凱旋門賞

Qatar Prix de l'Arc de Triomphe

2019/10/6(日) 23:05発走※発走日時は日本時間(暫定)

パリロンシャン競馬場

  

【凱旋門賞】栗山求氏による血統傾向と有力馬分析!

2019年10月02日 15:00

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 サドラーズウェルズかダンジグの系統を「父」または「母の父」に持つ馬が圧倒的に多い。現在の欧州競馬はこの2系統が大きなシェアを占めているので、凱旋門賞は単純にこの主流血統を持つ馬が強いレースといえる。そのなかにあって過去10年、ステイゴールド産駒が3回連対しているのは目を惹く。日本調教馬は過去2着が4回と1度も勝ったことはないが、欧州トップクラスのレースでこれだけ健闘をしているレースは他にない。馬の能力が高く、馬場適性があり、なおかつコンディションが良好であれば十分に馬券圏内を狙えるレースだ。

 断然の1番人気が予想されるエネイブルは、今年7月に戦列復帰後、ここまで3戦していずれも勝っている。前々走のキングジョージ6世&クイーンエリザベスステークス(英G1・芝2390m)はクリスタルオーシャンとの長い競り合いの末にクビ差辛勝。同馬はシーザスターズ産駒で、ケープクロス~シーザスターズのラインは凱旋門賞と相性がいい。もしこの馬が出てくれば大きな脅威だったが、故障によりすでに引退してしまった。

 エネイブルの父ナサニエルはガリレオの息子で、キングジョージ6世&クイーンエリザベスSなどを制した重厚なスタミナタイプ。母コンセントリックは「サドラーズウェルズ×シャーリーハイツ」で、インザウイングス(米G1・ブリーダーズカップターフ)やアレクサンドローヴァ(英・愛オークス)と同じ組み合わせのスタミナタイプ。父も、母の父もサドラーズウェルズの系統なので、同馬の3×2という強度のインブリードを持っている。

 サドラーズウェルズは英愛リーディングサイアーの座に計14回就いた大種牡馬。日本ではスピードや決め手に乏しく苦戦したが、そもそもデキのいい超一流のサドラーズウェルズ産駒は、所有者であるクールモアスタッドが囲い込んでアイルランドのA.オブライエン厩舎からデビューするため、セリに出されることはない。したがって、日本に来ることもないという事情があった。一国のリーディングサイアーに14回就くような種牡馬は、尋常でないずば抜けた資質を備えているのは明らかで、その血を3×2でクロスさせたエネイブルは、欧州史上最高の種牡馬の影響を最良の形で表現した馬といえるかもしれない。史上初の凱旋門賞3連覇へ向けてJ.ゴスデン調教師、L.デットーリ騎手ともに抜かりはないだろう。

 アイルランドの3歳牡馬ジャパンは、英ダービーで3着と敗れたものの、その後、キングエドワード7世ステークス(英G2・芝2390m)、パリ大賞(仏G1・芝2400m)、英インターナショナルステークス(G1・芝2050m)と3連勝して一線級に躍り出た。前走はクリスタルオーシャンにアタマ差競り勝っている。「ガリレオ×デインヒル」はフランケルをはじめ多くの一流馬を出しているニックスで、凱旋門賞では仏ダービー馬アンテロが3着となった実績がある。母の半兄サガミックスは1998年の凱旋門賞馬。2代母の父サガスは1984年の凱旋門賞馬で、母方の血は凱旋門賞に縁が深い。レース適性は高いだろう。充実一途の3歳馬でもあり魅力がある。

