凱旋門賞
2022/10/2(日) 23:05発走 パリロンシャン競馬場
日本調教馬の初挑戦から約半世紀
日本の競馬では掲示板に載ること、すなわち5着以内でゴールすれば善戦の目安とされるが、凱旋門賞における日本調教馬は2013年のオルフェーヴル(2着)とキズナ(4着)を最後に、昨年まで延べ13頭が全て掲示板の外に敗れ去っている。そのうち8頭が10着以下で厳しい状況にあることは否めない。
しかし、今年は従来の史上最多の4頭が一挙に遠征。古馬最強のタイトルホルダーを筆頭に、3歳最強のダービー馬ドウデュース、昨年のフォワ賞勝ちなどで舞台経験・実績を備えたディープボンド、そして重賞2勝をはじめ海外での実績に一日の長があるステイフーリッシュと多士済々の精鋭がそろい、9年ぶりの掲示板は言うに及ばず、優勝争いへの期待もふくらむ。
日本調教馬による凱旋門賞制覇は半世紀を超える悲願となっている。1969年に初挑戦したスピードシンボリは、2年前の1967年秋にアメリカ遠征を経験。帰国して1969年の上半期までを国内で過ごすと、7月のキングジョージ6世&クイーンエリザベスSからドーヴィル大賞を経て凱旋門賞に臨んだ。輸送ノウハウもない時代で現地滞在しながらのチャレンジは、世界の強豪たちの前に力の差を見せつけられて終わったが、スピードシンボリは帰国初戦の有馬記念から翌年の宝塚記念、そして有馬記念とグランプリ3連勝を飾っている。
その後、1972年に挑戦した天皇賞馬メジロムサシも厚い壁に跳ね返されると、3頭目の挑戦は1986年まで年月を要した。スピードシンボリと同じシンボリ牧場の生産で日本ダービーを制したシリウスシンボリは、1985年夏のキングジョージから欧州に長期滞在してドイツやイタリアなど各国を転戦。1986年秋にフォワ賞2着の成果を挙げて凱旋門賞へ駒を進めた。しかし、英・愛ダービー馬シャーラスタニ、地元フランスのベーリング、ドイツのアカテナンゴなど各国のダービー馬が顔をそろえた超ハイレベルの一戦では、ダンシングブレーヴが競馬史に残る豪脚を炸裂させて圧勝。シリウスシンボリは14着に沈み、勝者は史上最高レーティング(当時)を獲得した。
21世紀へエルコンドルパサーの飛翔
日本調教馬の挑戦において大きな転機となったのは、スピードシンボリの初挑戦から30年後、エルコンドルパサーが4頭目の挑戦者として久しぶりに名乗りを挙げた1999年。フランス滞在を選択したエルコンドルパサーは、サンクルー大賞で前年の凱旋門賞馬サガミックス、カルティエ賞年度代表馬ドリームウェルらを撃破して歴史的勝利を手にする。優勝候補の1頭として凱旋門賞に参戦したエルコンドルパサーは不良馬場の中で果敢に逃げ、最後の数完歩で愛・仏ダービー馬モンジューに捕まり1/2馬身差の2着に惜敗したものの、優勝を夢ではなく現実的な目標に変える激走は、日本の競馬関係者に大いなる刺激となった。
20世紀のうちに凱旋門賞制覇の手掛かりを得た日本調教馬は、21世紀を迎えて遠征の頻度を一気に上げていく。滞在から直前の現地入りへと渡航手順も変化する中で、以前は前哨戦での負傷や輸送トラブルなど本番前の不運で結果を残せなかったが、2006年には前年に無敗のクラシック三冠を成し遂げたディープインパクトが遠征。史上最強の呼び声もかかる切り札の参戦によって期待は最高潮に達した。ところが、日本では豪快な差し脚で無敵のディープインパクトが、凱旋門賞では2頭に差し込まれて完敗。レース後には呼吸器系治療薬の違反使用で失格となるまさかの結末を迎えた。
失意の中で現れたゲームチェンジャー
ディープインパクトの挫折により停滞するかに思われた凱旋門賞挑戦だが、思わぬ形で新たな可能性が広がることとなる。2010年のナカヤマフェスタは遠征前の宝塚記念でG1初制覇を飾ったばかりで、実績はエルコンドルパサーやディープインパクトに及ばなかった。しかし、英ダービー馬ワークフォースと激闘を演じた末にアタマ差の2着と、1/2馬身差で敗れたエルコンドルパサーよりもさらに勝利に近づき、適性への認識を高める契機となった。
