【凱旋門賞】木村拓人の見解
2018年10月06日 13:00
スタンド改修を終え、パリロンシャンに戻ってきた凱旋門賞。コースでこれまでと違った点と言えば、直線にオープンストレッチができたことで内に包まれる事がほぼ無くなったこと。だったのだが凱旋門賞ではオープンストレッチが使われないとのこと。個人的にはせっかく作ったのなら…と思うのだが、これまでと同様となるだけと考えれば、改修について特別意識をする必要はないだろう。
まず触れておきたいのは昨年の覇者エネイブル。昨年はシャンティイ競馬場でのレースだったが、A.オブライエン陣営の徹底マークにひるむことなく、3番手から力強く抜け出して2着のクロスオブスターズに2馬身半差を付けて優勝。パドック映像で見た体つきも抜群で、体調面でも充実していたことが伺いしれる。
だがG1を4連勝で臨んだ昨年とは違って、今年は膝の故障による影響でシーズン前半を棒に振る形に。そこで注目を集めたのが今年緒戦となった9月8日に英ケンプトン競馬場で行われたセプテンバーS(AW2400M・G3)。4頭立てだったが実質的にはキングジョージで2着となったクリスタルオーシャンとマッチレースの様相だった。
エネイブルがハナを切るとクリスタルオーシャンがそれをマークする形で2番手、両馬とも手応えを残したまま直線を迎えると、2頭の差は縮まるどころか徐々に広がっていき、3馬身半の差をつけてのゴール。11か月ぶりのレースとは思えない女王のレースぶりは「今年もやはりこの馬か」と思わせるに十分な内容だった。何か難癖を付けるならば日本式で言う「二走ボケ」くらいか。常識から外れたローテでの臨戦だけに、人気になりすぎるならば穴党にとって軽視する材料にはなるが…。
3歳牝馬シーオブクラスも有力候補。G1連勝中で、ヨークシャーオークスからの臨戦は昨年のエネイブルと同様。ダイナミックなフットワークで後方から豪快に追い込む末脚は破壊力抜群。シーザスターズ産駒は大柄で日本では機動力に欠ける面が目に付くが、タフな欧州の馬場にはフィットする印象だ。
ただパリロンシャンの競馬を見ていると、欧州の馬場としては硬めで軽さが必要な印象。当日の天気が気になるところではあるが、追い込み一手の脚質は凱旋門賞で嫌われるタイプでもあり、3歳牝馬だからという理由で人気になりすぎるならばどうか。個人的には昨年のエネイブルほどのインパクトも感じない。
ならば勢いのあるヴァルトガイストに魅力を感じる。4歳となった今年はG1サンクルー大賞を含む5戦4勝。前走のフォワ賞では後方からノーステッキで悠々と差し切る非常に強い競馬を見せた。前走こそ後方からレースを進めたが後方一手という脚質ではなく、好位からでも運べるという点も心強い。
ガリレオの直仔は日本では重くて決め手に欠ける印象が強いが、欧州では軽めの馬場で切れ味を発揮する馬も多い。フォワ賞のレース後にファーブル師がJCへの参戦も示唆したのは硬い馬場への適性を感じ取っているからだろう。見た目には筋肉量が足りないようにも見えるのだが、それでも筋力の強さと軸のぶれない体幹の強さがサドラーズウェルズ~ガリレオの強さ。こちらも天候は気になるが、極端に柔らかい馬場にさえならなければ大崩れはないと考えている。4歳以上の牡馬はここ10年勝ち星を挙げていないのは百も承知だが、まだまだ余力を残した勝ちっぷりに期待したい。
英セントレジャーを勝ってきた今年のオブライエン勢のエース、キューガーデンズも人気になりそう。こちらもガリレオ産駒で、前走は大器ラーティダーを破っての臨戦となる。
ただ、3歳牝馬でG1初挑戦だったラーティダーにとって2900Mという条件が適していたかと言われると疑問が残るし、英セントレジャーからの臨戦も相性が悪く、スタミナに特化している印象は否めない。パリ大賞(G1)が同条件での勝利だったとはいえ過信は禁物か。
人気がないところで気になるのはクロスオブスターズ、ウェイトゥパリス、ヌフボスクの3頭。クロスオブスターズは昨年の2着馬。道中の折り合いが難しい馬で今年は勝ち星を挙げていないが、スムーズにさえ走れれば力量的に足りる。
ウェイトゥパリスは勝ち味に遅いが、前走は末脚だけに徹した競馬でフォワ賞4着。勝ったヴァルトガイストを除けば大きな差はなかった。頭まではどうかもしれないが、無欲の追い込みがはまればヒモとして面白いのでは。雨が降ればより魅力も増す。
ヌフボスクはニエル賞で3着だがスローペースでしっかり脚を使っていた点が好印象。前々走でキューガーデンズに敗れているが、こちらも意識の外から運べる点に穴の香りがする。
日本期待のクリンチャーは前走を見る限り厳しい戦いが予想される。だが昨年はセントライト記念の惨敗から菊花賞2着と変わり身を見せた、たたき良化タイプ。個人的には母父ブライアンズタイムの血は欧州にも適していると考えているだけに、大舞台での一発があっても。