計で幕を閉じた。来年の第100回凱旋門賞はまた歓声に包まれた大一番となる事を願いたい。
取材・文:平松さとし