 地元フランスの3歳牡馬ソットサスは仏ダービー馬。今年は馬場が乾いて堅かったこともあり、芝2100mで2分2秒9というレコードタイムを樹立した。2000mに換算すると1分57秒0なのできわめて速い。「シユーニ×ガリレオ」という組み合わせで、父シユーニは名種牡馬ピヴォタルの子。父系はヌレイエフにさかのぼる。現在、フランスで繋養されている種牡馬のなかではベストの存在で、ほかにローレンスやエルヴェディヤなど多くの活躍馬を出している。その母の父がデインヒルなので、ソットサスはガリレオとデインヒルのニックスを持ち、ヌレイエフ≒サドラーズウェルズ4×3。なおかつ半姉シスターチャーリーはブリーダーズカップフィリー&メアターフ(米G1・芝2200m)など6つのG1を制している。欧州の3歳牡馬のなかではジャパンと並ぶ存在で、こちらには地元の利がある。

 マジカルはアイルランドの4歳牝馬。オペラ賞(仏G1・芝2000m)などG1を3勝したロードデンドロンの全妹で、母ハーフウェイトゥヘヴンも愛1000ギニー(G1・芝1600m)などG1を3勝した。本馬はアイリッシュチャンピオンステークス(G1・芝2000m)を勝ち、姉や母と同じくG1を3勝している。エネイブルと幾度も対戦して接戦に持ち込んでおり、一族のなかでは最も能力が高い。問題は距離。2000mがベストなので凱旋門賞はやや距離が長い。昨年の凱旋門賞はまだ力を付ける前だったとはいえ10着と大敗している。

 今年は日本馬3頭がチャレンジする。英ブックメーカー、ウィリアムヒルの前売りでは、フィエールマンが17倍、ブラストワンピースが34倍、キセキが67倍というオッズがついている。

 フィエールマンは「ディープインパクト×グリーンチューン」という組み合わせで、母リュヌドールはフランスでマルレ賞(G2・芝2400m)、ポモーヌ賞(G2・芝2500m)を勝ち、イタリアでリディアテシオ賞(G1・芝2000m)を勝った。馬場を苦にすることはないだろう。父ディープインパクトはフランスでビューティーパーラー(仏1000ギニー)、エイシンヒカリ(イスパーン賞)、スタディオブマン(仏ダービー)と3つのG1を含めて重賞を11勝しており、日本の種牡馬のなかでは最も信頼できる。これまで良馬場でしか走った経験はないが、血統的には多少馬場が渋っても問題ない。

 ブラストワンピースは「ハービンジャー×キングカメハメハ」。父ハービンジャーはイギリスでキングジョージ6世&クイーンエリザベスSを11馬身差で圧勝した名馬で、産駒のディアドラは先日のナッソーステークス(英G1・芝1980m)を勝った。洋芝適性の高い種牡馬なのでヨーロッパの馬場は苦にしない。ダンシリの系統は乾いた馬場でこそ力を発揮するタイプなので、多少の馬場悪化はともかく、大量に雨が降った場合は割り引き。

 キセキは「ルーラーシップ×ディープインパクト」。欧州緒戦のフォワ賞(G2・芝2400m)は馬場に戸惑うことなくしっかり走れていた。叩き良化型なので前進が見込める。とはいえ、本番のメンバー構成は前哨戦とは比較にならないほどレベルが高い。スローの逃げでは決め手に優る馬の餌食になるので、昨年のジャパンカップのような消耗戦に持ち込むことができれば活路が開ける。

【栗山求の最終見解】

 エネイブルの3連覇は濃厚だが、4年前、同じく3連覇濃厚といわれた5歳牝馬トレヴがまさかの4着に敗れた。競馬は何があるか分からない。先着を許した3頭のうち2頭は3歳馬。今年、エネイブルに一泡吹かせるとすれば伸びしろの大きい若い力だろう。ジャパンとソットサスの2頭には逆転の可能性がある。

 もちろん日本馬にもチャンスはある。4歳勢のフィエールマンとブラストワンピースは、これまでに挑戦した日本馬とは違い、イギリスのニューマーケットで調教を積んでおり、一発が期待できる。中でも前者は、母がフランス馬で、前走の札幌記念は距離不足だった。スタミナと決め手を併せ持っているのでフランス競馬向きだろう。