【凱旋門賞】栗山求氏による血統傾向と有力馬分析!
2018年10月03日 11:00
凱旋門賞は欧州2400m路線の最高峰に位置するビッグイベント。そこで好走する血統は欧州競馬の現在を反映している。
1990年代以降、ヨーロッパを支配しているのはサドラーズウェルズとダンジグの二系統。英・愛リーディングサイアーは91年にニジンスキー系のカーリアンが首位となったのを最後に、このふたつの系統の独占が続いている。
過去10年間の凱旋門賞連対馬20頭の血統を眺めると、父または母の父にサドラーズウェルズ系を持つものは12頭、同じくダンジグ系を持つものは12頭。この両系統が圧倒的な強さを発揮している。サドラーズウェルズ系とダンジグ系の組み合わせを持つものは、じつに8頭を数える。連対馬の半数近くがこのパターンだ。
今年の有力馬のなかでこのパターンにあてはまるものはキューガーデンズ。英クラシック最終関門のセントレジャー(G1)の勝ち馬だ。父ガリレオは今年、9年連続かつ計10回目の英・愛リーディングサイアーが、ほぼ確定的。凱旋門賞はシャンティイ開催の16年に、ファウンド、ハイランドリール、オーダーオブセントジョージが1、2、3着を独占した。母の父デザートキングはデインヒルを経てダンジグにさかのぼるラインで、豊かなスタミナが持ち味。2代母トランポリーノは87年の凱旋門賞をレコード勝ちした。
スタミナ型の血統構成だけに晩成型で、3歳夏を迎えてから上昇し、クイーンズヴァーズ(英G2)とパリ大賞(仏G1)を連勝。グレートヴォルティジュールS(英G2)は3着と敗れたものの、前走の英セントレジャーは前述のとおり快勝した。近年、英セントレジャーの勝ち馬は凱旋門賞での実績に乏しいが、パリ大賞でパリロンシャン競馬場の芝2400mを経験して勝っていること、そしてここに来ての上昇ぶりは大きな強調材料だ。
欧州2400m向きの血統として注目したいのはダンジグ系ケープクロスのライン。過去10年間でシーザスターズ、ゴールデンホーン、クロスオブスターズと3頭の連対馬が出現している。このうちクロスオブスターズはガリレオの半弟、シーザスターズの息子で、兄のガリレオ産駒が1600mから2400mが守備範囲なのに対し、弟のシーザスターズ産駒は2000m以上で本領を発揮するため、凱旋門賞は条件的に合う。
今年の出走予定馬のなかではシーオブクラス、クロスオブスターズがこの系統に属している。
シーオブクラスはシーザスターズを父に持つ3歳牝馬。今年4月のデビュー戦こそ2着に敗れたものの、その後、愛オークス(G1)とヨークシャーオークス(英G1)を含めて4連勝中。3歳牝馬は過去10年間でザルカヴァ、デインドリーム、トレヴ、エネイブルと4勝している。シーオブクラスは古馬と戦った経験がないが、この4頭中、ザルカヴァとトレヴも同様に同世代としか戦ったことがなかったので問題ない。馬に実力があれば古馬初対決でも通用する。チェリーコレクト、ファイナルスコア、チャリティーライン(いずれも本邦輸入繁殖牝馬)の半妹なので血統的に日本とつながりが深い。
クロスオブスターズもシーザスターズ産駒。昨年の2着馬だが、今年はやや勢いに欠けるので苦戦必至か。
サドラーズウェルズとダンジグ系以外で重要な血はシャーリーハイツ。過去10年間の連対馬のうち、エネイブル、クロスオブスターズ、フリントシャー、ソレミア、シャレータがこの血を持っていた。
今年、この血を持つ馬は、すでに連対実績のあるエネイブルとクロスオブスターズの他に、ヴァルトガイスト(父ガリレオ)、ハンティングホーン(父キャメロット)、パタスコイ(父ウートンバセット)など。迷ったらこのあたりを連下に入れたい。
【栗山求の最終見解】
今年、日本から遠征したクリンチャーはディープスカイ産駒。アグネスタキオンを経てサンデーサイレンスにさかのぼる系統だ。過去10年間、サンデー系は3回2着。いずれもステイゴールド産駒(オルフェーヴル2回、ナカヤマフェスタ1回)なので同系統といっても関連性は薄い。
父ディープスカイは現役時代、日本ダービーとNHKマイルCを勝った名馬で、種牡馬としては芝よりもダートの成績が優れている。母の父ブライアンズタイムはパワー型なので、ダート向きになってもおかしくない配合だが、同馬のもうひとつの特長であるスタミナを受け継ぎ、キレないけれどバテもしないという特長で菊花賞2着、阪神大賞典と天皇賞・春で連続3着という成績を残している。唯一の重賞勝ちである2400mの京都記念は重馬場だった。
前哨戦のフォワ賞は果敢に逃げたものの最後差されて6着。凱旋門賞で連対を果たしたオルフェーヴルとナカヤマフェスタは、フォワ賞で馬場をこなしただけでなく最後しっかり伸びて連対している。クリンチャーはワンペース型だけに正攻法では厳しく、また相手も強いだけに、道中大逃げを打つなどの策が必要かもしれない。武豊騎手の手腕に期待したい。
1番人気が予想されるエネイブルは、昨年の凱旋門賞を勝ったあと脚部不安で長期休養に入り、11カ月ぶりの復帰戦となった9月8日のセプテンバーS(英G3)を逃げ切った。今回は長期休養明けの2走目なので、一般的にいえば2走ボケの懸念などがあり、危ない臨戦過程にも思える。ただ、名伯楽ジョン・ゴスデン調教師はそのあたり抜かりないだろう。
血統表を見ていただければ分かるとおり、エネイブルは父も、母の父もサドラーズウェルズの系統。同馬の3×2という強度のインブリードを持っている。
父ナサニエルはキングジョージ6世&クイーンエリザベスS(英G1)などを制した重厚なスタミナタイプ。母コンセントリックは「サドラーズウェルズ×シャーリーハイツ」で、インザウイングス(BCターフ)やアレクサンドローヴァ(英・愛オークス)と同じ組み合わせのスタミナタイプ。父母双方ともスピード的な要素は乏しい。それでいて時計の速い決着にも対応している。逃げまたは先行し、勝負どころで力強く抜け出すという横綱相撲で勝ち続けており、展開に左右されないだけに他馬にとってはきわめて厄介だ。今回の凱旋門賞は自分との戦いだ。
9月29日に行われたイギリスの2歳重賞ロイヤルロッジS(英G2)は、アイルランドに本拠を置くクールモア軍団の1頭モホーク(父ガリレオ)が優勝した。同馬はサドラーズウェルズとフェアリーキングの全兄弟クロスを2×3で持っている。サドラーズウェルズやその全弟フェアリーキング、それらの4分の3同血ヌレイエフは、現代血統のなかでとびきり優秀で、モホークのようにエネイブル以外にも強いインブリードを施した強豪が現れている。
英三冠馬フライングフォックス(ガロピン3×2)、凱旋門賞を連覇したクサール(オムニウム3×2)、凱旋門賞と仏1000ギニーを勝った女傑コロネーション(トウルビヨン2×2)など、血統史をひもとくと強度のインブリードが生んだ歴史的名馬を幾頭か見出すことができる。エネイブルはそれらに連なる傑作だろう。昨年は「イギリスまたはアイルランドから遠征した1番人気の3歳牝馬が一度も勝ったことがない」というジンクスをあっさり破った。臨戦過程に不安はあっても凡走することはないと思われる。