そして2年後の2012年、ディープインパクト以来の三冠馬で、ナカヤマフェスタと同じステイゴールド産駒という、実績と適性の双方を併せ持つオルフェーヴルが渡仏した。前哨戦のフォワ賞を完勝したオルフェーヴルは、本番の桧舞台でも後方追走から大外を豪快に突き抜けて先頭。勝負ありの形勢に持ち込んだ。ところが、あとわずかという所から急失速し、一度は並ぶ間もなく抜き去ったソレミアに差し返されて2着。手にしたはずの勝利は誰もが目を疑う形で夢と消えた。
翌2013年はオルフェーヴルにダービー馬キズナも加わり最強の布陣で臨んだ。しかし、その前に地元の3歳牝馬トレヴが立ちはだかり、オルフェーヴルは一度も先頭に立てないまま2年連続の2着。キズナも大きな見せ場を作ったものの4着に終わった。ただ、凱旋門賞で2頭以上の日本調教馬が5着以内でゴールしたのはこの1年限り。そうした面では最も成功した凱旋門賞挑戦の例ということもできる。
年 | 馬名 | 性齢 | 着順 | 騎手 | 調教師 |
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2021 | クロノジェネシス | 牝5 | 7 | O.マーフィー | 斉藤崇史 |
ディープボンド | 牡4 | 14 | M.バルザローナ | 大久保龍志 | |
2020 | ディアドラ | 牝6 | 8 | J.スペンサー | 橋田満 |
2019 | キセキ | 牡5 | 7 | C.スミヨン | 角居勝彦 |
ブラストワンピース | 牡4 | 11 | 川田将雅 | 大竹正博 | |
フィエールマン | 牡4 | 12 | C.ルメール | 手塚貴久 | |
2018 | クリンチャー | 牡4 | 17 | 武豊 | 宮本博 |
2017 | サトノダイヤモンド | 牡4 | 15 | C.ルメール | 池江泰寿 |
サトノノブレス | 牡7 | 16 | 川田将雅 | 池江泰寿 | |
2016 | マカヒキ | 牡3 | 14 | C.ルメール | 友道康夫 |
2014 | ハープスター | 牝3 | 6 | 川田将雅 | 松田博資 |
ジャスタウェイ | 牡5 | 8 | 福永祐一 | 須貝尚介 | |
ゴールドシップ | 牡5 | 14 | 横山典弘 | 須貝尚介 | |
2013 | オルフェーヴル | 牡5 | 2 | C.スミヨン | 池江泰寿 |
キズナ | 牡3 | 4 | 武豊 | 佐々木晶三 | |
2012 | オルフェーヴル | 牡4 | 2 | C.スミヨン | 池江泰寿 |
アヴェンティーノ | 牡8 | 17 | A.クラストゥス | 池江泰寿 | |
2011 | ヒルノダムール | 牡4 | 10 | 藤田伸二 | 昆貢 |
ナカヤマフェスタ | 牡5 | 11 | 蛯名正義 | 二ノ宮敬宇 | |
2010 | ナカヤマフェスタ | 牡4 | 2 | 蛯名正義 | 二ノ宮敬宇 |
ヴィクトワールピサ | 牡3 | 7 | 武豊 | 角居勝彦 | |
2008 | メイショウサムソン | 牡5 | 10 | 武豊 | 高橋成忠 |
2006 | ディープインパクト | 牡4 | 失格 | 武豊 | 池江泰郎 |
2004 | タップダンスシチー | 牡7 | 17 | 佐藤哲三 | 佐々木晶三 |
2002 | マンハッタンカフェ | 牡4 | 13 | 蛯名正義 | 小島太 |
1999 | エルコンドルパサー | 牡4 | 2 | 蛯名正義 | 二ノ宮敬宇 |
1986 | シリウスシンボリ | 牡4 | 14 | M.フィリッペロン | 二本柳俊夫 |
1972 | メジロムサシ | 牡5 | 18 | 野平祐二 | 大久保末吉 |
1969 | スピードシンボリ | 牡6 | 着外 | 野平祐二 | 野平省三 |