カーインライジングの牙城に綻びなし、2着争いは日本勢を含め混沌
昨年の香港スプリントはカーインライジングの世界デビューに注目が集まっていたが、あれから1年が経過し、当時の主役は今や世界最強の絶対的存在にまで成長した。今回は地元の香港勢を含めてほとんどが勝負づけを済ませた相手ばかりで、無事にゴールさえすれば連覇は当確と思われる。
昨年のカーインライジングはZ.パートン騎手がゲートから仕掛けて2番手につけ、1/2馬身差の2着にヘリオスエクスプレス、さらに1/4馬身差の3着にサトノレーヴと詰め寄られる格好だったが、その後の成長には目を見張るものがある。4月のチェアマンズスプリントプライズでは中団から突き抜け、背後でマークする2着のサトノレーヴを2馬身1/4差と寄せつけなかった。
それから4カ月余りを経て始動した今季は初戦で約61kgのトップハンデを課されて楽勝。2着のラッキースワイネスも2023年の香港スプリント覇者で2番目に重いハンデだったが、それより4kg重い斤量で2馬身1/4差と決定的な着差をつけた。そして、豪州のジ・エベレストを快勝し、帰国初戦の前走も他馬より2kg重い斤量で最後の200mを流す楽勝。今がピークか、あるいはまだ奥がありそうな凄味さえ感じさせ、つけ入る隙は見当たらない。
故に焦点は2着争いということになるが、昨年の香港スプリントと4月のチェアマンズスプリントプライズはサトノレーヴとヘリオスエクスプレスの着順が入れ替わっただけ。カーインライジングを負かしに挑むサトノレーヴが粘れるか、力尽きた所にヘリオスエクスプレスが乗じるかという関係にある。
サトノレーヴは今年もスプリンターズSで不発に終わったが、もはやレースの性質が不向きと割り切る以外にない。シャティン競馬場では怪物カーインライジングさえいなければという、歴代の日本馬と比較しても上位の内容を残しているだけに、今回も好勝負の期待はできるだろう。一方、ヘリオスエクスプレスは前哨戦でカーインライジングに4馬身半差をつけられての3着も、展開の助けを必要とする面があるため、サトノレーヴのように王者に対して挑み掛かり、ペースを厳しくしてくれるタイプが加わるのは幸い。昨年も前哨戦3着から2着に前進した。
カーインライジングにとって脅威となる相手がいるとすれば、サトノレーヴやヘリオスエクスプレスよりも、未対戦や対戦経験の少ない馬となるだろう。ウインカーネリアンは展開の鍵をにぎる存在となりそうで、前走のスプリンターズS勝ちだけでなく、アルクオーツスプリント(2着)での国際的な実績からも、前につける形ならカーインライジングにとって捨て置けない存在となるはず。最内枠の王者に対して11番枠は不利だが、16番枠から抜群の発馬で先手を打ったスプリンターズSを再現したい。
ウインカーネリアンが粘って先行勢がもつれる形になれば、英国から遠征のカーデムが一気に台頭してくることもあるだろう。半月後には10歳を迎える古豪だが、昨年までG1クイーンエリザベス2世ジュビリーS連覇、前走のBCターフスプリントでは3着と遠征にも小回りコースにも対応した。右回りに課題を残しているようで、それを克服できるか。
また、前哨戦でカーインライジングの2着に続いたファストネットワークは当時が初対戦。完敗ではあったものの3着のヘリオスエクスプレスに2馬身近く先着しており、J.マクドナルド騎手も2戦目でひと工夫が可能になる。2年前の覇者ラッキースワイネスは今季初戦、前哨戦とカーインライジングに完敗続きだが、それ以外の地元勢に対しては力を見せている。骨折による長期休養から本来の走りを取り戻せていないものの、徐々に良化している気配はあり、2着争いに加わっても不思議はない。
(渡部浩明)